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先輩真人間化計画

「お邪魔します」


「い、いらっしゃいませです」


 紫音しおんに言われた『裁判』はどこかに置いておくとして、俺達は愛莉珠ありすの住むアパートの部屋に案内された。


 紫音達は楽しそうに買い出しに言っている。


「な、何もない部屋ですけど、鼻で笑うぐらいで許してください……」


「今度俺の部屋に来な。大して変わんないから」


 このアパートは1Kというやつなのか、玄関とキッチンが一緒になっていて、その先に小さな部屋がある。


 そして見える範囲では物がない。


「せ、先輩のお部屋にお呼ばれなんて恐れ多いです……」


「別に嫌ならいいけど」


「嫌ではないです!」


「なら言ってくれたらいつでも来ていいから」


 まあ来たからといって何もすることはないのだけど、俺の部屋も愛莉珠と同じで物がないことが伝わるならそれでいい。


 何がいいのかはわからないけど。


「サキのはわざとなのかね」


舞翔まいとくんだもん。息を吸うように罪を重ねていくんだよ」


「俺がありすと仲良くすることが罪なら俺は罪人でいいから」


 ほんとになんなのか。


 そんなに俺が愛莉珠と仲良くするのが嫌ならそう言えばいい。


「サキが怒る。紫音以上に怒らせたらやばいやつが」


「ごめんね舞翔くん。恋火れんかちゃんが嫉妬深くて」


 水萌みなもが俺の服の袖をつまみながら弱々しく言う。


「全部をオレのせいにすんな」


「だって実際恋火ちゃんの嫉妬が原因だし、それを舞翔くんに直接言えないのも悪いじゃん」


「うるさい」


「困ったらそれだもん」


 また始まった。


 どうもこの姉妹は仲が良すぎて喧嘩しかしない。


 まあほとんどの理由に俺が絡んでいるような気がしないでもないけど。


「……」


 愛莉珠が無言で喧嘩中の姉妹を眺めている。


「ごめんな。うちのシスターズが」


「いえ、色々とわかったので大丈夫です」


「何を?」


「色々です。それよりも中へどうぞ」


 よくはわからないけど、愛莉珠がいいならいいのか?


