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お楽しみの次の日

「昨日の夜はお楽しみだったみたいだね」


「楽しかったよ?」


 レンと二人だけのクリスマスイブが終わり、クリスマス本番になった。


 朝からみんながうちに集まって来て、全員が俺の部屋に入り落ち着いたタイミングでよりが案の定のことを言い出したので適当に流す。


「やることやったのか!?」


「それはもう」


「やったのか……」


 いちいちまともに返すのがめんどくさいから適当に返していただけなのに、依が何を想像したのか顔を赤くしている。


「サキ、よりはからかってくるくせに耐性ないんだから気遣ってやれ」


「俺が悪いんだ。依は何を想像したわけ?」


「鬼だな。まあいいけど」


「いくないでしょ!」


 依が始めた会話なのだから責任を取って最後まで話して欲しい。


 そう思って聞いたのに、依は蓮奈れなに抱きついて泣いたフリをしている。


「あそこのバカップルがうちをいじめるよぉ」


「依ちゃんが変なこと聞くからでしょ」


「れなたそだって気になるでしょ?」


「それはもちろん。ちょっとシーツとか確認する?」


 蓮奈がそう言うと、依と二人で俺のベッドに近づいてベッドイン……しようとしたところを紫音しおんに止められた。


 眼力だけで。


「なんだ、紫音くんから凄まじいオーラを感じる」


「振り向くなよ依ちゃん。多分しおくんは笑顔だけど、怖いぞ」


「あれか『僕は我慢してるんだからお前ら調子乗んなよ?』みたいな」


「依ちゃん、お姉ちゃん、ハウス」


「「わん!」」


 紫音の従順なペットの二人が飼い主の元に駆け寄っていく。


 ちゃんと戻って来れた二人の頭を紫音が優しく撫でる。


 なんだろう、紫音からしたら両手に花のはずなのに、ペットをしつけてるようにしか見えない。


「紫音は将来いい調教師になれるよ」


「まーくんが調教されたいのかな?」


「褒めたのに」


 最近、紫音の無邪気な笑顔が怖くなってきた。


 今も紫音は笑顔だけど、その笑顔の裏では俺への憎悪を煮えたぎらせて……


「なんか最近僕のこと馬鹿にしてるよね?」


「気のせいだろ。それよりもそこのハムスターと狐娘のしつけをちゃんとしなさい」


「ハムスターがお姉ちゃんなのはわかるけど、狐娘って依ちゃんのこと?」


 ずっと決めかねていた依を動物例えた時に何になるのか。


 それを今決めた。


 依は狐になった。


「うちは妖狐か。かっこいい」


「勝手にあやかしにするな。依は裏で俺達を助けるから狐なんだよ」


「ん? 狐ってどっちかって言うと人を騙したりするイメージが……って『ごん』かよ!」


 依ならわかってくれると思った。


 小学校で習うものだからみんな知ってるだろうけど、狐は自分のやったことに責任を感じて罪を償おうとする。


 そんなところが依と似ているので依は狐になった。


「じゃあありすちゃんはイタズラ好きな狸になるの?」


「え、可愛くないから嫌です」


 ずっとうちのわんこ担当である水萌みなもと戯れていた愛莉珠ありすが真顔で俺に言う。


 言ったのは依なんだから俺に言われても困る。


「ありすは狸なイメージないんだよな。そんな可愛いもんじゃないし」


「水萌お姉ちゃん、先輩がいじわる言ってくる」


 愛莉珠がそう言って水萌に抱きつきながら俺にジト目を向けてくる。


 確かに今のは俺が悪かったかもしれないけど、それよりも「お姉ちゃん」とはなんだ。


「大丈夫だよ愛莉珠ちゃん。舞翔まいとくんのあれは本心だから」


「お姉ちゃん、それだと助けを求めたありすじゃなくて先輩をフォローしちゃってるから」


「ん? でもたぬきさんよりも可愛いってことじゃないの?」


 最近は愛莉珠とよく絡んでいるせいなのか、水萌の天然が全盛期の勢いを取り戻している気がする。


 これはいい化学反応が起きた。


「駄目だ、水萌お姉ちゃんからしたら全部の動物は可愛いでしかない」


「まずその『お姉ちゃん』の説明よろ」


「ん? だってお姉ちゃんと先輩って兄妹なんでしょ? だったら先輩と結婚する予定のありすのお姉ちゃんになるじゃん」


 この子はサラッと何を意味のわからないことを言い出すのか。


