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バイトからの帰り道

「せんぱーい、帰りましょー」


「ん、ちょっと待って」


 愛莉珠ありすの住むアパートに遊びに行ってから少し経ち、今日もバイト終わりに愛莉珠を送る日だ。


 帰り支度を済まして愛莉珠と一緒に外に出る。


「遅い!」


「ごめん、待った?」


「ううん、ありすも今来たとこ、と言いつつ一時間は待ったやつ」


「実際に待ってたの五分もないだろ」


 なんだか俺が長い時間愛莉珠を待たせたみたいになってるけど、俺のバイトが終わって片付けをしてるところに愛莉珠がやって来て話し込んだから帰り支度ができなかったのであって、俺は悪くない。


「責任逃れした?」


「ありすと話すの楽しいから時間を忘れるんだよな」


「どうせ他の子にもそう言ってるんでしょ!」


「もちろん」


 確かに愛莉珠と話すのは楽しくて時間を忘れるが、別にそれは愛莉珠に限った話ではなく、レン達も同じだ。


 仕方ないことだから睨まないで欲しい。


「怒ったありすも可愛いでしょ?」


「そうだな。可愛いありす、帰るぞ」


「バカにしたー」


 事実を言っただけで別に馬鹿にしてはいないけど、早く帰りたいので説明はしない。


 どうせしなくてもバレてるのだから。


「バレバレだぜ」


「俺さ、意外とそういうの好きなんだよね」


「男口調ってやつ?」


「そう。言い慣れてない感があると完璧」


「先輩って結構特殊性癖だよね」


 それこそ俺を馬鹿にしている。


 性癖とかではなく、説明はできないけどなんか好きっていうのは誰しもあるはずだ。


 それが今のだっただけだ。


「いいわけー」


 愛莉珠が俺の頬を指でつついて楽しそうに言う。


「楽しそうでなによりだよ。それよりもさ」


「うん。大人しくした方がいいかな?」


「別に大丈夫だと思うからいいよ。ほら、怖くないから出ておいで」


「わんこか何かなの?」


 俺がしゃがんで後ろに隠れているわんこを手招きすると、愛莉珠が不思議そうに聞いてくる。


 確か教えてなかったはずだけど、知っていたことに驚きだ。


「いや、知らないけど。それよりもやっぱりありすを怖がって出てこない?」


「まだ派手な人には人見知りするか。未だによりにも苦手意識あるみたいだし」


「そ、それは、違うやつだし、最近はちょびっとだけ仲良くなったもん!」


 少し離れた電柱の影から可愛いわんこ……ではなく水萌みなもが出てきた。


「おいで、ありすはいい子だから」


「わかってるもん。別に怖がってるとかじゃなくて、その……」


 多分水萌はこういうウェイ系? のような人に苦手意識を持っている。


 俺も、というか俺達全員が言えたことではないけど、水萌は特にそういう人達に囲まれることが多かったから、その分愛莉珠のめんどくさい今の状態が少し苦手なんだと思う。


「そういう感じか。じゃあガッツリ絡んでいくのは逆効果?」


「そうだと思う。だけど水萌もありすのこと自体は嫌いじゃないから、時間の問題だと思うけど」


「それならゆっくりいこ。水萌さんも可愛いから仲良くしたいし」


 水萌は仲良くなるまでに時間はかかるけど、一回仲良くなればこの前のように抱きついたり、距離感が一気に近づく、


「先輩と一緒だね」


「ぶっちゃけ俺達全員そうなんだけどな」


「わかる。ありすは先輩がありすのこと大好きだったから警戒されなかったけど、皆さん壁がある感じする」


 俺を含めてみんな人間関係で何かしらの問題を抱えていた。


 だから俺達は初対面の相手を素直な気持ちで信じることができない。


「水萌さんを含めて、先輩の周りの皆さん全員?」


「人間だしな。内容は本人から許可取って聞いてな」


「そこまで人でなしじゃないもん。だけど、そうなると先輩ってそういう星の下に生まれてるのかね」


 暗くてちゃんとは見えないけど、愛莉珠が自嘲気味に笑ったような気がする。


