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進みの遅い晩ご飯

「ご飯が冷めちゃうでしょ!」


「レンじゃなく、水萌みなもからの圧でしたか。大変申し訳ございませんでした」


 レンから怒られる覚悟を決めて愛莉珠ありすと共にリビングに来たら、リス顔になっている水萌に怒られた。


 レンにはレンでジト目を向けられているが。


恋火れんかさん。別になにもやましいことはしてないですよ」


「その悪意のある言い方やめろ」


「なんでですか。ありすは先輩と恋火さんが喧嘩しないように事実を話してるのに」


 確かに愛莉珠は事実を話している。


 ただ、変なニュアンスを加えて楽しもうとしてるだけだ。


「別にいいよ。サキはオレの作った晩ご飯を食べるより、ありすさんと話すのが大事だったんだもんな?」


「は? ありすよりもレンの作る晩ご飯の方が大事に決まってるだろ?」


「先輩、そんなマジで言わないでも。ありすのガラスのハートが砕け散る」


「いやいや、ありすのハートは木綿豆腐ぐらいはあるよ」


「微妙に壊れやすいものを言わないでよ。反応に困る」


 俺は愛莉珠が図太い性格だとは思えない。


 だから最初は少し気にしながら会話をしてたけど、最近はそれもやめた。


「ありすって変に気を使われるのも嫌だろ?」


「嫌だよ? でもぉ、先輩には甘い言葉だけかけられたいなぁ」


「俺がそんなの言ってたら変だろ」


「うわぁ、自覚してねぇ」


 愛莉珠が呆れたように俺の頬をつつく。


 呆れているがどこか楽しそうだ。


「ほら、イチャついてないで早く食べるぞ。水萌が本気で怒る」


「水萌さんって勝手に食べ始めるイメージありましたけど、家ではちゃんと待つんですね」


「多分みんなで『いただきます』をしてから食べたいんだと思う。店とかだと俺達って食べに行ってるって言うよりは話しに言ってるから、つまめればいいし」


 水萌は文化祭の時やこの前の俺のバイト先乱入事件の時、そしてその後の愛莉珠の家乱入事件などは一人で料理やお菓子なんかを食べ始めていたけど、普段のこういう晩ご飯や昼休みのお弁当なんかはみんなが食べ始めるのを待っている。


