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二人だけのクリスマスイブ

「結局ここに落ち着くんだよな」


「それな」


 真中まなか先輩に再度お礼を伝えてからゲームセンターを後にした俺とレンは、そのままクリスマスデートに乗り出した。


 自称有識者さんに言われた通りのデートプランをなぞろうとしたけど、俺とレンは完全なインドア派なので、終業式とクリスマスイブが重なっている今日に買い物へ行くとか、イルミネーションを見に行くとかはできなかった。


 一応レンにも確認を取ったけど、俺と同じで「二人でのんびりしたい」と言われたのでうちに帰って来た。


「結局レンがご機嫌ななめだったのって、俺がレンをデートに誘わなかったからなの?」


「正確には、せっかくのクリスマスイブだから、サキと二人で過ごしたかったんだよ。だけどなんかサキはいつも通りだし、帰りは二人だったけど、いつものゲーセン行って、なんかオレだけが意識してるみたいでむしゃくしゃしてた」


 レンが俺のベッドに背中を預けて足を左右に振りながら言う。


「要するに可愛い嫉妬ね」


「違うわ。つーか実際サキはその謎の『Aさん』に言われなかったらいつも通りに過ごしてたんだろ?」


 レンには俺がとある子からアドバイスを受けたことは伝えた。


 だけど誰かは教えてないのにイニシャルを当てるなんてさすがだ。


「言って信じられるかわからないけど、少なくとも今日はレンと何かしようかなって思ってたよ?」


「ほんとにかよ」


 レンがジト目で俺を見てくる。


 日頃の行いが悪いから仕方ないけど、今回ばっかりは本当だ。


「何かしたいって決めてたわけじゃないけど、俺とレンって恋人らしいこと全然しないじゃん?」


「サキは他の女の子ことで手一杯だからな」


「それは否定できないけど」


 確かにレンと付き合ってすぐに蓮奈れなと出会い、蓮奈の問題解決に時間を使って、解決してからもアフターケアをするので手一杯になっていた。


 そして蓮奈が大丈夫になったらよりの問題が発生して、最近では愛莉珠ありす


 所々でレンと二人っきりになったりはしてたけど、恋人らしいことはそんなにしていない。


「サキのそういう優しいところを好きになったんだけど、オレをもう少し甘やかしてもいいと思うんだよな」


「そうだよな。だから今日はレンだけを構うって決めたんだよね。それで絶対に絡まないだろうって思ってたありすに口を滑らせてたみたい」


 俺としては話したつもりはないのだけど、愛莉珠はなぜか俺がクリスマスイブでレンに何をしたら喜んでもらえるかを悩んでいることを知っていた。


 あの子の場合は俺の表情を読むのが異常に上手いからそのせいかもだけど。


「それがサプライズデート?」


「そうなるのかな。ありす的にはサプライズができればいいらしくて『普段通りに思わせて、実は色々と準備してました』みたいなのを演出してみた?」


 正直俺もよくわかっていない。


 結果的にレンは喜んでいたけど、機嫌は悪くさせたし、一度最低まで落としてから上げることで普通よりも嬉しくなる効果があったのだろうか。


 俺としてはずっと楽しい状態でいて欲しかったけど、普通ではない俺の考えは今回封印して、自称有識者を信じることにした。


「ぶっちゃけどうなの?」


「嬉しかったかってこと?」


「うん」


「そりゃ嬉しかったよ。あのサキがクリスマスイブにオレと一緒に居たいって思ってくれたんだから」


 レンと一緒に居たいかと言われたらそれは居たい。


 四六時中とは言わなくても、特別な日ぐらいはこうして二人で過ごしたいと思うぐらいには男の子しているつもりだ。


「まあ次からはサプライズとか無しに、普通に誘ってくれるともっと嬉しいけど」


「やっぱり? レンも普通じゃないからサプライズとか好きではないもんな」


「サキほどじゃないけどな。でもありすさんにはお礼言っとかないと」


 やっぱり真面目だ。


 だけどせっかく愛莉珠の名前は出さないようにしてたんだから最後まで隠して欲しかった。


「ていうかいつまでありすをさん付けするの?」


「サキならオレのこと理解してるからわかるだろ?」


「今更変えるのが恥ずかしいと」


「否定はしない」


 やっぱりレンは俺以上にひねくれてると思う。


 それはそれとして、愛莉珠も年上にさん付けで呼ばれることを気にしていた。


 仲良くなりたいけど壁を感じるとも言っていたし。


「レンってありすみたいな子苦手?」


「多分サキの紹介なかったら絶対に近寄らないタイプ」


「なんかわかる。でも、ありすのことは嫌いじゃないんでしょ?」


「そうだな。お礼ついでに呼び方変えるか」


