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ご機嫌ななめの理由

「レン」


「うるさい話しかけるな」


 レンと久しぶりの放課後デートで出禁寸前のゲームセンターにやって来て、いつも通りレンと格闘ゲームをしている。


 今日は終業式があって明日から冬休みになる。


 水萌みなもがいつの間にか仲良くなっていた愛莉珠ありすのところに行くと言っていたので、久しぶりにレンと二人で帰ってみた。


「ガチ過ぎるだろ」


「だからうるさい。今日は勝ち越すんだよ」


「既に俺の五勝一敗の状態で?」


「煽んな。これから五連勝すんだよ」


 別に今回は賭けとかしてないのだからそんなに真剣になる必要もないと思う。


 まあレンが負けず嫌いなのは今に始まったことではないし、そんなレンを見てるのは好きだからいいんだけど。


「ちなみに勝ちたい理由とかあるの?」


「……あるけど教えない」


「じゃあ俺がここから五連勝したら教えろよ?」


「舐めんな」


 そうして必要なかった賭けが追加され、死闘の結果俺が五連勝を達成した。


 今は拗ねたレンと一緒にゲームセンターの中を無意味に周回している。


「……」


「拗ねんな。可愛いだけだから」


「うっさいばか」


 レンから久しぶりに本気の殴りをいただきました。


 変わりなく痛い。


「そんなに何か俺にさせたかったの?」


 俺は痛むお腹を擦りながらレンに問いかけると、レンはそっぽを向いてしまった。


「ご機嫌取りしなきゃか。水萌ならお菓子でも取れば回復すんだけど」


 レンから一瞬殺気のようなものを感じた。


 どうやら今のレンは言葉選びを間違えると殴られるだけでは済まなそうだ。


「さてと、どうしたらいいと思います?」


 解決法がわからないので、俺は物陰に隠れている不審者な先輩に声をかけた。


「なぜにバレるかね?」


「そりゃずっと見てたら気づきますよ」


「デートの邪魔をしたら悪いかと思って」


 それなら見て見ぬふりをすればいいものを。


 それか普通に話しかけてくれればそれで済んだ。


「まあ別にいいですけど。それで真中まなか先輩は憂さ晴らしでもしに来たんですか?」


「私をなんだと思ってるのかね? 私は来年から地獄の受験期が始まるからせめて今年だけは楽しく終わりたいから来ただけだよ。それと、またしばらく推しに会えないからその憂さ晴らしに」


