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いじめられる主役

「王様だーれだ」


「生まれながらにして勝ち組」


 結局止めることができなかった王様ゲームが始まった。


 始まる前までは少し気まずかったけど、今ではみんな楽しそうにしている。


 そして最初の王様は、命令を最初に決めておいて良かったと本気で思えるよりだ。


「ちなみになんだけど、依ってなんでもありな王様ゲームだったらどんな命令してた?」


「18禁もあり?」


「ピー音入れたらいいよ」


「それだと何も伝わないよ」


 一体何を言おうとしているのか。


「まあ冗談はさておき。狙い撃ちがありならお兄様にお父さんを紹介したいかな」


「普通は無しだけど、なんで?」


「変な意味は無くてさ、うちのお父さんとお兄様のご両親が知り合いなのは文化祭の時に聞いたよね? それでお父さんがお兄様にもちゃんと謝りたいって」


「俺が謝られることって何かあった?」


 文化祭で起こった惨事について、俺が依のお父さん、吾郎ごろうさんに謝られることはないはずだ。


 あれは完全に依の母親を名乗るあのおばさんが全て悪い。


「まあ文化祭のこともなんだけど、お兄様のお父さんへの罪悪感があるからってのもあるらしいよ」


「よくわかんないけど、それなら父さんに直接謝ればいいことだし、俺に謝られても困る」


「だよね。じゃあ普通に親への挨拶として来ていいよ」


「それじゃあ引いて」


「さりげなくもなんでもないな」


 依はため息をつくが、俺は背後からの視線が痛くて仕方ない。


 あんまりレンを刺激しないで欲しい。


 とりあえず俺は、紫音しおんの部屋にあった箱に命令を書いた紙を入れたものを依の前に置いた。


「蓋を開けて見ないように引けばいいんだよね」


「そう、見たら罰金三百円」


「その、見ただけにしては高いからわざわざ見ようとは思わないけど、払おうと思えば払えなくもない絶妙な金額やめない?」


 ここで一万円とか言ったら貰う側の気が引けてしまうし、百円とかだと安いから見る人が出てきそうだけど、三百円なら微妙に高くてわざわざ見ようとは思わないはずだ。


 たとえ見たとしても、本当に三百円を払ってもらうので、貰う側ももらいやすいだろうし。


「ちなみに一人三百円だから」


「やば、一回見たら千五百円じゃん」


「それでも見たいなら見てもいいよ」


「うちはいいや。なんか『千五百円ぐらいなら……』みたいな顔してるのが数人いるけど」


 確かに誰とは言わないけど、金より団子な子がいる。


「当たり前なことだけど、見ようとしたら止めるからね?」


「え、それじゃ払う意味ないじゃん」


「ゲームが崩壊するようなことはさせないから」


 ほんとに払ってでも中身を見ようとしていたようだ。


 ちょっとこの子の将来が不安になってくる。


水萌みなも、なんでもお金で解決しようとするなよ?」


「なんでもはしないもん。舞翔まいとくんと一緒に居る為ならいくらでも使うけど」


悠仁ゆうじさんからの供給を切るか。あの人水萌にお金与えすぎなんだよな」


 悠仁さんは娘を溺愛しすぎて水萌にお小遣いをあげすぎだ。


 そのせいで水萌の豪遊が止まらない。


 今はそのほとんどが水萌の無尽蔵の胃袋に収まっているけど、それでも今からそんなに豪遊させていたら将来大変になる。


「じゃあ舞翔くんが私のお金の管理してくれる?」


「レンに任せた」


「丸投げすんなよ。まあオレとしてはそっちの方が安心だけど」


 なんだかレンが俺のことを信用してないように聞こえるけど、多分水萌の言葉を別の意味で捉えたのだろう。


 水萌のお金の管理を一生して欲しいと。


「家計簿とかつければいいのか?」


「そういうの楽しそう」


「サキも一緒にやる?」


「やる」


「そういうイチャつきは家でやってくれるかな? 今はうちの番だし、それに主役の紫音くんが置いてきぼりなんだけど?」


 呆れた様子の依に言われて、いつものが出ていたことに気づく。


「ごめん、紫音」


「別にいいよ? 僕はまーくんが楽しそうにしてるのを見てるの好きだし」


「本音は?」


「散々僕のことを主役だって言っておいて僕以外の子と話すのが楽しいんだって思ってたり?」


 俺は無言で紫音に土下座をする。


 母さんが怒りそうな時に先んじて土下座をしているので、土下座には慣れている。


