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全て丸く収ま……

「俺は何を間違えた?」


「向き合い方かな?」


 レンを泣かせてしまった俺は、紫音しおん達に物理的距離を取るように言われた為、水萌みなも愛莉珠ありすのお見合いに参加した。


「向き合い方って言うと?」


「なんて言うのかな、先輩って恋火れんかさんと友達以上恋人以下をやってる感じなんだよね。ちなみに水萌さん達とは友達以上恋人未満ね」


 愛莉珠が壁に背中を付けながら足を伸ばして足の指をグーパーさせながら言う。


 だけど、俺とレンは付き合っているのだから当たり前な気がする。


「今『当たり前』とか思ったでしょ?」


「うん」


「人の恋愛に口を挟むのは良くないんだろうけどさ、付き合ってるのに『恋人以下』がおかしいことに気づかないと」


 愛莉珠がつま先で俺のことを指さす。


 女の子がそんなことをするなと言いたいけど、今は愛莉珠の話の続きが聞きたい。


「ほんとにわかんないんだ。ちなみに水萌さんはわかります?」


「え、私?」


 いきなり話を振られた水萌が戸惑いながらも俺と紫音達に囲まれているレンを交互に見る。


「こう考えるんです。もしも水萌さんが先輩と付き合ったとして、水萌さんと先輩は『友達以上恋人以下』って言われたらどう思うかって」


「恋人以下……。なんとなくわかったかも?」


 水萌が少し寂しそうな顔で俺を見る。


舞翔まいとくん。舞翔くんと恋火ちゃんは恋人さんだよね?」


「うん」


「だから友達以上なのは当たり前なんだけど、その前提はおかしいよね?」


「……あぁ、そういうこと」


 そこまで言われればわかる。


 確かに付き合っているのに『友達以上』から始まるのはおかしい。


 普通は『恋人以上』から始まるはずだ。


「そう、付き合ってるなら恋人以上夫婦未満とかになるはずなんだよね。だけど先輩と恋火さんってどう見ても友達と恋人の間なんだよ」


 愛莉珠の言いたいことはわかる。


 だけどそれは何が──


「いや、駄目でしょ」


「何も言ってないだろ」


「顔に出てんの。あのね、先輩は普通とは違うの」


 すごい真面目な顔で失礼なことを言われた気がする。


 自覚はあるから何も言い返さないけど。


「先輩の周りにはありすを含めて美少女がいっぱいいるでしょ?」


「そうだな」


「それも駄目なんだけど嬉しいから今はスルーするね。それで、恋火さんからしたら彼氏の周りに美少女がたくさん居るってだけでモヤモヤするものなのね?」


「うん」


「それなのにその美少女さん達はみんな先輩のことが好きなわけですよ。もう、恋火さんは気が気ではないわけなのです」


 愛莉珠が正座に座り直して人差し指を立てながら話す。


 だけど水萌達の『好き』はもう──


「恋火さんと付き合ってるから水萌さん達の『好き』は異性としての意味はないって?」


「だから何も言ってないだろ」


「顔に以下略。あのね、先輩は初恋だろうからわかんないだろうけど、一回好きになった相手をそんなすぐに諦められるほど恋愛って簡単じゃないんだよ?」


 愛莉珠が苦しそうな笑顔を浮かべながら言う。


 水萌に視線を向けると、あからさまに顔を逸らされた。


「先輩は恋火さんだけしか異性として見てないのかもしれないけどさ、先輩が水萌さん達に優しくするのを見る度に恋火さんは苦しんでるよ?」


「じゃあ……」


 水萌達に優しくするのはいけないことなのか。


 そう聞きたかったけど、そういうことではないのだろう。


 要は俺のやり方が悪い。


「そうだね。先輩って無意識だろうけど、優しくする時口説いてるんだもん」


「水萌」


「うん、すごいドキドキする」


 そんなはずは無いと信じたかったけど、水萌の感じからそうなんだろう。


 だけどそれに関しては俺だけのせいとも──


「そうなんだよね。だからこその『向き合い方』になるのです」


 さっかからこの子は俺の心を読みすぎな気がする。


 愛想がないことを売りにしていたのに、俺はいつからこんなに顔に出すようになったのか。