 どうせ俺が考えたところでわからないので、愛莉珠の後に続いて部屋に上がらせてもらった。


「手洗いうがいしていいですか?」


「俺に聞く必要ある? というか俺もしたいけどいい?」


「あ、はい。もちろんです」


 喧嘩中のシスターズを放置して愛莉珠と一緒に洗面所に入る。


 そして一緒に入ったことを後悔した。


「……見ました?」


「一瞬」


「素直ですね。すいませんお見苦しいものを見せて」


「いや、見たことに罪悪感は芽生えるけど、普通に男なら喜ぶ人の方が多いだろ」


 言ってることは最低だけど、愛莉珠のような可愛い女の子の洗面所にある洗濯カゴが目に入って嫌がる男子はいないと思う。


「ていうか、今のありすってそういうの見られて平気なんだな」


「あぁ、なんか先輩に変なものを見せた罪悪感の方が強くて」


「お前はもう少し可愛い自覚を持っていいと思うんだけどな」


「そっくりそのまま返します」


 愛莉珠が洗濯物を洗濯機に入れてくれたのを確認してから目を開けると、なんか愛莉珠に呆れられていた。


「先輩は普通にかっこいいんですからあんまり女の子が期待するようなことを言ったら駄目なんですよ?」


「期待とは?」


「そこからなんですね。確かにこれは恋火さんが苦労するわけです」


 愛莉珠がどんどん呆れていっている気がする。


 俺が何をしたというのか。


「わかりました」


「何が?」


「前に先輩が言ってたことです。わたしが全面的に協力するので一緒に頑張りましょう」


「どれ?」


 確かに愛莉珠には色々と話をしているけど、何か協力を求めたことはなかったはずだ。


 悩んでることはあったけど、それも愛莉珠に手伝って欲しいとかの話ではなかったし。


「となると、まずは先輩の考え方の矯正からかな? でもこんな朴念仁をわたしなんかが変えられる?」


「君、さりげなく俺をディスってるね?」


「あ、先輩はもっと本格的に責められる方が好きな人でした? それならわたしも心を鬼にして頑張りますけど」


「それはそれで見たいけど、急にどうしたの?」


「なんかですね、恋火さんが可哀想と言いますか。それでいて先輩も可哀想な感じがしまして」


 聞いてみたけど意味がわからなかった。


 レンが可哀想なのはなんとなくわかる。


 多分俺の行動に満足いってないのは見てればわかるし、レンは最近俺の行動を抑制することが増えてきた。


 だけど俺が可哀想というのはわからない。


「まあ先輩にとってはむしろそういうのが好きだから気にならないかもですけど」


「まるで俺が蓮奈れなみたいだって言いたいようだな」


「蓮奈さんですか?」


「そう。蓮奈ってドM気質だから」


「あ、それはあれですね、類は友を呼ぶみたいな」


 なんかどこかで聞いた言葉だけど、俺は別にいじめられて喜ぶタイプではない。


 だから決して愛莉珠がこうして言葉責めをしてるのも楽しいなんて思ってない。


 少ししか。


「先輩って、気づいてないだけで女の子にいじられるのが好きなんですね」


「なんか色々と問題がある発言やめてくれる?」


「でも、今わたしにいじられてるの嬉しいですよね?」


「それはありすだからだろ?」


「これは矯正のしがいがありそうです。まずはその女の子たらしなお口からですかね?」


 愛莉珠がそう言って俺の唇に人差し指で触れる。


 なんだこの子、今まで以上の面白い……おもしれぇ女になっている。


「ほら、今までのわたしより今のわたしの方が好きって目をしてます」


「実際その通り」


「また言った。その悪いお口を黙らせるには……」


 愛莉珠がそこまで言うと背伸びをして俺の耳元に顔を近づける。


(ありすの唇で塞いだ方がいいのかな?)


 なんだろう。


 愛莉珠にそう囁かれたら寒気がした。


 寒気、で合ってるのかわからないけど、なんか背中がゾクッと……


「変態さん」


「あ、この子やばいわ。つーか戻ってるし」


「あ、バレた」


 どこから変わってたのかはわからないけど、愛莉珠は蓮奈のように『スイッチ』を持っている。


 切り替えのタイミングは愛莉珠自身もわからないらしいけど、レン達と会った時のウザ……個性的な愛莉珠とさっきまでの自分に自信のない弱々しい愛莉珠の二つがある。


 俺はその切り替えを面白いと思った。


 変な意味はなく、どちらの人格も共存してるのが面白い。


 両方とも主人格なようだ。


「やっぱり先輩はこっちのありすが好きかなぁ?」


「まあこっちの方が扱いやすいから、そういう意味では好きかな」


「何それー。まあいいや。それよりも『先輩真人間化計画』を進めてこー」


「真人間て。俺のアイデンティティが無くなりそう」


「そこら辺は気をつけるよ。今の先輩をみんな好きなわけだし」


「それは光栄なことで」


「信じてねー。別にいいんだけどね。そ・れ・よ・り・も♪」


 愛莉珠がすごい嬉しそうにニマニマしている。


 これはとんどもなくろくでもないことを考えている顔だ。


「や、せ、先輩。すぐそこに彼女さんがいるのにそんな……」


 あ、そうい──


「ありすちゃんだけずるい!」


「水萌、多分そうじゃない」


 多分ここはレンが怒って入って来るのが愛莉珠の求めている流れだ。


 なのにレンは全てを察して呆れているし、水萌は「え?」と、水萌しているし。


「これはやっぱり先輩だけじゃないな……」


 なんか背中に嫌な雰囲気を感じるが、見ることができない。


 どうやらこれから行われる予定の『裁判』以上に気にしないといけないことが増えてしまったらしい……

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