「そうしてあげて。ありす喜ぶから」


 そうは言うが、照れ屋なレンが愛莉珠を目の前にして呼び方を変えられるのか見ものだ。


 多分いざとなったらさん付けするだろうから、俺はそれを温かい目で見ていよう。


「今無性に腹が立ったんだけど?」


「大丈夫? 悩みとかあるなら聞くよ?」


「そうか。じゃあ聞いてくれ、オレの彼氏がオレを馬鹿にして腹が立つ」


「それはその彼氏の愛情表現だから諦めろ」


 的確なアドバイスをしたはずなのにレンに肩を叩かれた。


 なんか理不尽に腹が立ちそうだったのでレンが被っているフードを無理やり脱がした。


「オレの見られたくないもの見て楽しいか?」


「俺にはいいだろ?」


「別にいいけど」


 レンが少し恥ずかしそうに顔を逸らす。


 レンは未だにフードを被り続けている。


 それはレンがフードを被る理由を知る俺と水萌だけの時でもだ。


「やっぱりみんなにはまだ言えない?」


「一生言わないだろうな。なんとなくみんな察してると思うけど、少なくともよりとこのままの関係でいたいうちは言えないよ」


 言われてみたらそうだ。


 レンがフードを被る理由は首元のやけどを隠す為。


 そしてそのやけどを作ったのはレンと水萌の育児代行をしていた依の母親である。


 だから依に話したら絶対に自分を責める。


 そして依に話せないのだから紫音しおんや蓮奈に話すのはフェアでなくなる。


「よりがもう少し図太ければ話すんだけど」


「どんな手を使ってでもレンのやけどを治そうとするよな」


「別にサキが気にしないならオレはいいんだけど。そう言っても聞かないだろうしな」


 依のことだから、もしも他の皮膚があれば見た目は治るとか言われたら迷わずに自分のを差し出す。


 それでレンのやけどがわからなくなったら、依は満足かもしれないけど、今度はレンが責任を感じる。


 だから誰も傷つかない方法はレンが誰にも話さないことになる。


「サキからしたらオレとの秘密があって嬉しいもんな」


「水萌も知ってるけどな」


「マジレスすんな。それにそんなこと言ったら父さん達だって知ってるし」


「まあ俺としては、レンの可愛い顔がいつも見れないのが残念だけど、こうしてたまに見れて、それがほとんど独占状態なのが嬉しいのは事実だけど」


 レンの髪型を知ってる人なんてほんとに数少ない。


 それこそ今のレンなら俺と水萌しか知らないと思う。


 そう考えると俺の独占欲が刺激される。


「レンのフードは眼鏡みたいなものだよな」


「また意味のわからないことを」


「眼鏡を外すと美少女になるって設定よくあるじゃん。レンはフード被ってるとかっこ可愛いけど、フード脱いだら普通に可愛い」


「うっさいわ。オレからしたら違和感しかないし」


 レンが頬を少し赤くしながら自分の髪に触れる。


 男子ほどじゃないけど短い髪は、幼い見た目のレンにピッタ──


「サキ、オレをガキとか考えたろ」


「俺は常にレンを可愛いとしか思ってないが?」


「そういえば今日は邪魔が入らないんだっけ」


 レンが満面の笑みで俺を見てくる。


 とても可愛いけど、これはそういうやつではない。


「あ、やばいやつだ。今から水萌呼んだら助けてくれるかな?」


「サキ、スマホ」


「レンよ、彼氏のスマホを管理する彼女は嫌われるらしいぞ」


「オレを嫌いになるのか?」


「は? ならないけど?」


「じゃあ出せ」


 どうせやるなら最後までやって欲しい。


 一瞬頬が緩んで怖さが消えてしまったじゃないか。


「中身見るなよ?」


「え、見られたくないもの入ってるの?」


「レンへのサプライズリストが……」


「無いんだな。別に見ないから安心しろ。どうせ見てもサキが困ることなんてないんだろうし」


 なんかさりげなく馬鹿にされた気がする。


 確かに俺のスマホには特に見られて困るもなはない。


 前に撮ったレンの可愛い写真も消されたし、ちゃんと見られたくないものはパスワード付きのところに隠してあるから見れないだろうし。


「じゃあ始めようか」


「お手柔らかに」


「今日は二人っきりなんだよなぁ」


「俺がいつもどれだけ水萌に助けられてたかやっと理解したよ。明日は目一杯感謝を伝えないと」


「他の女のことを考える余裕があるみたいだな。その余裕があるうちは手を抜かないからな?」


「……明日気まずくならないようにしてよ?」


「善処だけしてやるよ」


 レンが絶対にしない約束をして、レンからの罰が始まった。


 内容はもちろん言えない。


 服は着てたからギリセーフ……だよね?

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