浮気ダメ絶対
「疲れたからもう終わりでいいよね?」
「私、まだ自分で書いた命令引いてない!」
色々ありつつも進んでいった王様ゲーム。
色々ありすぎて疲れたので終わらせたかったけど、水萌に否定された。
「そういうゲームじゃないでしょ」
「やーだー」
「そんなにしたい命令あるのかよ」
水萌が俺の腕を掴んで揺すり出す。
命令は一人最大三個まで書いているけど、水萌の命令は既に二つ出ている。
一つは今も続いている、紫音を抱き枕にするものと、二つ目が指定した相手に『あーん』をするかしてもらうというもの。
ちなみに引いたのは依で、番号は俺のものが選ばれ、俺が適当に選んだお菓子を依の口に放り込んだ。
水萌やレンにする時も思うけど、みんな歯並びが綺麗だ。
「でも残ってる紙、後二枚だよ?」
「もう一枚俺のだな。一枚しか書いてないのに残るあたり、俺のぼっち属性が紙にまで移ったのか」
紫音が当たり前のように箱の中を覗くと、確かに残りの紙は二枚だけだった。
今の俺がぼっちなのかわからないけど、数ある中でこうして一枚しかない俺のものが選ばれないのは運命を感じる。
「じゃあ最後までやろうよ。お兄様がうち達にしたい命令とかめっちゃ気になるし」
「確かに。舞翔君が普段私達にどんなことをさせたいって思ってるのか気になる」
俺は依と蓮奈の言い方の方が気になるけど、別に変なことを書いたつもりはない。
ただちょっと禁断症状が出ているからしたいことがあるだけで。
「あえて一つだけ残すっていう方法もあるけど?」
「それで水萌のが残ったらめんどくさいからやった方がいいだろ。帰って拗ねた水萌の相手すんのオレ達なんだから」
「それは確かに」
拗ねた水萌をあやすのは可愛いから別に嫌ではないけど、多分納得するまで結構な時間がかかるのは確実だ。
本気で拗ねた水萌はレンのことは無視で俺のところに来るから、俺があやすことになる。
それはいいけど、そうなると長時間水萌と俺が一緒にいることになって、今度はレンが不貞腐れる。
レンも水萌みたいにあからさまに甘えてくれれば楽だけど、レンは自分が不貞腐れてることを認めないし、だけど俺のことは責めてくる。
正直そっちの方がめんど……可愛いということだ。
「おいサキ、今考えたことを一言一句間違えることなく話せ」
「水萌もレンも可愛いってことだよ」
「それで納得する時期は過ぎてんだよ」
「それな。水萌も最近納得してくれないんだよ。俺は事実言ってるだけなのにどうしたらいいの?」
確かに一言一句ではないけど、要約したらそうなるんだから許して欲しい。
それに本当に一言一句間違えずにそのまま伝えたらレンは怒るんだから言えるわけがない。
「隠し事するんだ」
「レンもしてるんだからおあいこでは? それに俺の場合はしてないし」
「……オレがなにを隠してるって?」
レンの目線が右上に行く。
話してる時に右上を見るのは嘘をついている時だと何かで見たので、どうやら本当に隠し事があるようだ。
これでしばらくは俺がレンに優位を取れる。
「まあ俺はレンに隠し事されてもいいよ? 俺は信用がないから話せないってことだもんな」
「ちが、そんなわけないだろ! ただ、ちょっと、あれなだけで……」
「ねー、僕のお誕生日に痴話喧嘩しないで」
動揺して慌てる可愛いレンを眺めていたら、本日の主役が不貞腐れたように頬を膨らませて俺をジト目で睨んできた。
別に喧嘩ではなく、俺がレンで遊んでただけなんだが。
「まーくんに言っておくと、恋火ちゃんは本気で焦ってたからね?」
「え、俺って浮気とかされてるの?」
今のが本気の焦りなら心配になる。
散々俺に浮気の濡れ衣を着せてきたレンが俺に隠れて浮気をしてたとか結構笑えないんだけど?
