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初めてのこと

「あ、すごい忘れてた」


「どうでもいいことなろうけど、何?」


 愛莉珠ありすに一通り呆れたところで、愛莉珠がまた俺を呆れさせようとする。


 今度はなんなのか。


「先輩酷い。確かにさっきのはありすがほんのちょっと悪かったかもしれないって思わなくもないこともないけど」


「思ってないのはわかった」


「いじわるさんめ。とにかく、ほんとにすごい大切なことを忘れてたの」


「聞くよ」


「止められる前に先輩のベッドにダイブ!」


 案の定すぎて逆に何も感じない。


 しかも「ダイブ」とか言っておいて、ちゃんと毛布をめくって静かに潜り込んでいるし。


「むむ?」


「どうした?」


「まだ暖かい。もしかしてありすがこうするのわかってたからご褒美?」


「ありすみたいなことをする子って普通にいるんだよ?」


 なぜか俺のベッドに潜り込む子は多い。


 愛莉珠は朝から来ているが、レンと水萌みなもはそれよりも早く来ていて、ひと潜りしている。


 ちなみに一番最初はレンだ。


「言われてみたら先輩の匂いと甘い匂いがある。先輩の匂いだけを味わいたいから今度は一番に来よ」


「なんで俺のベッドに潜り込みたいんだよ」


 別に俺が寝る時に眠れなくなるだけだからいいんだけど、普通は人のベッドなんて使いたくない人の方が多いと思う。


 もう何回聞いたかわからないけど、そんなに俺のベッドを使いたい理由がわからない。


「先輩だって恋火れんかさんのベッドに潜り込んで枕の匂い嗅ぎたいとか思うでしょ?」


「なぜに?」


「あれ? 水萌お姉ちゃんはわかってくれると思いますけど、恋火さんもそうですよね?」


 愛莉珠が毛布から顔だけ出して「オレに振るな」というようなオーラを出していたレンに構わず話しかける。


「私はわかってくれる前提なんだ」


「だって水萌お姉ちゃんはしてそうだし」


「偏見だよ!」


「じゃあしてない?」


「してるー」


 コントかな?