「なるほどな。昨日のはオレへの最後のプレゼントってことか……」


「レンがそうやって突っ込みを放棄すると俺がやらなきゃいけなくなるんだからやめてくれる?」


「いいんだよ、やっぱり若い子……小さい子がいいんだもんな」


「言い換えるな。小さい子ならレンもそうだろうが」


 それどころか下手したらレンの方が愛莉珠よりも小さいまであるかもしれない。


 言ったら怒るから言わないけど。


「言ってるけどね。大丈夫ですよ恋火れんかさん。ありすは第二夫人でいいので」


「ここは日本だから一夫多妻制とか認められないからな?」


「それって形式上はだよね? 要は先輩と恋火さんが書類上は結婚して、その裏ではありすとも結婚してることにすれば解決だよ?」


 愛莉珠がドヤ顔で答える。


 まるで法の裏側を上手くついた天才的な考えとか言いたそうだ。


「えっと、そもそも結婚ってさ、言っちゃえば書類上のものでしかないんだよ? もっと言うと、『夫婦』と『恋人』と『友達』って究極的に言うと『一緒に居たい相手』ってことで全部一緒なわけだし」


 そういう言い方をすると俺とレンの関係が薄くなるような気がするけど、早計だから俺を睨むのはやめて欲しい。


「『友達』と『恋人』って一緒に居たいレベルが違うと思うんだよ。『恋人』の方がレベル高くて、だけど一緒に居たいって気持ちは同じ」


「言い訳続けていいぞ」


「何も喋らなきゃ良かった。続けるけど、『恋人』と『夫婦』って俺からしたら同じなんだよ。関係性の話ね。違うとしたら終わらせ方の難しさだけ」


 夫婦を終わらせる、要は離婚。


 それには色々な手続きやら何やらが必要で、恋人を終わらせるのは両者の同意があればそれで終わる。


 俺からしたら『恋人』と『夫婦』の差なんてそれしかない。


「つまり?」


「だからわざわざ結婚したことにしなくてもずっと一緒に居るのはいいんじゃないかって話」


 愛莉珠が俺の第二夫人になりたいと言うのも、要は大人になっても仲良くしていたいということだろう。


 それならわざわざそんなめんどくさい設定を付けなくても普通に今の関係を続ければいい。


「先輩……」


「そういうのいいからサキに正直な気持ちを伝えて」


「ありすは普通に先輩と『ピー』とか『ピー』みたいなことをしたいから結婚したいんだよ?」


 なんだ、なんか規制音みたいなものが聞こえて愛莉珠の言葉が聞き取れなかった。


 聞き取れなかったけど、俺には聞き返す勇気はない。


「全年齢向けに言うと、昨日の夜の先輩と恋火さんみたいなことがしたい」


「昨日の夜……」


 少し思い返してみたけど、別に特別なことはしていない。


 強いて言うならレンを抱き枕にしたことぐらいだけど。


「嘘、この二人ってバカップルだって聞いたんだけど?」


「誰から」


「風の噂」


 要は依ということだ。


 まあさっきも言ってたし言い逃れはできないだろうから後でレンに説教してもらう。


「ありすちゃん。この二人はバカップルで公衆の面前でキスとか当たり前にするけど、そういうところは健全すぎるお付き合いしてるピュアっ子なの」


 後で怒られるとも知らないで依が前科を積み上げる。


「え、じゃあありすが既成事実とか作ったら奪えるの?」


「お兄様のガードを破れるならね。お兄様ってうち達なら誰でも受け止めるけど、受け止めて抱き殺すタイプだから」


「あぁ……」


 なぜか愛莉珠に呆れられた。


 というか周りのも同じ顔をするな。


「つまり先輩に友達以下にしか思われてないありすに勝ち目はないと」


「そうだね。ぽっと出のありすちゃんに負けたらうち達の立つ瀬もないし」


 なんだかいつも通り俺が入り込めない話になってきたので、何の気なしに外を見た。


「あ」


「ん? うわぁ……」


 俺の声が漏れたのを聞いたレンが外を見ると、露骨に嫌そうな顔になる。


 やっぱり猫は嫌いなんだろうか。


「ごめんな、うちにはコタツないんだよ」


「誰がコタツで丸くなるか」


「わぁ、積もるかな?」


「積もったら帰れないのでお泊まりだ」


「積もるわけないだろ」


 案の定というのか、水萌は喜び、愛莉珠も別の意味で喜ぶ。


 ということで、ホワイトクリスマス会が始まる。

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