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シャッターチャンス

「え、えと、わ、わた、わたしをど、どうするつもり、ですか……?」


「はい、ありすが怯えるから睨むの禁止」


 いつの間にか現実逃避を終えて俺の隣に居た愛莉珠ありすの全員の集中が集まった。


 そのせいで愛莉珠は怯えて俺の後ろに隠れてしまった。


「睨んではない」


「いじめと同じなんだよ。いじめてる方はいじめてるつもりなくても、やられてる方はそう感じてるの」


「でも、そういうのって周りから見てもいじめてて、いじめてる本人だけがいじめてる自覚ないんだよね」


「そりゃそうだろ。自覚あったらいじめになるんだから」


 だからレンがなんと言おうと愛莉珠を睨んでいたし、よりはそういうのがわかってて睨んでいたのだからギルティだ。


「ありす、さっきも言ったけど、レン達は怖い人じゃないから。だからそんなに強く俺の服握らないで。ちょっと爪が食い込んでで痛い」


 愛莉珠は俺の背後に隠れて俺の服を掴んでいるのだけど、本気で怯えているせいか爪を立てている。


 愛莉珠の爪は別に長いわけではないけど、それでも切羽詰まっている人間の力はすごい。


「ご、ごめんなさいです……。わ、わたしはなんてことを……」


 愛莉珠が俺から離れて土下座をする。


「実はありすってめんどくさいのとおとなしいのだけじゃなくて、細かくするとめっちゃ性格ある?」


 今の愛莉珠を表すなら『ネガティブなありす』になる。


 これは検証が必要かもしれない。


「くだらないこと考えてないで話戻すぞ」


「そうですよ。わたしのことを考えるなんて時間の無駄です」


「レン最低」


「なんでサキって誰とでもめんどくさくなれるの?」


 とんだ風評被害を受けた気がする。


 絶対に今のは俺ではなく愛莉珠がレンの発言の揚げ足を取っただけだ。


 そして明らかにレンが悪い。


「まあ今のはオレが悪いからいいけど」


「レンが非を認めた、だと……」


「サキ、帰ったら『罰』与えるから」


 どうやら俺は選択を間違えたようだ。


 さようなら、俺の楽しかった毎日……


「せ、先輩は、卑屈なクソ陰キャすぎるわたしの為に仲介役みたいなことをやってくれてて、だから、先輩は本気で言ってるわけじゃなくて、えっと、だから、先輩は……悪くないんです……」


