自己紹介の末に
「女子会終わった?」
「終わったけど、まずお前らは離れろよ」
俺のことでいつものように話し合っていたレン達の話し合いが終わったようなので声をかけたら、レンに呆れたような顔をむ向けられた。
確かに今も俺の胸の中には愛莉珠がいるけど、俺はさっきから「離れなさい?」と言っているのに、愛莉珠が離れようとしない。
「先輩が毎回『ありす』って呼んでくれるまで離さない」
「それだと一生離れられないじゃん」
「ありすはそれでもいいよ? あ、もしかして先輩はそれが目的でありすの名前を呼ばないのか!」
愛莉珠が嬉しそうに俺の頬つついてくる。
なんでだろうか、無性に本気でデコピンがしたい。
「愛莉珠。これでいいか?」
「ちゃんとひらがなで呼んだ?」
「もちろん。どう聞いてもひらがなだったろ?」
「もっかい」
「愛莉珠」
「なんか漢字っぽくない?」
そもそもひらがなと漢字の違いなんて声でわかるものなのか。
だけど実際俺は漢字のつもりで言っているからわかっているのかもしれない。
「ありす」
「それ!」
「愛莉珠」
「それ違う」
「なんでわかんの?」
俺からしたら言い方を変えてるわけでもなく、ほんとに俺がそう思っているだけ。
なのに愛莉珠には漢字とひらがなの違いがわかる。
「レン、説明」
「オレに聞くなし。オレも聞いてて違いはわからないけど、雰囲気じゃないか?」
「雰囲気とは?」
「サキって人をからかう時楽しそうだから」
とんでもない風評被害だ。
まるで俺が愛莉珠含め、レン達をからかうことを楽しんでいるみたいじゃないか。
否定はできないけど。
「ありす的にはぁ、先輩が離れたくないってことだから漢字で呼ばれるの我慢してもいいけどぉ、やっぱりやだなぁ」
「じゃあ、ありす離れて」
「先輩ってそういうところあるよね。まあそんなところも好きだけど」
愛莉珠がウインクをしながら離れる。
結局のところ俺は愛莉珠の呼び方はどっちでもいい。
愛莉珠が本気で漢字が嫌だと言うならひらがなのつもりで呼ぶけど、多分そこまでの理由はないと思う。
「それでレン達はどういう結論になったの?」
「ん? あぁ、えっとありすさんでいいんだっけ?」
「ひゃい?」
レンが愛莉珠に声をかけると、気を抜いていた愛莉珠が可愛い返事を返す。
「今ので少しわかったかも」
「何をですかぁ?」
「サキがありすさんを気に入った理由」
「もぉ、先輩ったらそういうのはありすに直接言ってくださいよぉ」
愛莉珠がそう言って俺の頬をつつく。
ちょっと笑いそうになってしまった。
「オレ達も大概だよな。サキの反応見てたらその子がどういう子なのかわかるようになってきたんだから」
「舞翔くんが仲良しになってる時点で悪い子なわけないんだもん」
「それはそうだけどさ、ありすさんの『それ』が狙ってるものならサキだって気に入ることはなかっただろうし、狙ったものじゃなくて、何か意味があるってことがオレ達もわかったからこそ、ありすさんのことは嫌いじゃないんだろうよ」
レンがそう言うと、俺の頬をつついていた愛莉珠の手が止まる。
「どうした?」
「……わかってるくせに」
手が止まった愛莉珠に声をかけると、愛莉珠が俺の胸に頭を落とした。
せっかく離れさせたのにまたくっつかれてしまった。
「うち的にはさ、嫉妬深いれんれんがあれを許してることが一番驚きなんだよね」
依がいつものように余計なことを言い出した。
「じゃあ今度よりが本気で落ち込んでサキに寄り添った時は引き離すな」
「大変申し訳ありませんでした」
依がレンに頭を下げて謝罪する。
まあ俺としても許されるかは五分五分だった。
