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バイト訪問

「いらっしゃいませ、冷やかしならお帰りください」


「ちゃんと来るの伝えただろ。いきなり帰そうとすんな」


 俺のバイト先にレン達御一行がやって来た。


 確かに紫音しおんの誕生日の時に来たいとは言っていて、数日前から今日来ることは聞いていたけど、全員で来るのは暇なのか?


「お兄様、お仕事なんだからちゃんと接客しないと」


「俺は冷やかしを客だとは思わないからな? もしも俺が冷やかしだと感じたらこれからの付き合いを考えるから」


「そこまで!?」


 よりが驚いているが、当たり前だ。


 俺は遊びでバイトをしてるわけじゃないんだから、真面目に働いてる俺を馬鹿にするような人とは仲良くできない。


「素直なとこは?」


「腹が立って仕事どころじゃなくなるから」


「どっちにしろなんだ。ちゃんとお客様やりまーす」


 あんまり期待はしてないけど、依の言葉を信じることにする。


 実際のところ、俺はそもそも接客をほとんどやらないから不機嫌になったところで客にはバレない。


 今はコミュ障だらけでめんどくさいのが多いレン達が来たから仕方なく出てきただけで、俺は基本的に厨房にこもっている。


「とりあえず座ってていいよ。見ればわかる通りに今は客がいないから」


「飲食店なのは聞いてたからお昼時は避けたけど、普通なの?」


 レンが少し気まずそうに聞いてくる。


「自営業なんてこんなもんって店長言ってた。まあ来る時は来るし、ここも趣味でやってるだけみたいだからそんなに気にしてないみたいだよ?」


「そうなんだ。でも自営業でバイトが雇えるってすごいよな?」


 レンの言う通りで、チェーン店ならまだしも、自営業でバイトを、ましてや高校生バイトを雇えるなんてすごいと思う。


 こんな閑古鳥が鳴いてるのに。


「知り合いとはいえお客様と話し込むな馬鹿」


 俺の悪口が伝わったのか、この店の制服(白いシャツにこの店の名前が小さく書かれている)を身にまとうタバコが似合いそうな女性に頭を小突かれた。


 一応この店の主だ。


「今のはパワハラとモラハラ案件ですね?」


「教育」


「うわ、昭和脳はこれだから」


「減給な」


「物理的なパワハラの後は精神的なパワハラとか、そろそろ本気で辞めようかな……」


「こんなんでパワハラだのモラハラだの言ってたらバイトなんかできないからな?」


 店長が世間の闇をサラッと伝えてくる。


 まあ確かに、酷いところではバイトを人として扱ってくれないところもあるらしいし、それに比べたらこの店はホワイトと言ってもいいかもしれない。


 パワハラとモラハラがある店がホワイトになる日本の将来が不安だけど。


「ほんとに減給してやろうか?」


「不当な減給にはバイトデモを起こします」


「別に下げるのはお前だけだから誰も賛同しないだろ」


「じゃあ低賃金に対するデモで」


「うちは結構バイト代高いから」


「ああ言えばこう言うなんですから」


「お前がだよ」


 またもパワハラをされた。


 これはもう、最近味方につけた店長の弱点とデモを起こすしかない。


「減給はしないからあいつと手を組むのはやめろ。お前らが二人合わさるとほんとにめんどくさい」


「さっきから俺の心を読みすぎでは?」


「わかりやすすぎんだよ。それより早く席に案内しろ」


「店長も口の聞き方変えないとお客様が逃げますよ?」


「ほんとああ言えばこう言うだよな。うちのコンセプトは『来たい人だけ来ればいい』だからいいんだよ。副業で稼いでるし、それに太客もいるから接客は二の次だから」


 それは『お店』としていいのだろうか。


 でも実際こうして俺が働き続けていられるのだから大丈夫なのだろう。


 知らないけど。


「まあ俺は接客なんてしないから関係ないですけど」


「うちはお前みたいなのを雇う店だからな。ぶっちゃけると『いらっしゃいませ』と『ありがとうございました』だけ言えればそれでいいと思ってる」


「何か聞かれたら店長に丸投げですもんね」


「それはお前らがアドリブに弱いからだろ」


「だって接客の仕方なんて習ってないですし」


「教えたらやるのか?」


「やるわけないじゃないですか。それよりも、今更ですけどなんでここにいるんですか?」


 店長はこの時間はいつもやることがないから裏でパソコンをいじっている。


 だから基本的に店に来ることはないはずだ。


「お前のペースにはめられて忘れてた」


「歳ですね」


「お前ほんとに今度家庭訪問するわ」


「来ても母さんいないですから」


「私が言えば無理してでも仕事抜けて来るだろ」


「人としてどうなんですか?」


「未成年のバイトへの文句は親に行くんだよ。嫌ならちゃんとしろ」


「今仕事サボってるのは店長では?」


「さっきの訂正するわ。お前一人でも十分めんどくさい」


 店長が額を押さえながらため息をつく。


 まるで俺が悪いことでもしたかのような反応はやめて欲しい。


「それで親戚の子にお年玉をあげるのが嫌な叔母さんごっこをしてる店長は何をしに?」


「今日ももう少ししたら来るから相手頼んだ。それで用は……」


 店長がさりげなく俺にめんどうを押し付け、その視線がレン達の方に向く。


「ちょっと女子会しない?」


「女子?」


「なんだ?」


「この中に一人男がいる」


「お前ほんとに家庭訪問な?」


「いや、そこの紫音は男子ですから」


 俺が紫音を指さして言うと、紫音が控えめに「男です」と言った。


 それを聞いた店長が綺麗に頭を下げる。


「あ、あの?」


「人を見かけで判断したことに対する謝罪です。大変申し訳ございませんでした」


「い、いえそんな。僕は別に気にしてませんから」


「店長もそういう思い出があるんだと思う。許す許さないは別にして、謝罪は受け取ってあげて」


 店長の見た目は普通に女性だけど、態度と性格が強すぎて男に見える時が多々ある。


 知らないけど、もしかしたら学生時代とかにそういうことでいじられたことがあるのかもしれない。


 この人をいじることができる人なんていないだろうけど。


「なんで俺を見るんです?」


「別に。とにかく、色々と話したいことがあるから、舞翔まいとの作ったものでも食べながら話さない? もちろんお金はいらないから」


「バイトを働かせて店長がサボるってやばくない?」


「じゃあ行こうか。私の知ってる舞翔の話も聞かせてあげるから」


 そんなの誰も興味ないだろ、とか思っていたけど、それを聞いたレン達が全員店長に視線を集めた。


 店長のしたり顔を殴りたい。


 そうして俺が馬車馬のように働いている間に、店長に拉致されたレン達が女子会(女子じゃない人もいるよ、二人ほど)が始まったのだった。

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