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間違いの涙

「『買い出しから帰って来たら、なんか修羅場ってた件について』みたいなラノベありそうだよね」


「何その話の展開の仕方が気になるタイトル。タイトル詐欺になりそう」


「意味わかんないこと言ってないで話聞くよ」


 紫音しおん達が買い出しから帰って来たが、今はそれどころではない。


 簡単に言うと、水萌みなも愛莉珠ありすが無言で向かい合って座っているだけなんだけど、なんか雰囲気が重い。


「まーくん、早く説明」


「多分、お互いが人見知りして、話したいけど話せない状態になってる」


「え、お店に居た時は普通に話してたよね?」


「多分、今がどっちかわかんないじゃないかね」


 愛莉珠はさっきまでギャルモードとでも言うのか、とにかくあざとい方の愛莉珠だった。


 水萌からしたらあの愛莉珠とサシで話すのが少し怖いのだと思う。


 だけど愛莉珠に話したいことがあるから向かい合っているけど、愛莉珠の方は多分おとなしい方になっているから自分から話しかけることができない。


 そんな二人だからずっとお見合い状態が続いている。


「まーくんと恋火れんかちゃんはそれを見て楽しんでたと?」


「違うぞ? 俺達は子供の成長を見守る親の気持ちになって見守ってただけ」


「そうそれ」


「物は言いようってこういう時に使うんだね。まあ僕もお姉ちゃんとまーくんがちゃんと話せるように放置したから強く言えないけど」


 放置したと言っても、あれは蓮奈れなが自分で望んだ二人きりだから紫音が自分を責めることはない。


 そして今も水萌が望んで向かい合ってるわけだから俺は自分を責めるつもりは一切ない。


「なんか言い訳された気がする」


「気のせい。それよりもありすのことみんなに説明するよ」


 愛莉珠の『切り替わり』について紫音達に説明をする。


 もちろん愛莉珠から許可は取っている。


 まあ説明と言ってもあざとい性格とおとなしい性格の二つがあることしか俺も知らないのだけど。


「なるほどね。それで情緒不安定みたいになってたんだ」


「そう。なんか外ではあのウザ……いじゃなくて、めんどくさい性格の方で生活するようにしてるみたいだけど」


「言い直せてないけど。でも勝手に変わっちゃうんじゃないの?」


「俺も詳しくは知らないけど、多分素が今のおとなしい方で、めんどくさい方になるのは自分の意思で無理やりなれるらしい」


 だから洗面所に入った時も俺をからかう為に無理やり変わったようだ。


 そして水萌に「お話があります」と言われて連れて来られたのはいいけど、切り替わってしまったようで今に至る。


「じゃあ今も無理やり変われば水萌ちゃんとお話できるんじゃない?」


「ありすも察してるんだよ。水萌がめんどくさいありすが苦手なの」


「そういうことね。じゃあ水萌ちゃんが頑張るしかないんだ」


「そゆこと」


 そう、これは水萌が頑張るしかないことなのだ。


 だから俺達は見守ることしかできない。


「いやいや、お兄様が水萌氏にありすちゃんが今はおとなしい方って伝えれば良くない?」


よりちゃんや、勘のいい子は嫌われるよ」


「そうだぞ。依だって戸惑ってる水萌好きだろ?」


「いや、好きだけど……」


 まあ依の言いたいことはわかる。


 俺が水萌に今の愛莉珠がどちらか伝えればそれで解決することだけど、水萌が自分から歩み寄ったのだから水萌自身に解決してもらいたい。


 決してチラチラと俺に助けを求めてる水萌を見るのが楽しいからではない。


「ねぇ、先輩」


 さっきまで水萌とお見合いをしていた愛莉珠がいきなり俺の背後に立って俺の背中に体を押し付けてきた。


「百歩譲って背後に立つのはいいけど、体を付けるな。余計に驚く」


「人をお化けみたいに言って。そこはドキッとするとこでしょ?」


「気持ち的には暗殺者に背後を取られた気分」


「先輩のハートを握りつぶしちゃうぞ♡」


 愛莉珠が俺の背中側から心臓の辺りに手のひらを当てながら言う。


「可愛い可愛い。それよりも水萌はどうした?」


「ありすの扱い雑じゃない? やっぱり先輩はおとなしい子を無理やり押さえつけるのが好きなのか……」


 愛莉珠が語弊を生むことを言い出した。


 そのせいで蓮奈が目をキラキラさせながら俺の方を見てくる。


 いや、そんな趣味はないから。


「だからそんなことはいいから水萌はどうしたって言ってんの」


「空気が重くなって余計に話しづらそうだったから空気の入れ替えしようと思って」


「それはいいことだけど、それでなんで俺にくっつく?」


「先輩がありすを求めてる気がして」


「別に求めてないけど?」


「即答! あれか、ありすが小さいからか! どうせありすにはあんな可愛い下着はいらないだろとか思ってるんでしょ!」


 めんどくさいとは思ってたけど、愛莉珠のめんどくささを俺は軽く見ていたようだ。


 愛莉珠の放った問題発言のせいでこの場の全員(休憩中の水萌以外)の目の色が変わった。


「サキ、説明しろ」


「何を?」


「わかっててとぼけるのは認めたってことでいいのか?」


「俺、ありすのこと嫌いになりそう」


「ありすのこと好きだなんて大胆。彼女さんの前ではそういうこと言ったら駄目だって」


 愛莉珠が俺の背中を嬉しそうにつついてくる。


 確かに「嫌いになりそう」は逆に捉えれば「今は好き」になるけど、そんなめんどくさい捉え方されると困る。


「サキ、誤魔化してないで早く説明しろ。ありすさんの可愛い下着を見たのか?」


「見たが?」


「うわ、逆ギレだ」


「ありすはもう喋るな。お前は静かに水萌とお見合いしてろ」


「へぇ、そんなこと言っていいんだぁ」


 愛莉珠が気に入ったのかずっと俺の背中をつついている。


 くすぐったいからやめて欲しい。


「ありす知らないよ?」


「何を」


「ありすを邪魔者扱いする先輩には教えてあげなーい」


 愛莉珠はそう言うと逃げるように水萌の前に座った。


 そしてさっきと同じように無言でお見合いを始める。


「なんなんだよ」


「まーくんがだよ?」


「は?」


 紫音がどこか俺を責めるような感じで言うので視線を向けると、紫音だけでなく、蓮奈と依も悲しさのような、寂しさのような、怒りのような、なんと表すのが正解なのかわからない表情で俺を見ていた。


「まーくんはなんで僕達の気持ちを怖いくらいに理解してるのに、好きになった人の気持ちは考えないの?」


「どういう……」


 紫音が複雑な表情のままレンの方を見る。


 俺もつられてレンに顔を向けると、呆然としながら涙を流すレンが目に入る。


 どうやら俺はまた何かを間違えたようだ。

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