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意外な特技

「じゃあまずは出会い方から聞こうか」


「……」


 よくわからない裁判が始まり、俺と愛莉珠ありすの話になった。


 なったけど、俺は喋ることが許されていないから聞かれても答えられない。


「サキってそういうとこ律儀だよな。喋っていいよ」


「律儀って言うよりは、レンが怒るから従うしかないだけなんだけど?」


恋火れんかちゃんは怒ると怖いもんねー」


「あ?」


 ほら怖い。


 本気で怒ってるわけでないのは俺も水萌みなももわかっているけど、それでも怒られることは誰だって嫌だ。


「お前らがオレを怒らせることをしすぎなんだよ」


「ただからかってるだけじゃん」


「それを言ってんだよ」


 レンがジト目を向けながら不満をぶつけてくるが、こればっかりは仕方ないことだから諦めてもらうしかない。


「別にいいけどさ。それよりも、ありすさんの話だよ」


「そんなに気になる? 面白い出会い方してないよ?」


 何が気になるのかわからないけど、俺と愛莉珠は普通に出会って普通に仲良くなっただけだ。


 だからレン達が望むような特別な出会い方なんてしていない。


「あのな、サキが出会って間もない人と仲良くなるってだけで気になるものなんだよ。それに加えてありすさんの反応見たら絶対に何かあったろ」


「って言われても、本当に店長の親戚ってことを紹介されて、軽く話したら『この子面白い子だ』って思ったから興味を持っただけだし」


「そこだな。その『軽く』を教えろ」


 一体なんなのか。


 本当に軽く話しただけで、レンが食いつくようなことはないのに。


「そうだな、まず、ありすがめんどくさい方で、なんか楽しそうに俺に絡んできた」


「さっきみたいな感じだよな? それはなんとなく想像できる」


「それで、最初はウザかったけど、なんかたまに違うありすが出てきたんだよ。今のありすな?」


「そういう感じか、それは確かにサキに聞いてもわからないよな」


 ほんとになんなのか。


 さっきまで興味津々みたいに聞いてきたくせに、今度は勝手に納得した。


 だから最初に面白い話はないと言ったのに。


「要はサキがいつもみたいに無意識でありすさんの喜ぶことをしたんだろ?」


「いや、ほんとに軽く話しただけだって」


「大丈夫、これ以上サキに聞いてもサキはわからないの知ってるから。だから本人に聞きたいんだけど……」


 レンが愛莉珠に意識を移すが、当の愛莉珠はさっきからひたすらに折り紙を折っている。


 多分だけど愛莉珠は集中しすぎて俺達の会話なんて聞こえていない。


「話しかけていいやつなの?」


「俺に聞かれても困るんだが? あれなのかね、何かをしながらじゃないと集中できないタイプとか」


「というか、集中すると無意識に手が動くんじゃないのか? それにしたってすごい集中力だけど」


 レンの言う通りで、愛莉珠は多分折り紙を折っているわけじゃないと思う。


 何か別のことを考えているけど、手が寂しいから仕方なく折り紙を折っている感じがする。


 ちなみに折り紙のクオリティはやばい。


「僕って折り紙に詳しくないんだけど、普通折り紙で『龍』って折れるの?」


「多分折り方を調べても素人には折れない。鶴とかなら調べれば折れるだろうけど、龍って鶴の何倍も難しいだろ」


「だよね。それに他にもすごいのたくさん」


 正直愛莉珠の意外な特技に驚いている。


 愛莉珠はこの短時間で『龍』を始め、色んな想像上の生き物を折っている。


 オタク脳のせいでそう見えるだけかもしれないけど、赤い鳥と青い龍、そして緑の亀に白い虎。


 そして黄色いユニコーンのようなもの。


四神ししん麒麟きりんに見えるのは俺だけ?」


「うちもそう見えた」


「あ、私も」


 どうやらオタクには鳥と龍と亀と虎の並びは四神に見えるようだ。


 そしてオタクではないレン達には龍だけが特別すごいものに見えて、他は普通の動物に見えるらしい。


「止まらないな。次は九尾の狐?」


「どこまで折れるのか気になるから止めたくないな」


「うん。でもなんで想像上の生き物縛りしてんだろ」


「普通の動物じゃ満足できないんじゃない?」


 よりは愛莉珠の折った四神に興味津々なようで、それをジッと眺めながら言う。


 確かにこれだけ折れるなら普通の動物は簡単すぎるのかもしれない。


「ちなみにこの中に隠れた特技を持ってる人とかいる?」