「知らないけど、とにかくね、先輩の口説き癖と水萌さん達のチョロさって悪魔的にマッチしちゃってるの」


「口説き癖って……」


「チョロくないもん」


「いやいや、ありすも人のこと言えないけど、水萌さんって先輩に笑顔向けられただけでドキドキするしますよね?」


「するよ?」


「そういうとこですよ。正直先輩だけが悪いとも言えないのが困るとこなんだよね。確かに先輩はタラシだけど、それって先輩の異常な優しさからくるもので、それをやめろって言ったら先輩じゃなくなっちゃうし」


 愛莉珠が顎に手を当てて体を振り子のように振り出す。


「ちなみにだけど、さっきのはわざと?」


「さっきのって言うと、先輩にくっついて恋火さんにイチャイチャしてるのを見せつけたこと?」


「イチャイチャかは知らないけど、それ」


「わざとだよ? 先輩の反応は、まぁ及第点だった。でも結果的には先輩が誤魔化したみたいになって、恋火さんは勘違いして自分を責めちゃったけど」


 愛莉珠的には何か考えがあったのだろうけど、なんてめんどくさいことをしてくれたのか。


 レンに謝って許してくれればいいけど、俺はまだレンがなんで泣いてしまったのかわからないでいる。


 理由もわからずに謝るのは意味がないと、前も言われた気がする。


「及第点取り消し」


「は?」


「なんでありすを怒らないの?」


「怒るところあったか? ありすは俺達の為にやったんだろ?」


「そうだよ? だけど先輩はありすがどういう意図を持ってやったのかわかってないし、それにそんなの関係なく、ありすは先輩の彼女を泣かしたんだよ? それだけでありすを怒る理由には十分だよね?」


 愛莉珠が俺を睨みつけながら言う。


 やっぱりこの子は優しい子だ。


「なんでそうなるのさ……」


「普通はどんな理由があっても彼女を泣かされたらキレるって言いたいんだろ? 今回みたいに俺のせいでも、その原因を作ったありすのことを理不尽に怒るのが当たり前って」


「そうだよ。そうやってどんな子にも優しいから恋火さんは不安に──」


「それはちょっと違うかな」


 愛莉珠が辛そうに俺を責めていると、目元を赤くしたレンが俺の隣にやって来た。


「いきなり泣いてごめん。よくよく考えたらサキがありすさんの下着を見たってやつ、洗濯物とかだよな。そうじゃなくても何か仕方ない理由があったからだろうし」


「洗濯物をチラッと」


「だろうな。サキって小学生だから女子の下着とか恥ずかしくてガン見できないし、そんなサキがありすさんが着てる状態の下着なんて見れるわけなかったのに」


 なんかさりげなく馬鹿にされた気がする。


 俺だって高校生なんだから女子の下着ぐらい……


「想像しただけで恥ずかしがるぐらいだもんな」


 レンがそう言って俺の頭を優しく撫でてきた。


「うるさい、頭を撫でるな」


「やめていいのか?」


「続けて」


「可愛いかよ」


 なんかレンの撫でる優しさが増した気がする。


 とても落ち着く。


「なんで、恋火さんも怒らないんですか?」


「怒る要素ある?」


「だから──」


「だってありすさんはオレ達の関係が壊れることを不安に思ってくれたんだろ? それでオレ達に色々と理解させる為にやってくれたわけで、やっぱり怒るところないじゃん」


 レンの言う通りだ。


 愛莉珠は俺達の為にやってくれたわけで、むしろそんなことをさせた俺達が怒られるべきだ。


「『達』ね……」


「だから俺の心を読むな。それと、レンは悪くないって?」


「いや、『達』だよ」


 レンが笑いながら俺の肩に拳を当ててきた。


 なんだか喧嘩の後に仲良くなる系の漫画みたいだ。


「なんで……」


「ありす?」


「……なんでもないです」


 なんか少し違和感を感じる。


 だけどその違和感が何かはわからない。


 とにかく今は全てが丸く収まったことを喜んで……


「じゃあサキの裁判始めるか」


 と、レンの言葉で現実に戻されたのだった。

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