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嫌ではないサプライズ

「満足」


「俺の尊厳を代償にレンが満足したなら良かったですよ」


 始めた時間を見てなかったからわからないけど、多分数十分の間レンのおもちゃにされていた。


 レンからの身体的接触は当たり前だけど嫌なわけがないのでされるのは別にいい。


 だけど、なんだろうか、すごい悪いことをしてるみたいな気持ちになる。


「またやらせてね」


「そんな可愛い言い方でやるようなことでもないだろ」


「サキはオレにいじめられるの好きだから嬉しいだけだろ?」


「少し違う。嬉しいのも確かにあるけど、いたたまれなくなるのも確か」


 レンは人前だと自分を抑えているんだと思うのだけど、二人っきりの時はその限りではない。


 そしてさっきのように俺をいじめる? 時は完全に素のレン。


 自分を抑えないのはいいことなんだけど、それで俺をいじめて、身体的接触が増えるのは普通に恥ずかしい。


「サキにもちゃんと男の子できる感覚あったんだな」


「あのね、好きな人に触れられて何も感じない男はいないから」


「……それもそうか」


 今少し間があったような気がするけど、確かにさっきみたいなことを水萌みなも達にやられたらいたたまれなくなる。


 だけどそれはそれで、俺はレンにやられるのと、水萌達にやられるので同じ反応はしないと思う。


 レンが水萌のように人前でも関係なく触れてきたりしくて、水萌が二人っきりの時に一歩引くから絶対とは言えないけど、レンからやられると俺へのダメージは倍増されてる。


「疑う意味の間じゃないよ。オレは基本的にサキの言ってることを信じてないんだけど」


「おい。仕方ないのがわかるからそれ以上は言わないけど」


「わかるんだ。まあそれはいいとして、だからサキがオレだけを特別視してるのはありえないって思ったんだけど、少し考えたらそうなのかもって思ったんだよ」


「してるもんな」


 レンが俺のことを信じるなんて明日は大雪でも降りそうだけど、俺はちゃんとレンを特別扱いしている。


 無意識にではあるけど、レンには反応が違うはずだ。


「うん。オレがしないからわかんないだろうけど、例えばさ……」


 すごい嫌な予感がして身構えたが、実際その予感が的中した。


 レンが俺の袖をつまみながら笑顔で俺を見見上げてきた。


 水萌がよくやるやつだ。


「はっ、チョロ」


 レンが袖を離して、可愛かった笑顔から憎たらしい笑顔に切り替える。


「なんのことだ?」


「水萌相手には笑いかけて頭撫でたりするくせに、オレにやられたら真顔でどういう反応したらいいのかわかんなくなってんじゃん」


「なるだろ。レンが普段じゃ絶対にやらないことしてんだから」


 レンと水萌は双子のくせに性格が全然違うから『水萌の真似をするレン』というのはギャップがすごい。


 だからそんなのいきなりやられたらドキドキするし、無性にに抱きしめたくなるのは仕方ないことだ。


「本能に従ってオレを押し倒せば?」


「していいの?」


「サキがどうオレをいじめてくれるのか気になる」


 レンがニマニマと俺を見てくる。


 なんか調子に乗ってるからやり返したい。


 だけど困ったことに俺はその方法がわからない。


「有識者Yに聞いとけば良かった」


「誰かわかる自分が嫌になるな」


「ちなみにあの子ならレンの嫌がるいじめ方知ってる?」


「知らないんじゃないか?」


 レンが澄まし顔で答える。


 多分だけど、これは知ってるから聞かれたくないやつだ。


 レンが本当に知らない時はもっと興味無さそうに適当に答える。


 だけど今のはそういうのを装ったように見えた。


「明日聞こ」


「サキの考えてることわかるんだからサキにもバレんのかよ」


「そういう原理だったんだ」


「好きな相手の表情ってよく観察してるからわかるみたいなんだよな。まあそれを言うと、ありすさんがやばいんだけど」


 レンが呆れたように言う。


 愛莉珠ありすは俺の考えてることが文字通り全てわかっている。


 読心術でも習得しているのかとも思ったけど、俺以外はわからないらしいし、どれだけ俺のことを観察してるのか。


「俺ってそんなに不審者面してるの?」


「それをオレに……オレ達に聞いてもわからないよ。サキの内面知ったらフィルターかかるし」


 つまりはフィルター無しで見たら不審者と言ってるようなものな気がする。


 まあ愛想が悪い自覚はあるから別にいいけど。


「ぶっちゃけると、心配になる顔はしてるのかな」


「心配?」


「オレがサキと仲良くなる前から見てたのは言ったろ?」


「うん」


「その時のサキって本当に『人生つまんない』って顔してたんだよ。今にして思うとただ何も考えてなくて、表情が死んでただけなんだけど、少し意識すると目が離せられなくなるような顔はしてた」


