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愛莉珠の頭

「終わった、終わったから舞翔まいとくん補給していいよね? する」


「させるか」


 十二月の三十一日、夏休み同様俺の部屋で冬休みの宿題を行った。


 水萌みなもが最後の宿題を終わらせたので一月からはなんのしがらみもなく過ごすことができる。


 レンと水萌は。


「最近舞翔くんの元気がないから私が元気あげるの!」


「水萌のテンションに付き合ってると余計に疲れるんだよ」


「それは恋火れんかちゃんが体力ないだけだもん」


「オレ以上に体力ない水萌に言われたくない。それにサキもオレと対して変わらない」


「恋火さん、詳しく」


 何に食いついたのか、夏休みとは違って一緒に宿題と受験勉強をしていた愛莉珠ありすが目をキラキラさせながらレンに詰め寄る。


「先輩の体力がないことをなんで知ってるんですか? もしかして二人で体力を使う遊びを……」


「してないわ! お前は受験生の自覚を持って勉強してろ」


「先輩、一言どうぞ」


「ありすのことを思うなら静かにしなさい」


「あ、はい……」


 俺はちょっと考え事をしていて心ここに在らずだけど、話を聞いていないわけではない。


 だから話を振られたら返すことはできるけど、水萌には元気がないように見えてしまっているようなので気をつけないといけない。


「考えることを放棄した。ちなみにありすは勉強できる方なの?」


「すぐに割り切れる先輩さすが。ありすは頭良くないよ?」


「自分で言うなよ。うちの高校受けるつもりなんだよな? ぶっちゃけ受かりそう?」


「舐めないで欲し……」


「言わせないからな?」


 愛莉珠の言葉が詰まった瞬間にレンが言葉を挟む。


 見事に釣られた。


「えー、なんて言うと思ったんですかぁ? ありすはぁ、言ってて不安になったから言葉を止めただけですよぉ?」


「サキ、オレはこの娘をどうしたらいい?」


「押し倒せば?」


「おい、そういう考えが一番に出てくるってことは試したのか?」


 レンが俺を睨みながら言う。


 普通にからかうのが好きな子は自分がされることに耐性がないから言ってみただけなんだけど、勘違いで怒るのはやめて欲しいものだ。


 俺が押し倒したことがあるのは……レンしかいないのだから。


「先輩から怪しげな雰囲気が」


「ありす、勉強教えようか?」


「マンツーマン?」


「もちろん」


「やったー、先輩とマウストゥマウスー」


「違うだろ?」


「あ、間違えた。まんつーまんだー」


 そんなわざとらしく間違えなくていい。


 律儀に舌まで出して。


「サキは変わらず堂々と浮気するか……」


「レンはありすがうちの高校来るのが嫌だと?」


「言い方ずるいよな。それなら別にマンツーマンじゃなきゃいけない理由ないだろ?」


「だってレンと水萌が居るとうるさくするじゃん」


 現に今も愛莉珠が勉強していたのに手を止めさせている。


 愛莉珠は息抜きとか言って気を使うだろうけど、それで愛莉珠がうちの高校に受からなかったら話にならない。


「オレの気持ちを考えてはくれないのか?」


「ありすが俺に何かするって? 多分何もしないよ」


「多分だろ? それに……」


 まあレンの心配もわからないでもない。


 何せ今までの行いが悪すぎるのだから。


「先輩がありすを頭の中でいじめた」


「ありす、もしも真面目に俺と勉強するならどんなお願いでも聞く。レンが」


「オレかよ」


「別に俺でもいいけど、いいの?」


「……オレが聞く」


 愛莉珠はいつもふざけているけど、やる時はやる子だと信じているから、別に交換条件なんてなくても勉強をちゃんとする。


 だけどそうしないとレンが心配になるのならそうするしかない。


「だけどオレじゃ満足しないだろ?」


「恋火さんにどんなお願いしてもいいの?」


「いいよ。レンがほんとにどんなお願いでも叶えてくれるから」


「え、それって……」


「サキと別れろってのは聞かないからな?」


 愛莉珠がレンに期待の眼差しを送ると、レンが睨みつけて返す。


