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微妙な雰囲気

「人狼やりたい」


「サイコパスなの? なんで紫音しおんの誕生日に友情破壊ゲームをやりたがるんだよ」


 蓮奈れなが脈絡もなく言うので、呆れながら返す。


 確かにここには六人の人が居て、人狼をやるにはちょうどいい人数ではあるけど、さすがに誕生日会でやるような遊びではない。


「でも世界を巡る人生ゲームは四人までだし、相手を穴にたたき落とす系のゲームも六人じゃできないよ?」


「だからなんで友情破壊ゲームをしたがるんだよ」


「友情破壊ゲームを共にやって、それでも友達でいられたら本物じゃないか」


 蓮奈がそれっぽいことを言っているが、なんかろくでもないことを考えているような気がする。


「それともツイスターとかやる?」


「道具も無いし、蓮奈と水萌みなもが即脱落してつまらないだろ」


「失礼だけど、その通りなんだよね」


 ツイスターのような体力を使う遊びは蓮奈と水萌に向いていない。


 水萌はまだいいかもしれないけど、蓮奈は一分持つかもわからない。


「じゃあやっぱり人狼?」


「だからなんでそんなに人狼やりたいんだよ」


「別に人狼がやりたいわけじゃないよ? ただせっかくみんな集まったから何かしたいなーって思ったの」


「それで一番最初に思い浮かんだのが人狼だと?」


 蓮奈が頷いて答える。


 確かに六人でできて、特殊な道具を使わないものは咄嗟に思い浮かばないけど、それでも人狼は無い。


「じゃあ舞翔まいと君なら何する?」


「思いつかないとほんとに人狼始めるやつだよな。これってのは無いけど、この人数なら王様ゲームとか?」


 俺の言葉に全員がそれぞれの反応を見せる。


 そこで俺は自分の過ちに気づく。


「俺は提案しただけだからな? 別にわざわざ何かする必要なんてないんだよ。いつもみたいに話すだけでもな?」


「とりあえず割り箸があればいいかな?」


「書くものは僕の部屋にあるから、割り箸持って来るね」


「じゃあうち達はお兄様を止める役かな?」


「サキが提案したんだから引き下がれないぞ?」


「舞翔くんに何してもらおうかなー」


 全員が一斉に動き出した。


 この一体感はなんなのか。


 もう何も言わずに人狼をやっていれば良かった。


「というか主役の紫音に取り行かせるなよ」


「まあしおくんノリノリだったし」


「紫音がいいならいいけどさ、紫音って実は支配したい欲とかあるの?」


 王様ゲームに乗り気だということは、誰かに何かを命令したいということだ。


 蓮奈ならわかるけど、紫音にそういう感情があるのは意外だった。


「さりげなく私のことバカにした?」


「してないよ。それよりも、どうせやるならフェアにしよう」


「それってつまらなくなるやつじゃん……」


 蓮奈があからさまにため息をつく。


「じゃあ俺はやらないから君達だけで楽しんで」


「お兄様は強制参加だよ?」


「知るか。モラルが守られないなら俺は帰る」


 さすがに度が過ぎてる命令が飛び交うのなら付き合いきれない。


 これはあくまで紫音の誕生日会なのであって、合コンではないのだから。


「サキのこれはガチで帰るやつだから調子に乗らない方がいいよ」


「それは困るからやめる。ちなみに舞翔君的にどこまでならセーフ?」


「恋人だからできることはアウト。それ以外は基本セーフ」


「結構許された」


 さすがに唇同士のキスやその先は問題だけど、それ以外のことなら今までだってやってるから駄目だと言えない。


 それに……


「わかってると思うけど、命令は最初に紙に書いてくじ引きだから」


「だよね。そっちのがスリルもあるし」


「どっちにしろ誰を選ぶかわかんないんだからそっちのがいいのかな?」


 よりと蓮奈は納得してくれた。


 だけどさっきまでこの二人以上に乗り気だった姉妹が不服そうな顔をしている。


「舞翔くんに私のしたいお願いできないの?」


「自分で書いたやつを引けばいいんだよ」


「むぅ……」


 水萌は膨れ、レンは無言で俺を見てくる。


「レンはどこが不服?」


「オレとしてはさ、前みたいにサキが水萌達とイチャつくの嫌なんだよ。実際今はサキを規制してるわけだし」


「うん」


「だけどさ、今日は紫音の誕生日で、紫音が喜ぶことが一番なわけだから……」