 きっとこれで紫音も許してくれるはずだ。


「まーくん知ってる? 土下座って地位が高い人がやると意味があるけど、そうじゃない人がやると無価値なんだよ?」


「……」


「じょ、冗談だからね? だから早く頭上げて。それとみんなもそんな引かないでぇ」


 紫音が俺の肩を揺さぶりながら泣き出しそうな声で言う。


「サキ、紫音さんがそあ言ってるんだから頭上げろ。あんまり紫音さんを怒らせるな」


「うん、紫音さん怖い……」


「そうだよお兄様。紫音さんにこれ以上逆らったら……」


「そ、そうだよ舞翔君。紫音さんを怒らせたらみんな、あ……」


「ちょっとほんとにやめて! 僕をいじめてそんなに楽しいの!?」


 みんなの心の声を代弁するなら「すごい楽しい」だろう。


 多分全員顔は真剣だろうけど、心の中ではほくそ笑んでいる。


「ま、まーくんは僕をいじめないよね?」


「あ、当たり前じゃないですか。俺……自分は紫音さんの味方です」


「もうみんな知らない!」


 紫音が拗ねてベッドに潜り込んだ。


 さすがにやりすぎたようだ。


「じゃあうちの命令はね──」


「紫音ほんとに泣くぞ」


 依が気にせずに王様ゲームを再開しようとしたのでさすがに止める。


 これ以上本日の主役をいじめるのはよろしくない。


「紫音、もう何もしないから出てきて」


「……」


「無視か。ちょっと傷つく」


「……」


「罪悪感で出てきてくれるかと思ったけど無理か」


 どうやら本格的に紫音が塞ぎ込んでしまった。


 こうなると謝罪は逆効果だろうし、手の打ちようがない。


「これ絶対に水萌氏の命令でしょ」


「うん」


「だよねぇ」


 後ろでは普通に王様ゲームを続けているし。


 だけど多分それが正解な気がした。


「二番が四番をゲーム中抱き枕にするでいこうかな」


 どうやら依が引いた命令は水萌の書いた『ゲーム中抱き枕にする』らしい。


 そして俺が床に放置した番号は二番だ。


「それでこれまた放置されてる紫音の番号が四番と」


「紫音くん、王様の命令は絶対だよー」


「……依ちゃんのばか」


 依が呼びかけると、俺を完全無視していた紫音がベッドから出てきた。


 そして俺の前に立ってギュッと俺の服を掴んで上目遣いで見つめてくる。


「まーくんは、僕のこと好き?」


「好きか嫌いかで言ったらもちろん好きだよ?」


「そっか。ならいいや」


 どういう質問だったのかはわからないけど、紫音が満足そうにしているのでいいことにする。


「ごめんなさい」


「何急に。謝るのは俺達の方なんだけど?」


 紫音がいきなり頭を下げて謝ってきたので困惑してしまう。


「最初に悪いこと言ったの僕だもん」


「その前に紫音を放置したのは俺だから」


「まーくんが恋火れんかちゃんを優先するのは当たり前だもん。だけど、少しでも罪悪感があるなら、命令に従って欲しいな」


 紫音がモジモジしながら上目遣いで言う。


 本気でこの子が男だと忘れそうになるけど、この子はあくまで『可愛い男の子』だ。


 それだけは忘れてはいけない。


「ちょっと待ってね。レン、さすがにいいよね?」


「まあゲームだし。紫音は今日の主役でもあるんだからそれぐらいは許す」


「だそうなので、おいで」


 レンからの許しを得たので、俺は元の場所に戻ってあぐらを組んで座り、紫音を手招きする。


「お、お邪魔します」


 紫音がおずおずと俺の足の中に座る。


 そして俺が紫音を後ろから抱きしめる。


「うん、水萌に次ぐフィット感」


「水萌ちゃんに負けちゃった?」


「ちなみに水萌はレンに次ぐフィット感」


「三位かぁ……」


 やっぱりレンと水萌の小ささに勝てる人はいない。


 あの収まりの良さは至高と言ってもいい。


「私も帰ったらやってもらお」


「水萌は許してないから」


「なんで!」


「そういえばその話も済んでなかったな」


「そうだね。一回ちゃんと話さないと」


「紫音の誕生日なんだから姉妹喧嘩は後でやれ」


 俺がそう言うと、二人が「はーい……」と不服そうに言う。


 一応は紫音の誕生日だから自重してくれるようだ。


 仲のいい証拠だけど、そもそも喧嘩をしないで欲しい。


 そんなこんなで、紫音を抱き枕にしながら王様ゲームは続いていった。

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