 わざとなのか。


「言質取りました!」


「は?」


「レン、どんまい」


「どういうことだよ」


「恋火さんは先輩と別れる以外のお願いならなんでも聞いてくれるんですね?」


「いや、常識の範囲内ならな?」


 なんだかレンが手玉に取られてるようで見てて面白い。


 人をからかうことに関して愛莉珠に勝てるものはいないだろう。


「先輩には負ける」


「うるさい。それでお願いって何にするの?」


「んー、恋火さんに押し倒されるのもいいけど、それはしてもらえるんだよね?」


「そうだな」


「勝手に決めんな!」


 もう言質を取られているレンは無視して、俺も少し考えてみることにした。


 もしもレンになんでもお願いできるとしたら何をお願いするのか。


「先輩はえっちなことじゃないの?」


「それって常識の範囲外でしょ?」


「恋人なんだから範囲内だよ」


「恋人ならお願いの権利を使って頼むことじゃなくない?」


 どんなお願いでも聞くという権利を使わないとそういうことができないのは恋人と言えるのだろうか。


 きっかけにするのはいいと思うけど、少し違和感がある。


「先輩ってほんとに真面目だよね。それなら恋火さんといつでもえっちし放題ってことだね」


「君はほんとに思春期な頭してるよね。止めてる俺が言うのとあれだけど、もう少し勉強にリソース使わない?」


 そういうことに興味が出てくる歳ではあるんだろうけど、もう少し自重して欲しい。


 だけど多分、愛莉珠ぐらい性のことに興味がある方が自然で、一切興味がなく今に至っている俺がおかしいのだろうけど。


「もしかして先輩って……」


「何?」


「なんでもない。さすがに恥ずかしいし、言ったら先輩と恋火さんに引かれる」


 愛莉珠が少し頬を赤くしながら俯く。


 水萌に引かれないと思ってるから、多分卑猥なことなんだらうけど、さすがに俺に聞く勇気はないので深掘りはしない。


 レンはわかったのか、俺をチラチラ見ながら愛莉珠の頭を小突く。


「舞翔くん、どういうこと?」


「俺に聞くな。多分聞かない方がいいやつだから」


「わかった。それじゃあこれどーぞ」


 水萌はそう言ってノートを俺に渡してきた。


 愛莉珠の手元からノートが消えているので、これは多分愛莉珠が勉強に使っていたものだ。


「あ、水萌さん、返して!」


「もう舞翔くんに渡しちゃった」


「悪魔! 魔王! 結局小悪魔!」


 馬鹿にするのか『可愛い』と褒めるのかどっちかにして欲しい。


 まあそれよりも……


「ありす、俺さ、俺達が宿題やってる間もずっと集中して勉強してるの偉いなって思ってたんだよ」


「言い訳する時間はありますか?」


「してもいいけど、俺が納得するかはわからないからな?」


「最後に試します」


「うん。これは何?」


 俺はテーブルの真ん中に愛莉珠のノートを置く。


 そこには確かに文字が書かれている。


 だけど勉強とは程遠い……


「いや、マジで何?」


「私もわかんなかった。私達の名前が書いてあるのはわかるんだけど、そこから線が伸びて、舞翔くんと繋がってるよね?」


「あのですね、ふと気になったのですよ。皆さんの関係図が」


 言われれば関係図に見えなくもない。


 俺から水萌に伸びてる線の途中に『妹(奪い去る?)』と、書いてある。


紫音しおんの『BL担当ダークホース』ってほんとになんだよ」


「だって先輩と一緒のところ見ると男女なんだけど、たまに逆になった時が……」


 愛莉珠が何かを想像したようで、顔を両手で覆った。


 これ以上は聞かない方が俺の精神的にいいと思うので聞くのをやめる。


「うん、とりあえずありすは勉強しような」


「先輩と朝までコース?」


「割と真面目にそれも考えてる」


「あ、色気とか何もない本当に勉強するだけのやつですね、がんばりまーす」


 さすがに今日は大晦日なのでやらないけど、明日からはそうも言ってられない。


 愛莉珠の地頭の良さに賭けて、受験までの残り少ない日数で愛莉珠を受からせると決めたのだった。

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