 そういえば真中先輩は二年生だから来年は受験で大変になる。


 俺はまだそういうことを考えていないけど、やっぱり一年はかけるものなのだろうか。


 だけどなぜか、憂さ晴らしの方が大切なように見えた。


「はぁ、花宮はなみやさんと同じ大学行きたい……」


「そういえば蓮奈れなもなのか」


 俺達はそういう話をあまりしないから忘れていたけど、そういえば蓮奈も二年生で来年は大変な時期になる。


 蓮奈にそういった焦りを感じないけど。


「真中先輩は行くところ決めてるんですよね?」


「うん。別に絶対そこに行きたいとかじゃないから変わるかもだけど、なんとなくは決めとかないと文系の勉強してたけどギリギリに決めて理系が必須とかだと困るじゃん?」


 確かにその通りだ。


 だけどそう言われると余計に蓮奈が心配になってくる。


「蓮奈って進学する気ないのかな?」


「それなら私も進学しないで花宮さんと同じところに就職を……」


「それは違うでしょ」


 多分蓮奈には進学の意思はないだろうけど、それで真中先輩も進学をしないのは駄目な気がする。


 蓮奈と一緒に居たいのはわかるけど、それで真中先輩の将来が狂ったら蓮奈が責任を感じる。


「冗談だよ。普通に『卒業してもよく会うお友達』を目指しますから」


「蓮奈からしたら真中先輩はもう友達だと思いますけどね」


 蓮奈が地獄の修学旅行を乗り越えられたのは九割……いや、十割は真中先輩のおかげだ。


 蓮奈が一人で居たい時は他の人に言って一人にさせてくれたり、班行動の時はずっと蓮奈の隣を歩いてくれたらしい。


 そういう話を蓮奈が少し照れくさそうに話してくれた。


「蓮奈にとっては『地獄』だったかもしれないですけど、『地獄』で済んだのは真中先輩のおかげですから」


「『地獄』なのはいいことなの?」


「だって本当に嫌なら『辛かった』とかもなく、『無』じゃないですか? それに、今も学校に行けてますし」


 本当に辛い時は辛さなんて感じない。


 何も感じないで全てに絶望して、そして何もできなくなる。


 それが初対面の時の蓮奈。


 だから今回の修学旅行で『辛さ』を感じれたのは本当に良かった。


 この『辛さ』は、大人になった時に「あの時は辛かった」的な話ができるやつだから。


「だからありがとうございました。多分蓮奈が壁を作ってるせいですけど、無理やり蓮奈の壁の内側に入り込んでくれて」


「君はほんとにあれだね……」


 真中先輩が呆れたように笑う。


「何か?」


「ううん。花宮さんはいい人と出会えたなーって。よし、そういうことなら冬休み明けたら花宮さんと正式にお友達になろ」


「連絡先教えましょうか?」


「それはいい。お友達を目指すなら直接聞きたいから。それにいきなりは何話していいかわかんないから冬休み中に考える」


 なんか冬休みの全てを使って蓮奈との会話の内容やらを考えそうな勢いだ。


 大丈夫なのか受験生。


「っと、長話し過ぎたね。彼女さんからの圧がすごいや」


 真中先輩がジト目で俺を睨んでいるレンを見て顔を引き攣らせる。


「俺に負けてご機嫌ななめなんです」


「それでも花宮さんのお礼の時は普通だったよ?」


「優しい子なので」


 いくら自分の機嫌が悪くても、蓮奈を助けてくれた真中先輩にはレンも感謝しているはずだ。


 だからそういう話をしてる時は自分の機嫌を後回しにする。


「そういえば私に彼女さん、恋火れんかちゃんだっけ? 恋火ちゃんの機嫌が悪い理由聞いてきてたよね?」


「はい。わかります?」


 気がついたら蓮奈を助けてくれたことに対しての感謝になっていたけど、元々は俺達をストーキングしていた真中先輩にレンが不機嫌の理由を聞きたかったから声をかけた。


「なんとなくはわかるよ」


「多分それが答えです」


「恋火ちゃんが苦労人なのはわかった」


 真中先輩にため息をつかれた。


 俺に常識がないのは今更なんだから他の人がわかって俺がわからないことがあるのは諦めて欲しいのだけど。


「私がわかったのは二つだけど、一つ目は単純に私、というか女子と他の女の子の話をしてるからかな?」


「え、それを言われたら俺が困るんですけど?」


 俺としてはずっと真中先輩にお礼が言いたかった。


 だけど学年が違うし、蓮奈のことでお礼がしたいのに蓮奈に仲介役を頼むのもあれだからとタイミングがなかった。


 だから今回たまたま会えた真中先輩にお礼を伝えた。


 それで女子と話したから機嫌が悪くなったと言われても……


「本質は違うよ。恋火ちゃんも君と同じ気持ちだったろうから、私にお礼を伝えたことが直接の原因じゃない」


「と言うと?」


「今日は何日だい?」


「十二月の二十四日ですけど?」


「それが答えだろうに……」


 真中先輩が呆れたようにため息をつく。


 というか呆れている。


「今日は十二月の二十四日、つまりクリスマスイブだね?」


「はい」


「君達が普段どんな恋人関係なのかは知らないけど、彼女持ちのクリスマスイブは彼女と過ごす日。それでなぜにゲーセンに来る……」


 真中先輩が頭を押さえる。


 レンは未だに拗ねているし、やっぱりわからない。


「だってこういうのはサプライズがいいんですよね? 普段と変わらないようにしてて、いきなりそれっぽくするのがいいって《《とある自称有識者》》から聞いたんですけど」


 俺だって今日がクリスマスイブで、クリスマスイブが恋人と過ごす日だというのは知っている。


 正確には聞いたから知っている。


 だからその自称さんからクリスマスイブの正しいデートの仕方のアドバイス受けた。


 その第一段階が『いつもと変わらないデート』だ。


「俺達って普段デートとかしないけど、付き合う前なら放課後デートでここに来てたし、いいかなって思ったけど、違った?」


「え、つまりこの後にデートプランがあると?」


「はい。まあ、全部聞いた情報で作ったプランですけど」


 水萌が今日ついて来なかったのも、その自称さんが何かしたのかもしれない。


 なんだか全部手のひらの上みたいで癪だけど、最終的にはレンが絶対に喜ぶらしいから俺はやる。


「でも、レンの気分が乗らないなら帰るけ……ど?」


 いきなりレンが俺の背中を小突いてきた。


「先に言え、ばか」


「機嫌直った?」


「うっさいばーか」


 レンからの理不尽な頭突きを受けた。


 よくわからないけど、なんかレンが嬉しそうなので良かったことにした。

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