 なんとなく察してはいたけど、愛莉珠ものようだ。


「ちょっとうち寄って行く?」


「水萌、レンって何してる?」


「んとね、私が『舞翔まいとくんの浮気調査してくるー』って言ったら『行ってら、晩ご飯作って待ってる』って奥さんしてた」


 想像したらなんか可愛い。


 早く帰って「ご飯にする? お風呂にする? それとも……」を聞きたい。


 聞きたいけど……


「いや、別に無理して来なくて大丈夫だよ。大した話でもないし」


「勝手に決めるな。俺には大した話かもしれないだろ。それにありすにとっては大した話だろ?」


 わざわざここで話さないのだから、軽々しく話せる内容ではないということだ。


 それに話の流れ的にそういう話だろうし。


「じゃあ、ありすちゃんを舞翔くんのお家にご招待したら?」


「それでもいいけど、ありすはどっちがいい?」


「えと、恋火れんかさんも居るってことになる?」


 愛莉珠が気まずそうに聞いてくる。


 まだレンが苦手なのかと思ったけど、そういう感じでもないようだ。


「ついでに恋火さん抜きで話したいことがあるんだけど」


「そういうこと。レンは空気が読める子だから大丈夫だと思う」


「そ、それなら先輩のお家に行って、先輩のお部屋で、先輩のベッドに潜り込んで朝まで……」


 愛莉珠がチラチラと俺を見ながら言う。


 暗くなった雰囲気を変えたかったのだろうけど、もう少し内容を考えられないのか。


「明日学校あるだろ」


「学校なかったらお泊まりしていいの?」


「レンに許可取ればいいんじゃない?」


「なるほど。つまり『先輩真人間化計画』の為のお泊まりって言えばいいと」


「計画の悪用してんじゃないよ」


 別にレンだってちゃんと説明したら許してくれると思う。


 愛莉珠の場合は特に。


「私もお泊まりしたい」


「水萌こそレンから許可取らないとじゃん」


「舞翔くんが説得すれば解決」


「しないから。むしろレンが拗ねる」


 普通に拗ねるだけなら可愛いからいいんだけど、俺が水萌を庇って起こるレンの拗ねは、レンがネガティブになるからよくない。


 またレンを泣かせるのは嫌だ。


「じゃあもうありすちゃんを含めてみんなでお泊まりしようよ」


「寝る場所がない」


「みんなで舞翔くんのベッドに」


「四人はさすがに入らない」


「それならお父さんにお布団買ってもらお」


「あの人は水萌が言ったら絶対に買うだろうけど、そこら辺は母さんに許可取って」


 水萌がうちに泊まることは母さんが許しているけど、悠仁ゆうじさんが水萌のお泊まりの為に布団を買ってうちに置くとなるなら、それは母さんに聞いてもらわないと困る。


 悠仁さんのめんどうは俺の担当ではない。


「別にいいって」


「聞くの早いな」


 水萌がスマホの画面を見せてきたので覗くと、水萌が母さんに布団を買って俺の部屋に置いておいていいかを聞いていて、母さんから『いいよ〜』と返ってきている。


 軽いな。


「まあ母さんがいいって言うならいいんじゃない? 悠仁さんが本当に買ってくれるかはわからないけど」


「あ、そっちも買ってくれるって。というか今から買ってくるって」


 水萌が今度は悠仁さんとのトーク画面を見せてくるが、確かに『今から買ってくる』と書いてある。


 悠仁さんが『どんなのがいいとかあるか?』と聞いていて『なんでも大丈夫』と水萌が返しているので、多分相当いいものを買いそうだ。


 こっちは重い(愛が)。


「すごい勢いで話が進んでる」


「俺の周りの大人はすごい人しかいないからな。色んな意味で」


「ほんとに」


 愛莉珠が呆れたように笑っているような気がする。


 だけどどこか寂しそうな、羨ましそうな感じもする。


 どういう感情かはわからないけど、三人でレンの待つ自宅へ帰るのだった。

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