 愛莉珠が手を床につけてギュッと握りながら言葉をつむぐ。


 やっぱりこの子はいい子だ。


「抱きしめたくなるぐらいにいい子だろ?」


「すごいわかる自分が嫌だ。オレは怯えられてるから水萌みなも、行っていいよ」


「はーい」


 レンが水萌に言うと、水萌はてけてけと愛莉珠に近づいて「ぎゅー」と言いながら愛莉珠を抱きしめる。


「え?」


「ほら、ありすが戸惑ってるだろ。俺に頭を撫でさせろ」


「今のありすさんはそっちの方が戸惑うだろ。それに戸惑ってる理由の半分はサキだからな?」


 やっぱりレンはレンだ。


 すぐに責任逃れをする。


「ありす、ああいう風な大人になったら駄目だからな?」


「サキ、ほとんどは冗談だったけど『罰』は本気だからな?」


「ご冗談を」


「……」


 レンに無言の真顔で返された。


 どうやら今日は水萌と離れない方がいいらしい。


「今日はありすちゃんのお家にお泊まりするー」


「やめろ、俺を見捨てるな。それなら俺がありすの部屋に泊まる」


「え!?」


 レンからの『罰』が嫌すぎて思わず言ってしまったけど、愛莉珠が許してくれるなら俺は本気だ。


「いや、水萌も駄目だけど、サキは許すわけないだろ」


「それを決めるのはありすだ」


「わ、わたしが決めていいんですか!?」


 なんか思ってた反応と違うけど、このままいけば本当に泊めてくれそうなので黙ってみる。


「サキ、ここで『罰』受けたいか?」


「ありす、ありがとう。俺は運命を受け入れることにした」


「せ、先輩……」


「今までありがとう……」


「先輩、わたし……」


「ちょいまち。寸劇始めるのはいいけど、間の水萌をどうにかしろ。見てて可哀想」


 なんかいい感じに面白い感じになっていたけど、水萌はずっと愛莉珠に抱きついている。


 レンは可哀想と言っているけど、当の水萌は気にした様子はなく、愛莉珠に抱きつくことに集中している。


「あ、冗談だったんですね……」


「俺は本気だったよ?」


「先輩……」


「いや、だから……もういいや」


 どうやらレンからの『罰』は回避できたようだ。


 後で愛莉珠には何かお礼をしなくては。


「ありす、何かして欲しいこと考えといて」


「え?」


「なんでもいいから」


「じゃあ……。いえ、なんでもないです。考えておきます」


 愛莉珠はそう言うと、水萌の肩に顔を埋めた。


 何か俺にして欲しいことがあるのはわかったけど、この場では言えないことなのだろうか。


 いつか聞き出す。


「それでありすさん。そろそろ話聞いていい?」


 レンが愛莉珠に声をかけると、愛莉珠の体がビクついた。


「ふっ」


「サキ、何がおかしい?」


「いやぁ、水萌とありすが抱き合ってるのが微笑ましくて」


「言っとくけど今はしないだけで、帰ったらちゃんと『罰』はあるからな?」


「貴様、騙したな……」


 てっきりそっちも許されたものだと思っていた。


 これは本格的に愛莉珠の部屋に泊まる方法を考えなくてはいけなくなる。


「先輩、大丈夫です。べ、別に恋火さんがこ、怖いとか、そ、そういうの、では……ないです、から……」


「ちょっと待て。オレってそんなに怖いの?」


 愛莉珠が今にも泣き出しそうなのを見てレンが不安な表情で俺に聞いてくる。


 俺からしたら怖いか怖くないかで言ったら可愛いのだけど、確かに今の愛莉珠のように気の弱い子から見たら怖いかもしれない。


「よし、これを機に口調変えよう。お手本は水萌」


「普通に嫌だけど?」


「それは口調を変えるのが? それとも──」


「水萌みたいに喋るぐらいならオレは二度と喋らない」


 そこまでキッパリ言うこともないのに。


 そんな風に言うものだから水萌が膨れてしまった。


「ほら、レン。水萌にごめんなさいしなさい」


「なんでだよ。つーかサキはオレの口調が気に入らないのか?」


「え? 俺はレンが好きだよ?」


「そういうこと聞いてんじゃないわ!」


 頬を赤くしたレンに睨まれた。


 俺は別にレンがどんな口調を使ったところでレンを好きなことに変わりはない。


 だから俺の言ったことは間違ってないはずなんだが。


「惚気はいいから。ありすちゃん、れんれんは確かに無愛想で口が悪いけど、根っこはいい子なんだよ。お兄様みたいに」


「より、最後にサキの名前出せばオレが許すと思ってるのか?」


「えー、うちは事実を言っただけでそういうつもりはなかったんだけどぉ、れんれんがそういう発想するってことは自分でも『許しちゃうかも(はぁと)』みたいに思ってるってこ……早まるな! ありすちゃんが余計に怖がぁぁぁぁぁぁぁ」


 依がせっかくその命を犠牲にレンは怖くないことを愛莉珠に伝えてくれたのに、命を犠牲にしたせいで意味がなくなった。


 だけど依の尊い命を無駄にしたらいけない。


「そこで静観してる二人。レンのいいところを言ってあげなさい」


「お姉ちゃん、バレてるよ」


「さすがは舞翔君だね。祟られたくないから神に触れないようにしてたけど、触れる権利を貰ってしまった」


 こうなったら数打ちゃ当たるだ。


 というか静観なんて許さない。


「そうだなぁ、恋火ちゃんはまーくんと二人っきりだと顔が緩んでとっても可愛いよ。見る?」


「おい、そんなのどこで──」


「見る!」


 紫音しおんは愛莉珠に言ったはずなのに、レンの声を遮って水萌が即座に紫音の前に行った。


「これはねぇ、お姉ちゃんが地獄に行ってて、僕だけがまーくんのお家に行った時なんだけどね。水萌ちゃんがちょうどお手洗いに行ったタイミングで僕もまーくんの部屋を出てみたの。そしたらね」


 そういえば蓮奈れなが『地獄』という名の修学旅行に行ってた時に、依が用事で来れなくて紫音だけが遊びに来た日があった。


 そして俺とレンが変に二人きりになった。


 二人きりになって、レンが俺で遊んでいたような気がするけど、思い返すと確かに扉が少し開いていたかもしれない。


 何をしてたかと言うと、本当にレンが俺で遊んでただけだ。


「恋火ちゃん可愛い!」


「でしょ? 恋火ちゃん、お顔が緩んでとっても可愛いの」


「紫音、今すぐ消すかオレに記憶を消されるか選べ」


「恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。恋火ちゃんが可愛いことはみんな知ってるから」


「そうか、残念だ」


 レンはそう言って紫音に手を伸ばす。


 紫音は抵抗する様子がなく、全てを受け入れるように笑顔でレンの手を……


「恋火さん可愛い……」


 愛莉珠の一言でレンの手が止まった。


「あ、すいません。つい……」


 水萌の後に続いて紫音の元に行っていた愛莉珠がスマホに映るレンを見て思わず呟いたようだ。


 仕方ないことだから謝らなくていいのに。


「ね、恋火ちゃんは可愛いの。怖いって思うのは恋火ちゃんの照れ隠しだから察してあげて」


「先輩にも言われてましたけど、実際にこうして可愛いところを見ると納得です」


「なるほど。レンの可愛いところを写真なり動画に撮っておけばいつでも可愛いレンが……」


「それは話が変わってるよ?」


 つい本音が出てしまった。


 だけどお互い写真が嫌いなのもあって俺達は写真なんて撮らない。


 だけど写真があればいつでも可愛いレンを見れるし、愛莉珠のようにレンを怖がってしまう子にレンが本当は可愛いだけの子だと説明して信じてもらえる。


 いい事を聞いた。


「じゃあこれからはレンを盗撮してけばいいのか」


「お兄様、れんれんの写真を撮るってことは撮られる覚悟はあるってこと?」


「背に腹だろ」


「だって、良かったね」


 依が放心状態のレンに言う。


 だけどレンに声が届いていないのか、それとも普通に依を無視しているのかわからないが反応がない。


「あ、そういうことか。みんな、シャッターチャンス」


 こうして俺はレンの可愛い写真を一枚手に入れたのだった。

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