「水萌もいい子だから」


「それは知ってます。水萌さんって欲望に忠実なだけで、とっても優しい人ですから」


 結局俺の周りにはいい子しかいない。


 つまりいい子の水萌はお預けをくらってる今の状態を許して……


「水萌を犬扱いしたのはサキだろ? しつけがなってないから『待て』は中途半端にしか覚えてないぞ」


「さて、みんなでご飯を食べよう。いただきます」


「……ます」


 ご機嫌ななめの水萌に見つめられながら手を合わせると、水萌が弱々しく言う。


 これはあれだ。


「水萌のこういうとこが好きなんだよな」


「サキさ、今日は浮気デーなの?」


「意味わかるだろ?」


「まあ、わかる」


「ありすわかんない」


 絶対にわかっている顔をしているので説明はしてやらない。


 水萌がレンの作った料理が冷めるのを気にしていたことを。


「そゆこと。やっぱり水萌さんは優しいいい人だ」


「ちなみに早く食べないと水萌のご機嫌は更に悪くなるから」


「いただきまーす」


 愛莉珠が元気よくそあ言うと、レンの料理を食べ始める。


 ちなみに今日の献立はご飯と肉じゃがと卵焼きだ。


「あ、美味しい」


「素が出てるぞ」


「え? あぁ……。うわ、美味しすぎる」


 別にわざわざ戻さなくてもいいのだけど、素が出るほど、レンの料理が美味しいということが実証された。


「ありがと。水萌がいるからいつも多めには作ってるけど、今日は肉じゃがで良かったよ」


「いきなりありす連れて来たのはごめんなさい」


「大事な話があるんだろ? いっそ毎日連れて来てもいいくらいだし」


 それは愛莉珠次第だけど、俺もそれは考えた。


 そういうのも含めて今日、話がしたい。


「こんな美味しいご飯が食べられるなら毎日来たいですよ」


「水萌のチャレンジ料理は当たりはずれあるけどな」


「俺は好きだけど」


「サキはなんでも美味いって言うからだろ」


 水萌の料理はレシピ通りに行われない。


 自分なりのアレンジを加えたりして、独創的な料理を作る。


 レンには不評で毎回監視をしてるみたいだけど、俺はどれも美味しいからレンの口出しは最低限にしてもらっている。


「実際食べられないものはなかっただろ?」


「違和感がある程度だけど、それでもオレは普通に食べたいんだよ」


「グルメか」


「うるさい馬鹿舌」


 レンが何か言っているけど、別に馬鹿舌は駄目なことではないと思う。


 なんでも美味しいと思えるのはいいことなはずだ。


 だから蓮奈れなの手料理を早く食べたい。


「手料理か……ふむ、それも必要だよね」


「急にどうした?」


「気にしないで。それとも先輩はやっぱりありすのことが気になって気になって気になって仕方ない? そうだよね、じゃあまずはありすの何から聞きたい?」


 話を逸らそうとしてるのはわかるけど、逸らし方がめんどくさい。


 まあ、愛莉珠には聞きたいことがあるから後で聞くけど。


「ありすに興味津々だねぇ」


「そうな。食べ終わったら色々と話そう」


「……そだね。えっと、先輩だけでも大丈夫?」


 愛莉珠が不安そうな顔でレンを見る。


「ん? あぁ、別にいいよ。水萌のめんどうは見とくから」


「すいません。ありすからの話は二つあるんですけど、一つは先輩だけじゃなくても大丈夫なので、それだけ最初に話してもいいですか?」


「気なんて使わなくていいからな?」


「そういうわけでもないです。多分人様に話すような内容ではないですので、水萌さんと恋火さんがいいなら先輩だけに話しますけど」


「そういう話か。それならありすさんがいいなら聞こうかな。解決するのはサキだろうけど、これからもこうして一緒に晩ご飯食べるなら尚更」


 今回愛莉珠を連れて来た理由をレンには「話したいことがあるから」としか伝えていない。


 すぐに終わるような内容でないから愛莉珠を連れて来たのは伝わっているはずで、後日にしなかった理由もなんとなく察していると思う。


「まあとりあえずは晩ご飯を終わらせてからだな。いつも思うけど、水萌だけが黙々と食べてるの可哀想だし」


 俺達が話していても一切話に入ってこないでずっと食べ続けている水萌。


 いつものことだけど、確かに一人ぼっちみたいで可哀想に見える。


 実際は食べることに夢中で話を聞いていないだけなんだけど。


「二人の時は話しながら食べるんだけどな」


「完全無視なわけでもないだろ。話しかければ一応返すし」


「まあそうなると今度は俺達みたいに食べること忘れるんだけどな」


「食べながら話さないようになっただけマシだよ」


 こうして水萌の話をしていても水萌はこちらを一切気にしたりしない。


 だけど話を振ればちゃんと返事はするのだからすごいものだ。


「水萌、後でありすの話聞いてくれる?」


「ん? うん。つまり今日はみんなでお泊まりってことだね」


「勝手に話を進めるんじゃないよ? 明日は学校だし、寝る場所がないから駄目って言ったよね?」


「じゃあ私だけでいいよ?」


「学校を無視するんじゃないよ」


 水萌が不服そうにほっぺたを膨らませるけど、そもそもお泊まりは水萌の方が無理だったはずだ。


 それは結局どうなったのか。


「最近は舞翔くん成分が少ないと思うのです」


「だから泊まれるようになったと?」


「うん。さすがに一緒にお風呂は駄目だけど」


「それは俺が無理だから。一緒に寝るのが限界」


「いや、それもそれでおかしいことに気付こうよ」


 愛莉珠が呆れたような顔で俺を見ながら言う。


 確かに水萌と一緒のベッドで寝るのは普通に考えたらおかしいのかもしれないけど、一緒にお風呂に比べたらどうしても平気に思えてしまう。


 それに、一緒のベッドで寝るだけなのだから、どうしても駄目と言いきれない。


「そこは常識の違いなのかな。先輩からしたら本当に一緒のベッドで寝てるだけなんだろうし」


「それ以外にないだろ」


「考えないようにしてるのかな。それならすごいメンタルだけど」


 愛莉珠が何やら一人でつぶやき始めた。


 よくわからないけど、水萌がおかわりも済ませて俺のを狙っているので晩ご飯を食べ進めることにした。


 俺の分を水萌にあげて、また体重が減ったらレンに怒られるし。


 そうして水萌が愛莉珠のを狙う前に愛莉珠に晩ご飯を済まさせ、作ってもらったレンに休んでもらって俺達三人で後片付けをしたのだった。

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