だけどさすがにレンも鬼ではないようで、愛莉珠の心情を察してくれたようだ。
「オレとしては、サキが手を出してないことに感動した」
「言い方よ」
「いやだってさ、サキってすぐに女の頭を撫でたがるじゃん」
「言い方よ」
レンの言う通りだから否定はできないけど、そもそもレン以外の子に触れることを禁止したのはレンだ。
だから俺は愛莉珠の頭を撫でたい欲を頑張って抑えていたのに、そんな言い方されたら我慢する気を無くす。
「だからいいよ? サキの判断で撫でても」
「やっぱ無しは聞かないけどいい?」
「それはサキがオレの機嫌を損ねないようにしたらな?」
つまり落ち込んでいる子の頭を撫でたりはいいけど、なんか可愛いから撫でるとかは今まで通り禁止とのこと。
どういう心境の変化なのか。
「まあいいか。それよりもレン達は自己紹介しないの?」
「だってどうせオレ達のこと話してるんだろ?」
「たくさん聞いてますよ! 恋火さんですよね。先輩の彼女で、先輩のことが大好きすぎて先輩を独占しちゃう可愛い人ですよね?」
愛莉珠が言うとレンに睨まれるが、俺はそんなこと言ってない。
ただ、レンがいかに可愛い子なのかを少し話しただけだ。
「れんれん、会ったこともない子に独占欲強いのバレてるじゃん」
「お前らだってサキと付き合ったら独占すんだろ!」
「証拠がないし。なんならお兄様と付き合ってみて証拠作ってみる?」
「より、ちょっと来い」
「れ、れんれん? 冗談だよ? だからうちの方ににじり寄って来ないで、いや、ほんと、マジで……」
なんか依に助けを求めるような目を向けられた気がするけど、ああなったレンに何かを言えるほど俺は強くない。
だから依に「がんば」と目で伝えた。
「今連れて行かれた人が依さんでしたよね。いい反応をくれて可愛いっていう」
「そう」
「じゃあ私は?」
水萌が椅子から立ち上がって俺と愛莉珠にてけてけと近寄ってきた。
「水萌さんですよね。先輩の妹みたいな存在で、和む可愛さがあるって聞いてます」
「えへへー」
多分「和む」の意味はわかってないんだろうけど、まあそれでも和ませてくれてるわけだから別にいいのだろう。
「それと、紫音さんと、蓮奈さんですよね?」
「うん。それでまーくんは僕のことなんて?」
「可愛い男の子って」
「もう!」
紫音が頬を膨らませて俺にジト目で睨んでくる。
突っ込み待ちだろうか。
「……」
「蓮奈さんはとにかく可愛い子って聞いてます」
「……!」
「一番意味がわからなかったですけど、確かにとにかく可愛い感じですね」
蓮奈の説明なんて『可愛い』以外に何があるのか。
蓮奈は何かしてても何もしてなくても可愛いしかない。
「総じてみんな可愛いって言う先輩は女の敵なはずなんですけど、実際みんな可愛いですし、全員が先輩を好きだから敵にならないんですね」
「うん。ありすちゃんもでしょ? 舞翔くんに本当の自分を好かれちゃったから」
「……」
「あれ?」
愛莉珠が黙ってしまったことを不思議に思った水萌が俺に視線を送ってくる。
「多分そういうのじゃないから気にしないでいいよ」
「あ、そういうこと」
別に水萌が愛莉珠のトラウマを刺激したとかそういうのじゃない。
これはむしろ……
「しぇ、しぇんぱいが私を……」
「な、面白いだろ?」
「確かに舞翔くんが好きそう……」
なぜだろうか、すごい水萌に呆れられた気がする。
というか後ろの紫音と蓮奈、それと少し離れたところでレンと悶えている依からも呆れられているような気が。
一体なんだと言うのか。
まあ、いつものことだから別にいいけど。




