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第一回、恋火ちゃん素直になろう選手権

「第一回、恋火れんかちゃん素直になろう選手権かいさーい。パチパチパチ」


水萌みなも、最近『第一回』好きだよな」


 水萌の中ではとりあえず『第一回』を付けとけばそれっぽくなると思っているのだろう。


 実際『選手権』の意味がわからないけど、水萌は気にしてないようだし。


「それで何するの?」


「それを考えるのは舞翔まいとくんのお仕事なのです」


「おぉ、すごい丸投げ。ドヤ顔が可愛いから許すけど」


 丸投げのお手本みたいな丸投げをされた。


 要はひねくれ者のレンを素直にさせればいいのだろうけど、俺がそうなように、ひねくれてるやつはそう簡単に素直にならない。


 どうしたものか。


「サキ、可愛いって言うの禁止したよな?」


「それはいつの間にか解除されてた」


「勝手にするなし」


「じゃあ俺の口を頑張って塞いで」


「それって……」


 少し不機嫌だったレンが不自然に黙る。


 なんか頬も少し赤いし、これはまた俺が何か言ったようだ。


「はい、恋火ちゃん『1ひねくれ』」


「なんだよそれ」


「十個貯まったら私が舞翔くんを一日貸し出す権利を貰うから」


「勝手に決めんなし」


「今年中に貯まらなければ大丈夫だからいいじゃん。それともすぐに貯まっちゃうから駄目?」


 水萌はレンの扱いに慣れている。


 だからレンが怒って正常な判断ができなくなるギリギリのラインの怒らせ方をわかっている。


 それだけ怒らせたとも言えるけど。


「は? 今日一日ぐらい余裕だから」


 だからこうしてレンを乗せるのが上手い。


「じゃあ頑張って。できなかったらほんとに舞翔くんを一日借りるから」


「一日と言わず三日でも貸してやるよ」


「そこで二日しか足さないあたり、恋火ちゃんもギリギリ理性があるんだよね」


「そこで煽らないところで水萌が変なことを考えてないのがわかるんだよな」


 結局この姉妹は喧嘩ができない。


 お互いのことがわかりすぎてて、どこが相手のボーダーラインかわかってしまう。


 だからそこを超えないようにいつも喧嘩をしている。


 多分本気の喧嘩になったら俺が止めるのもわかっているのだろう。


「あ、もしかして『選手権』って、恋火さんを素直にさせた人が勝ちってやつ?」


「え? ……そう、それだよ、よくわかったねありすちゃん。ありすちゃんにはご褒美になでなでしてあげよう」


 適当に言ったことに対してそれっぽい説明をくれた愛莉珠ありすに水萌がありがとうの意味を込めて頭を撫でる。


 愛莉珠が嬉しそうだから別にいいけど、なんかずるい。


「先輩、知らぬが仏って言葉があるんだよ」


「愛莉珠、都合がいい女にはなるなよ?」


「先輩のだったら喜んでなるよ?」


「じゃあ俺が困ったらレン達の対応頼むな」


「先輩にできないことがありすにできるわけないじゃん」


 なんとも都合がいい女なのか。


「それじゃあ舞翔くんとありすちゃんも恋火ちゃんを素直にさせよー」


「ありすやりたいことある」


「嫌な予感しかしないけど、何?」


「先輩、お耳貸してー」


 愛莉珠が立ち上がってテケテケと俺の隣にやって来てちょこんと座る。


 そして俺の耳をはむる。


「やると思ったよ」


「あれ? 反応が薄い。やられすぎて慣れちゃった?」


「そんなにやられてないから。普通にくるのわかってたら驚かないだろ」


「やられてることは認めるんだ。それでもありすみたいな可愛い子にお耳をはむはむされたら嬉しくて涙流してもいいんじゃない?」


「そうだな、ありすが将来性悪にならないか心配で涙が出そうだよ」


 愛莉珠のこれがわざとやってるのはわかってるから、愛莉珠の将来は別に心配してないけど、何かの間違いで愛莉珠が悪い子にならないか心配になる。


 まあもしも本当にそうなっても、俺達が絶対に止めるから大丈夫だとは思うけど。


「先輩のそういうところ大好き」


「ありがと。それで?」


「反応薄いんだから。あ、そういうことか。わざと薄く反応して恋火さんに嫉妬させないように配慮してるのね」


 別にそんなことはしてない。


 ただ、愛莉珠に対してちゃんとした反応をするとどうせ性格が変わってしまう。


 どっちの愛莉珠も好きだけど、こっちのめんどくさい愛莉珠の方が扱いが楽だからそうしてる節はあるかもしれない。


「先輩がありすの扱いが雑な件について」


「信頼が重すぎてごめん」


「そう言えばありすが喜ぶと思ってー」


 愛莉珠が嬉しそうに俺の腕に絡みつく。


 なぜ?


「そこは叩くとかじゃないの?」


「だめ?」


「はいはい、可愛い可愛い」


「むぅ、いつか本気にさせてやるんだから!」


 愛莉珠が頬を膨らませて俺を睨んでくるが、ほんとにやめて欲しい。


 今もレンからの視線が痛いし。


「仕方ない。恋火さんの『2ひねくれ』も貰えたから話してたあげよう」


「あ?」


「恋火さんが怒ったー、怖いよー」


 愛莉珠がわざとらしく俺に抱きつく。


 さっき怒られて気まずくなったのを覚えてないのか。


「これ以上は恋火さんが本気で怒っちゃうらしいのでお話しましょう」


「水萌から聞いたんだ。俺にも教えて」


「舞翔くんは恋火ちゃんをギューってしたら解決するから教えない」


「いいこと聞いた」


 それで解決するなら、今度怒らせた時に試してみることにする。


「似たようなことしてもらうから試せるよ」


「何させる気だよ」


「えっとね──」


 愛莉珠が意味もなく俺の肩に手を置いて耳打ちをする。


 そして最後に俺の耳に息を吹きかけてから離れる。


「やれと?」


「だからもう少し反応してよ。怒ったから絶対にやって」


「はいはい」


 正直乗り気ではないけど、愛莉珠がジト目をやめないので渋々立ち上がりレンの隣に向かう。


「なんだ浮気者」


「……俺はレン一筋だよ」


「今の間と、その……声」


 レンが怒るかと思ったけど、愛莉珠の言う通り「浮気者」と言われたら俺にできる限り最高のいい声? で、レンに俺はレンだけしか見てないことを伝えると、レンが頬を少し赤くして困惑しているように見える。


 まあ俺がいきなり変な声で普段言わないようなことを言えば困惑するだろうけど。


 それよりもだ。


 愛莉珠から言われたのはこれで終わらない。


「えっと、嫌だったら言ってな」


「声、もどっ……!」


 少し寂しそうなレンを無視してレンを押し倒す。


 そしてレンの耳元に顔を近づける。


「俺にだけは正直になれよ」


「……やば」


 愛莉珠に言われた通りにやってみたけど、どうしても俺の声が変で気になる。


 それにレンも反応がうす──


「ありすの手のひらみたいで癪だけど、知らない」


 その後のことは想像に任せる。


 一つだけ言うと、素直になったレンは色々とやばいので気をつけた方がいいということ。


 それと、さりげなく愛莉珠の名前を呼んだことに喜んだ愛莉珠が参加しに来てレンに返り討ちにあったせいで愛莉珠が気絶した。

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