興味の無い謝罪
「しおり見た感じさ、オカルト研究会のお化け屋敷って二人までなら一緒に入れるみたいなんだけど、誰か行きたい人いる?」
「うちの謝罪中に別の話始めるのやめてくれない?」
俺が依を抱きしめるのをやめて、依のしおりを出してお化け屋敷について調べ、誰が一緒に来てくれるか聞くと、依がふくれっ面で俺を睨んできた。
「だって依の謝罪とか興味無いし」
「さりげなくもない、普通に酷いことを言うね」
「逆に興味ある人いるの?」
俺が依以外のみんなに視線を向けると、みんな興味は無さそうだ。
「そもそも依が謝ることって何? ちなみに何を謝ってもいじめることをやめたりしないからね?」
「それはやめようよ。まあみんなが許す許さないとかなく、謝られる意味がわからないって言うのは知ってたけどさ、これはうちなりのけじめ? みたいなやつだから聞いて欲しいの」
依が真面目な表情でそう言ってから「だめかな……?」と上目遣いで俺を見ながら言う。
そんな可愛い顔をされて断れるわけがない。
「なんか最近サキが堂々と浮気するんだけどどうしたらいいと思う?」
「やることやっちゃえば?」
「それでサキが変わる? 変わるなら帰ってからでもやるけど」
なんだろうか、レンと蓮奈が不穏な会話をしてる気がする。
なんでレンが友達と話したりするのは許されて、俺が友達と話すのは浮気になるのか。
「異性だからじゃない?」
「水萌は俺の心を読まないの。でもそうなると、俺は水萌達と喋れなくなるんだけど」
「まーくんの場合はそういうとこだけどね」
紫音が呆れたように笑いながら俺のことを指さす。
一体なんだと言うのか。
俺は今依と水萌に挟まれて座っているだけだと言うのに。
「よし、これからちゃんと躾しよ」
「調教される舞翔君……なんかえっち」
「変態はほっといて、オレのことしか考えられない体にしなきゃ」
「異性としてはレンのことしか考えてないんだけどな」
「うっさいバカ!」
レンが顔を赤くして蓮奈に八つ当たり(強く抱きしめる)をする。
羨ましい。
「恋火ちゃん、大胆……」
「なんでだ、すごい落ち着く」
「蓮奈ってなんか落ち着くよね。包容力なのかわからないけど、とりあえず感情が乱れた時は蓮奈に抱きつけばなんとかなるんだよな」
普段は子供っぽい蓮奈だけど、一応はお姉さんなのもあって母性があるのかもしれない。
「そういえば私と水萌ちゃんの前で堂々と人には見せられなイチャイチャしてた二人だからやることはもうやってるか」
「やってねぇ!」
レンが蓮奈を抱きしめる力を強めたようで、蓮奈が「お、お腹が割れるぅぅぅぅ、あれ? それは腹筋ができるということでは?」と意味のわか、ないことを言い出した。
「そういうことはちゃんと段階を踏んでからだろ」
「恋火ちゃん乙女だ」
「紫音、今度お前の部屋によりを放り込んで閉じ込めるからな」
「ぼ、僕が何をしたって言うのさ!」
紫音が本気で焦った様子で慌て出した。
そんなに依と二人っきりは嫌なのか。
「うちさ、これから結構重い話をしようとしてるのに、ほんとにみんな興味無さそうだし、それに紫音くんがうちのメンタル削ってきたんだけど?」
「みんな依の謝罪とかほとんに興味無いの。でも依は話したいんだよね?」
「うん。ちゃんと話してみんなと対等になりたい」
別に依が隠し事をしてたからって俺達が依を嫌うことはないけど、依からしたらそういう話でも無いのだろう。
「だそうなので、みんな真剣モード」
「……」
レン、紫音、蓮奈が俺の呼びかけを受けて俺達の隣に座る。
「急に真剣になられると緊張する」
「俺も含めて真剣な状態は長く持たないから早く話して」
「なんだかんだでちゃんと聞いてくれるの知ってる。えっとごめんなさいはとりあえず言ったから、その説明からか」
依がそう言うと、俺の方に顔を向けて手を出してきた。
なんなのかわからなかったけど、とりあえず俺も手を出してみたら手を握ってきたので正解だったようだ。
「一番最初から話すね。まず、覚えてないだろうけどうちとお兄様、舞翔くんは小学校と中学校が同じです」
「知らないんだけど?」
「オレは知ってたけど?」
レンが意味のわからないことを言い出した。
なんで俺が知らないのにレンが知ってるのか。