 別にいいんだけど、水萌は俺の枕に顔を押し付けるとそのまま寝て、そのせいで宿題が進まなくなるから最近はベッドに潜るだけにさせている。


 まあそれでもやってるのを見るけど。


「それで恋火さんは?」


「恋火ちゃんはー?」


「うるさい黙れ。そんなことを聞いてる時間があるなら勉強しろ」


「教えてくれたらベッドから下りてちゃんと勉強するけどなー」


「サキ、年下相手に本気でキレたら大人気ないか?」


 レンが引き攣った笑顔で俺に聞いてくる。


「大人気ないって、一歳しか変わらないんだから大人ぶるなよ。というか正直に答えればいいじゃん」


「裏切り者が!」


 別に裏切ってない。


 そもそも隠すようなことじゃないんだから言えばいいものを。


 隠してる時点で認めてるのがわかるんだから。


「つまり恋火さんはむっつりさんと」


「勝手に決めんな!」


「もっとありす達みたいにオープンになればいいのに」


「お前らが隠さなすぎなんだよ……」


 なんかレンに呆れられた気がする。


 隠さないと言うよりかは、隠す必要性がわからないからどれを隠せばいいかわからないだけなんだけど。


「先輩だって好きな人の性癖とか知りたいと思うけどなぁ」


「サキは来るもの拒まずだからなんでも知りたがるよ」


「それもそっか。好きな人限定で先輩は性癖からほくろの位置まで知りたがるか」


「絶対に『ここからここまで』になってないだろ」


 レンに疲れが見えてきた。


 愛莉珠にからかわれているレンを見てると、俺が出会ってすぐの時のレンを見てるようで面白い。


 それだと俺がレンをからかって遊んでたみたいに聞こえるけど、俺はそんなことしてないからなぜかはわからないけど。


「先輩が現実逃避したような気がする」


「気のせい。それはそれとして、ありすはいつまで俺のベッドに入ってるわけ?」


「一生?」


 そう言われたらやるしかないと思って、愛莉珠の被っている毛布をひっぺがす。


「先輩のえっち」


 愛莉珠が自分の体を抱きながら顔だけを俺に向けて言う。


「セオリー通りの言葉をありがとう。他のバージョンは?」


「えっとね、もう、大胆なんだから」


「サキは年下女子に何をさせてんだよ……」


 なんか白い目で見られてるような気がするけど、どうせやるなら完璧にやりたいと思うのはいけないのだろうか。


 レンだと絶対にやってくれないし、水萌の場合は逆に喜びそうだから。


「先輩ってこういうシチュエーションが好み?」


「好みというか、ありすならやってくれるかなって」


「つまり好みと」


「まあレンの逆ギレとか、水萌の逆甘えとは違うから新鮮味はある」


「『逆甘え』って初めて聞いたのに想像できるのなんでだろ」


 それが水萌クオリティだから気にしたら負けだ。


 そんなことを思いながら愛莉珠に毛布をかけ直す。


「あ、ほんとにやりたかっただけなんだ」


「まあ、今日は無理に勉強しなくていいって言っちゃったし」


「真面目だよね。それだからありすも答えたくなっちゃう」


 愛莉珠はそう言ってベッドから下りる。


「恋火さん、ありすみたいな屁理屈ばっかり言う子はこうやって手玉に取ればいいんですよ?」


「自分で言うなよ。オレにサキと同じ対応を求めるな。無理だから」


「恋火さんならできる。ありす以上にめんどくさい先輩の彼女ができるんですから」


 さりげなく俺がディスられたような気がしたけど、気のせいだろう。


 そもそも最近はレンが構ってくれないし。


「先輩拗ねた」


「倦怠期なんだよ」


「あはっ、絶対嘘。ほら、恋火さんが先輩のこと好きすぎて好き避けするから先輩がありすになびこうとしてるよ」


「別に避けてないし、なびこうともしてないだろ。どうせ今日は一緒に寝るんだから我慢しろ」


「そしてベッドで初めてを……」


 ついにレンが動いた。


 愛莉珠は何かを察して俺の後ろに隠れようとするが、俺はベッドを背中に預けているので隠れられない。


 レンに捕まった愛莉珠は俺に助けを求めようとしたが、レンの方が早かった。


「……」


「レン、加減をしろ。ありすは初めてなんだから」


「初めてって言うな。いや、確かにオレが悪かったけど、先にオレをからかったのはそっちだし」


「言い訳しない」


 確かに愛莉珠も悪いけど、それでレンのデコピン(強め)なんて罰としては重すぎる。


 現に愛莉珠は本気で痛かったようで無言で俺の腕に抱きつきながら、泣いている顔を俺の肩に埋めている。


「罰として水萌とベッドで一時間」


「ちょ、待て。それこそ罰としては重すぎだろ!」


「は? 年下女子を泣かせといて、自分は謝って済ませようとしてたのか?」


「いや、そういうわけじゃなくて、せめて別の罰に……」


「水萌、加減はいらないから」


「あいさー」


 俺が水萌を呼ぶと、水萌は元気よく手を挙げて笑顔でレンににじり寄る。


 レンは顔を引き攣らせて逃げようとするが、後ろにはベッドがあり、それは自分からまな板に上がる魚でしかない。


 そして全てを諦めたレンは水萌に捕まり、ベッドに連行された。


 近くに居ると気まずいので俺は愛莉珠をお姫様抱っこで部屋の隅に向かった。


 演技の可能性も少しあったけど、どうやら本気で愛莉珠は痛みを我慢しているようだ。


 そして一時間、俺は愛莉珠をいたわり続けたのだった。

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