「もしも持っててもこのクオリティを見せられた後に言える勇気はないでしょ」


「いや、よくボッチすぎて一人遊びを極めた人とかいるじゃん」


「けん玉とか? うちは家でそういうのやれる雰囲気じゃなかったから」


「オレもかな」


「恋火ちゃんと同じで私も」


「なんかごめん」


 依と水萌とレンの三人は家に居ることが苦痛な幼少期を過ごしていた。


 だから一人遊びはしてても、楽しくはなかったと思う。


 特に水萌は。


「別に今更気にしてないからサキが気にする必要ないからな?」


「そうそう、今が楽しいからいいの」


「うん。私の昔の時間の潰し方は『何もない空間をただ見ること』だけど、それはそれで楽しかったし」


 みんなが優しくて逆に心が痛む。


 だけど水萌の時間の潰し方は俺もやっていたから親近感が湧いてくる。


「なんか違う感情を感じたけど、紫音しおんとかはどうなんだ?」


「んー、僕の場合は友達がいなかったから一人遊びはしてたけど、あそこまで極めたものはないかな」


「普通はそうだよな」


 俺が気を使わないようにとレンが紫音に話を振ってくれた。


 怒ると怖いけど、やっぱり根っこは優しさしか詰まっていないレンなのだ。


「あ、でもお姉ちゃんはあるよね?」


「私に振らないでよ。確かに一人遊びの経験値ではこの中の誰にも負けない自信はあるけど」


 そういえば大本命に蓮奈れながいた。


 紫音が言うには蓮奈は昔から家に引きこもっていたらしいし、この中の誰よりも一人遊びを極めている可能性が高い。


「確かに私は一個だけ特技って呼んでもいいものはあるけど、ありすちゃんの折り紙とは比べ物にならないレベルだし」


「別にありすと張り合って欲しいわけじゃないよ。ちょっと気になっただけだし」


「そうは言っても比べるでしょ、私のは本当に趣味の延長線上で、見せたら少し『おぉ』ってなるレベルだから」


「いや、蓮奈が言いたくないなら言わなくて大丈夫だからね?」


「そう言われると教えたくなるのがひねくれ系ぼっちの私なんだよね」


 まあそうなると思った。


 蓮奈は俺と同じでひねくれているから素直に「教えて」なんて言っても教えてくれない。


 それならこっちが引いて言いたくならせればいい。


「まーくんってお姉ちゃんの扱い上手いよね」


「舞翔君に手玉に取られる蓮奈ちゃんなのです」


「じゃあその蓮奈ちゃんの特技はよ」


「蓮奈ちゃん言うな!」


 自分で言ったのに俺が言ったら怒るとはどういうことなのか。


 確かに怒られるのがわかって呼んだけど、それはそれだから別にいい。


 なんだか蓮奈にジト目で睨まれている気がするけど、蓮奈が諦めたように「さいばんかん」と、書かれた折り紙を手に取った。


 それと「さいばんかん」を書いたボールペンも取って、何かを描き出した。


「一部のオタクの技能だけど、こんな感じ」


「おぉ……」


 蓮奈が一分ぐらいで描いたのは最近、ちまたで話題のアニメキャラだ。


 想像以上に上手くて言葉が出なかった。


「普通に上手いじゃないか」


「ずっと描いてればこれぐらい描けるよ。絵師さんとかと比べたら月とすっぽんだし」


「いや、比べる相手がおかしいだろ。趣味で描いてるんだから十分だろ。それに俺から見たら大差ないように見えるし」


 俺は絵師さんの描いたイラストをあまり見ないけど、素人目で見たなら蓮奈の絵は同じぐらい上手く見える。


「依ちゃんならわかるでしょ?」


「うちに振るか。まぁ確かに絵師さんと比べたらね。だけどお兄様の言った通りで、れなたそのは趣味で描いてるものなんでしょ? 少なくともうちと比べたら上手すぎるんだから自信持っていいと思うけど」


「そうだけどね……」


 どうも蓮奈の歯切れが悪い。


 自分の絵にどこか思うところでもあるのだろうか。


「あ、もしかして──」


 依が何かを蓮奈に耳打ちする。


 すると蓮奈が目を見開いて思い切り首を横に振った。


 一体何を耳打ちしたのか。


「わぁ、すごいお上手」


「だよな」


「はい、わたし、絵とかの芸術的センスが皆無なので尊敬します」


「あのクオリティの折り紙折っといて……いや、ナチュラルに入ってくるな、びっくりするだろ」


 いつの間にか隣に居た愛莉珠が「びっくりしてます?」と、首を傾げながら言う。


 よくわからないけど、これでようやくレンの疑念が解消できる……かもしれない。

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