 要は俺が水萌達と前みたいに触れ合うのが嫌だと言いたいけど、今日の主役である紫音が望むことはさせてあげたいらしい。


 うん、可愛い。


「とりあえず頭撫でればいい?」


「もっと」


「じゃあ抱きしめる?」


「……」


 レンが無言で腕を広げるので、俺はレンの背中に腕を回して優しく抱きしめる。


「急に甘えんぼだな」


「うるさい。嬉しいだろ?」


「もちろん。毎日甘えてくれていいから」


「……人前は無理」


 絶賛人前で甘えられてるけど、そんなのはどうでもいい。


 つまりは人前じゃなければ今のレンを見放題ということだ。


「録音しとけば良かった」


「ふっ、準備不足を呪え」


「じゃあ甘えてくれないの?」


「……気が向いたら」


 レンがそう言うと抱きつく力を強める。


 俺も一緒に強く抱きしめる。


「見せてけるよね。舞翔君が私達に手を出すこと無くなって鬱憤溜まってるのに」


「いやでも、それが正しい彼女持ちの在り方だとは思うよ? だからって人前で見せつけるのは違うけどさ」


「私は毎日見せられてるよ?」


「よく耐えられるね」


「耐えてないもん」


 一瞬空気が凍りついた気がする。


 そのせいなのか、俺の体温も急速に下がっていくような気が……


「レン、痛い。血が流れなくて死ぬ」


「水萌とよろしくやってるのか?」


「変なことは何もやってないから。そもそもレンが水萌だけは許したんじゃん」


「は? 何を」


 俺は確かに言われた「私だけは今まで通りにしていいよ」と、()()()()


「あぁ、そういうことね」


「サキ、もう満足したから離せ」


「いいけど、ほどほどにな?」


「それはあそこのふざけた妹次第だな」


 俺がレンを離すと、レンは水萌にゆっくりと近づいて行く。


 水萌の隣に居る依と蓮奈は顔を引き攣らせているのに対して、水萌の余裕な表情はどこからくるのか。


「何か弁明は?」


「ないよ? そもそもがおかしいんだよ。確かに舞翔くんは恋火れんかちゃんが好きだけど、それだけで舞翔くんを独り占めしていいの?」


「サキが選んだのはオレだ」


「確かにそうだよ? でもそれが舞翔くんの自由を束縛していい理由になるの? あんなことまでして」


 水萌がため息をつきながら言う。


 水萌も色々と思うところがあったのかもしれない。


 確かにレンのやり方は俺の気持ちを完全無視するものだ。


 話すことは許されているけど、頭を撫でたりなどの触れ合いは一切禁止。


 俺としてはレンが望むならそれに従う。


 もうアレはりだし……


「それ気になってたんだよね。あのお兄様を自制させるなんてどんな方法使ったのかって」


「私も。舞翔君って言い方はあれだけど、私達の頭を撫でたりするのが生きがいみたいな感じだったし」


「ほんとに言い方よ。それとあんまり深く聞かないでくれるかな? レンも思い出して固まったし」


 アレはレンの中で黒歴史みたいになっているようだ。


 俺にも相当効いたけど、レンにも諸刃の剣だったようで、思い出すとこうして固まってしまう。


「水萌ちゃんはそれ見てたの?」


「んとね、追い出されたことにむしゃくしゃしてお部屋に入った」


「そこで仲睦まじい関係を目にしたと……。実演しない?」


 依が息を乱しながら紫音のベッドを指さす。


 多分絶対に勘違いをしてるけど、説明するのも嫌だし、したところで信じないだろうから無視することにした。


「とにかくこの話は終わり。本日の主役を立ち聞きさせて放置なんて悪いし」


 俺はそう言って部屋の扉を開ける。


 そこには割り箸を持った紫音が顔を赤くしながら座り込んでいた。


「立ち聞きじゃなくて座り聞きだった」


「しおくんってむっつりさんだから」


「なんかイメージ通りな感じ」


「しーくんお熱?」


 水萌だけが本気で心配しているが、当の紫音は俺をチラチラ見て視線が合うとバッと顔を背ける。


「なんか微妙な雰囲気だし王様ゲームはやめにしよう」


「……それはやる」


 まさかの紫音に否定された。


 今日ばっかりは紫音に言われたら抗えない。


 そうして微妙な雰囲気の中、みんなで命令を紙に書いていくのだった。

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