 レンが優しく笑いながら言う。


 確かにレン達と出会う前の俺は常に『無』で過ごしていた。


 だから顔は今以上に死んでいただろうし、それに加えて常に一人。


 傍から見たらいじめでも受けてるように見えてもおかしくないから、レンのように優しい心の持ち主が目を離せなくなるのはわかるかもしれない。


「でもありすは?」


「バイト先だけじゃん」


「何が?」


「サキが一人になるの」


 レンが真顔で答える。


 確かに寝る時やお風呂の時なんか以外で俺が一人になるのはバイト中ぐらいだ。


 それ以外だと基本的に誰かしら(レンか水萌)と居る。


 だけどそれがなんなのか。


「多分だけど、サキって一人になるとあの時と同じ顔になってるんだと思う」


「あぁ、確かに死んでそう」


 実際に鏡で見たわけじゃないからわからないけど、人と居ることに慣れた俺は、レン達が誰も居ない時は顔が死んでいてもおかしくない。


 そして愛莉珠もレンと同じく優しい心の持ち主だから気にしてくれていたのだろう。


「それも明日聞こうかな」


「明日ね。クリスマスイブはオレに捧げてくれたけど、クリスマス本番は女に囲まれていいご身分だな」


 レンが拗ねたように俺の腕を叩いてくる。


 明日はみんなで集まってクリスマス会をしようという話になっている。


 もちろんここで。


「その言い方だと俺一人が女子に囲まれるみたいじゃないか」


「ほとんどそうだろ」


紫音しおんは可愛い男の子だから。紫音が居る限り俺は女子に囲まれることにはならない」


 真中まなか先輩と知り合って、愛莉珠とも仲良くなって、なぜか俺の周りには女の人の知り合いが増えている。


 このままだと蓮奈れなにまた『ハーレム主人公』の称号を付けられる。


 だけど俺には紫音という男友達がいる。


 紫音が居る限りはハーレムにはならない。


 多分。


「紫音もサキのこと狙ってるから似たようなもんだろ」


「紫音のはネタだろ」


「紫音はガチだぞ。多分水萌の次に本気でサキのこと狙ってる。下手したら同性なのをいいことに一番アタックしてきそう」


 レンは何を言っているのか。


 確かに最近の紫音は俺との距離感がバグってると思う時はあるけど、それは仲良くなった証だ。


 俺は男友達がいた経験がないから知らないけど、多分紫音の距離感は俺が知らないだけで普通なんだろう。


「ほんとみんなでプールとか行けないよな」


「なして?」


「サキと紫音を同じ更衣室に入れたくない」


 レンが俺を睨みながら言う。


 俺を責めても仕方ないだろうに。


 だけど俺としても紫音と同じ更衣室は少しだけ抵抗がある。


 いくら可愛い男の子だとしても、なんか恥ずかしい。


 だから勝手なことだけど、紫音にはプールでラッシュガードを着て欲しい。


「紫音腹黒だからほんとに気をつけないとなんだよな」


「それは否定できないけど、それも紫音のいいところだろ?」


「それはそうなんだけどな。つーか、結局みんなの話ばっかりなんだな」


 レンが呆れたように笑う。


 それは思った。


 一部イレギュラーはあったけど、結局俺達が二人っきりになってもみんなの話しかしない。


 レンは「他の女の話はするな」とか言うけど、俺達の知ってる世界が狭すぎて話す内容なんてみんなの話しかない。


 だから必然と言われたら必然だ。


「明日がクリスマス会だからプレゼントも用意してないし」


「俺だけのプレゼントとかないの?」


「明日渡そうと思ってたから今は無いってこと」


「そういうことか。俺も物は明日渡せばいいと思ってたからないけど、物じゃないものならあるんだよね」


「そうなん?」


 俺がそう言うと、レンが嬉しそうに俺の方を向く。


「レンが喜んでくれるかはわかんないけど、さっき思いついた」


「さっきかい。嬉しくなかったら素直に言うからな」


 そんなことを言われると不安になってやりたくなくなる。


 だけどレンのウキウキしたような顔を見ると後戻りができそうにない。


「じゃあスマホ返して」


「あ、マジで見られたら困るもの入ってたの?」


「そういうわけでもないけど、ちょっと見てて」


 俺はそあ言ってスマホのロックを指紋認証で開く。


 その画面を俺の真隣でレンが覗いてきた。


 ウキウキしたレンの横顔が可愛くないわけがなく、少し見惚れてしまったけど、これは時間をかけるとできなくなるのでさっさとやる。


「スマホ見せといてあれだけど、ちょっとこっち向いて」


「ん? なん──」


 その先の声が紡がれることはなかった。


 声が出るはずだったレンの口を俺が物理的に封じたから。


「特別な日だしね。なんだかんだで俺からはしたことなかったし」


 初めての時はレンからで、それから結構な日が経っているけど、実はあれから一度もしていない。


 頬とかにはしたりしなかったりだけど。


「それでレンはいつまで固まってらっしゃる?」


 そうなるとは思ってたけど、レンが固まって動かない。


「嫌だった……?」


「……す」


 ほんとにさっき思いついただけで、そんなつもりはなかったけど、これはレンがあまり好意的ではなかったサプライズになっている。


 だから嫌だった可能性も十分にあったが、レンからすごい小さい声で何かが聞こえてきた。


「す?」


「違います。嬉しさと恥ずかしさと驚きで頭がぐるぐるになって、抱きしめて欲しいです……」


 レンの頬が少しずつ赤くなって、上目遣いをしながら俺に弱々しく言う。


 そんな顔されたら……


「レン、大好き」


「や、あの、オレも、です……」


 レンを優しく抱きしめたら、レンもゆっくりと抱きしめ返してくれた。


 なるほど、レンは攻めるのが好きだけど、攻められると弱いらしい。


 これからは俺からもっと攻めていこう。


「まあ今は……」


 腕の中のレンを可愛がる。


 それから俺達は……

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