「浮気なんてしてない!」
「でも俺には言えないことはあるんでしょ?」
「それは……あるけど」
レンが今にも泣き出しそうなほどの弱々しく答える。
さすがにレンが浮気してるとかを本気で思ってるわけじゃない。
同じクラスだから紫音と密会してたとか、そんなものなら俺が規制するようなことでもないし。
だから少しからかい過ぎたことを謝ろうとしたら、レンが寂しそうな顔で俺のすぐ隣にやって来た。
「ごめん、今は言えないけど、これで信じて」
レンはそう言って俺の首に腕を回してキスをする。
頬とかではなく、唇同士のやつを少し長めに。
「……だめ?」
「だめじゃないです。だけど場所的にはだめです……」
レンの寂しそうな表情に耐えられなくなった俺は思わずレンから顔を逸らす。
それ以外にも、無言でスマホを構えている野次馬達にエサを提供しない為に。
「お兄様、こっちに視線ください」
「見せつけたんだから写真ぐらい許してよー」
「そうだよ、せめて主役の僕には写真撮る権利あるでしょ」
「私にだって舞翔くんと恋火ちゃんのキスシーンなんて見せてくれないんだから、まずはいつも我慢させられてる私でしょ?」
いつの間にか俺の抱き枕まであちら側に行って、意味のわからないことを言っている。
誰が見せるか。
こんな顔を写真に残されたら最低でも一ヶ月はネタにされて、誰かの誕生日が来る度に何か言われる。
まあもう遅いんだろうけど。
「サキ、ごめん……」
「レンは悪くないよ。場所を考えて欲しかったけど」
「でも、今すぐ信じて欲しかったから……」
「俺がレンを疑うことなんてないから。もしも本当に浮気なんてされたとしても、俺が何かしたんだろうし、それならレンを責めることなんてできないよ」
「オレにはサキしかいない。だから……それだけは信じて」
レンが俺の服をキュッと握って上目遣いで俺の顔を覗く。
可愛すぎますね。
こんなレンを見たら普段レンにやられてることをやり返したくなるけど、俺は場所を考えるぐらいの余裕がある。
「れんれん求めてるぞー。ヘタレかー?」
「依ちゃん、それだと舞翔君は余計にやらないよ。ここは私達が空気にならないと」
「お、お姉ちゃんが消えた。だけどそれってまーくんに通じないよね?」
「舞翔くんは好きな人を見失わないもん。だから何してもここでは続きしないよ。帰ったら続きするから偶然を装って覗くんだー」
水萌の発言のせいで帰ってもできなくなってしまった。
それでもやりようはあるけど、今日は可愛すぎるレンが見れただけで満足して──
(帰ったら続きしてくれるの?)
「……はい」
レンの耳打ちに抗えるわけもなく、帰ったら鍵のない部屋に鍵をかける方法を探さなくてはいけなくなった。
それか同居人を無理やり寝かしつける方法を。
正直反則だと思うんですよ、だって俺が返事したら「やった」って小声で嬉しそうに言うんですよ?
今すぐ押し倒されても文句は言えないですからね?
しないけど。
「ヘタレー」
「黙れ小娘。それよりも俺の命令はもう満足したから抜いていいよ」
「下ネ……何でもないであります!」
依が何かを言おうとしたのを睨んで止めた。
依は慌てた様子で敬礼して箱の中から紙を取る。
紙には一応区別がつくように名前の頭文字が書いてあるのでわかるようになっている。
書きたくない人は書かなくてもいいけど、バレたら困るような命令を書いても処分されるだけなので全員書いていた。
「ちなみに見てもいい?」
「別にいいよ」
「それでは遠慮なく」
依はそう言って俺の命令を見る。
そしてなんか呆れたような顔で俺を見てくる。
「なんか『お兄様』って感じ」
「どういう意味だよ」
「そんなに溜まってるなら言ってくれればいいのに。それか全部れんれんにぶつければいいじゃん」
「だから今ので結構解消された」
俺が書いた命令は『指定した相手の頭を撫でる』だ。
最近はレンに規制されてて女子(紫音を含めて)お触り厳禁になっているからろくに頭を撫でられていない。
レンにも基本的にされるがままなので、頭を撫でたい欲が溜まっていた。
それが可愛すぎるレンで全て解消されたのだ。
「そんなにオレ以外の子の頭撫でたいの?」
「レン以外っていうか、レンも含めて?」
「……わかった。じゃあ誰かを撫でたらオレのも撫でるって約束できるなら許す」
「俺に得しかないじゃんか」
レンだって鬼ではないのだから言ってみるものだ。
これで思う存分みんなを撫でることができる。
「うちは元から撫でられること少なかったけど、確かに最近誰にもやってなかったね」
「そうだね。私もだけど、特に水萌ちゃんは我慢の限界きてたんじゃない?」
「うん。恋火ちゃんに隠れて撫でてもらおうかとも思ったけど、多分舞翔くんは秘密にできないから我慢してた」
「水萌ちゃんって我慢できたんだ」
俺も言えなかったことを紫音が言ってしまった。
案の定本日の主役は水萌に頬をこねくり回されることになる。
「なんかもうあれだし、水萌の命令聞いて終わりにする?」
「そだね。水萌氏は結局どんな命令したかったの?」
「んー? ちょっとね、舞翔くんに聞きたいことがあったの。命令的に言うと『質問をして、相手はそれに嘘偽りなく答える』って感じ」
なるほど、それは確かに頭がいい。
ゲームだから嘘なんて簡単につけるけど、バレたら『ゲームでまで隠す』というマジな感じが出てしまう。
「普通に聞いてくれればいいのに」
「タイミングがね。みんなが集まってる時に聞きたかったし」
「よくわかないけど、なに?」
「えっとね、舞翔くんの浮気現場を写真に撮ったので説明をどうぞ」
水萌はそう言ってスマホに一枚の画像を写し出す。
そこには見覚えのある男と、これまた俺に隠れてほとんど見えないが、見覚えのある年下女子が腕を組んでいるところが写っている。
(有名人が浮気現場を撮られた時ってこんな感じなのかな……)
そんなことを考えながら、隣のすごい圧に押し潰されないように説明を考えるのだった。