それに。
「付き合ってるのに隠し事するのはどうかと思うんだよ」
「サキが何も隠さなすぎなだけな。それによりを脅すのに使える情報だったし」
「まあそれなら仕方ないけど」
「そこのバカップルはどんだけうちに恨みがあるんだよ」
依がジト目で睨んでくるけど、別に恨みなんてない。
ただからかうのが楽しいだけだ。
「それはそれとして、舞翔くんが知らないのは当たり前だよ。元から舞翔くんが人に興味が無いのもあるけど、うちは極力舞翔くんから認知されないように立ち回ってたから」
「認知されたくない系オタクだったか」
「そうだけど、そういう意味じゃないから」
「つまり、さっきのおばさんに俺の監視を命令されたと?」
「わかってるから茶化さないでよ。それと別にうちの母親って言っていいからね?」
あの人と依に血の繋がりがあると認めたくない自分がいる。
だから俺はあの人を依の母親と呼ぶことは絶対にしない。
「強情な香りがする。まあいいけどね。話を戻すけど、要約したら舞翔くんの言う通り。正確には監視じゃなくて観察の方が正しくて、他にもあるの」
「俺に用があったわけじゃないだろうしな。うちの弱みみたいなのが欲しかったんだろ? それともしかしてだけど、俺に人が寄らないように操作もしてたとか?」
依が弱々しく頷く。
あの頃のことを少しだけ思い出してきたけど、俺がぼっちなのはずっと覚えていたが、今とは違ってあの頃はそもそも俺に人が寄って来なかった気がする。
今もそうではあるけど、どこか避けられているような、そんな感じがする。
「別にあの頃から人に興味がなかったから全然気づかなかった」
「だよね。それに、これは多分なんだけど、舞翔くんが人に興味が無い、人を信じられないのって……」
「まあ僕のせいだよね」
依が言いにくそうにしてるのを紫音が引き継いで言う。
「まーくんって、そういうつもりは無いんだろうけど、昔から男の子だったから」
「まるで今は女みたいな言い方やめろ」
「似たようなものじゃん。まあそうじゃなくて、変に強がってるっていうか、『友達いない俺かっこいい』みたいな感じ? だから僕と仲良くなろうとしなかったんだと思う」
なんか悪口がすごくて泣きそうになってきた。
「適切な言葉が出ないだけだから気にしないでね? つまりね、僕のことを友達だとは思ってるんだけど、認めることはできないみたいな感じ? だけど友達だとは思ってるから、その友達がいきなりいなくなって、それがトラウマで人を信用できなくなったのかなって。まあこれはまーくんの中で僕がそれだけの存在だった場合の話ね」
紫音の話を認めると、俺が中二病だと認めることになるけど、しっくりきてしまう。
ずっと俺が人を信じられないのは父さんのことがあったからだと思っていたけど、紫音という友達に形的には裏切られて、忘れてたけどそれがずっと心に残っていたのかもしれない。
「まあ結局のところ、当の本人であるまーくんがわかんないから答えはわからないけど」
「じゃあ紫音のせいにしよう。俺の性格ねじ曲げた罪で依と監禁の刑ね」
「いや、まーくんの性格は元からねじ曲がってたからね? それとすぐに僕と依ちゃんを同じ部屋に閉じ込めようとするのやめよ?」
紫音が焦りながら依に「依ちゃんも嫌だよね?」と縋るように聞く。
「うちは紫音くんと同じ部屋に閉じ込められてもいいよ?」
「そうだった、依ちゃんは元から敵だった……」
紫音が絶望しながら蓮奈に抱きつく。
「よしよし、みんないじめて酷いねぇ。だけど私的にはしおくんが女の子と一緒の空間に閉じ込められたらどうなるのか見てみたいんだよね」
「お姉ちゃんも嫌い!」
紫音はそう言って蓮奈から離れようとするが、蓮奈が強く抱きしめて離そうとしない。
「なんか紫音くんが不憫に見えてきた」
「依がいじめたのが原因なんだけどな」
「うちは何もしてないし。っと、話が逸れる。つまりね、舞翔くんがずっとぼっちだったのは少なからずうちのせいなんだよ」
依がそう言って俺の方に向き帰り、頭を下げてきた。
そう、『頭を下げた』のだ。
そうなったらやることは一つ。
「なぜに頭を撫でてらっしゃる?」
「そこに頭があるから」
「人の頭を山扱いすな。まあそれが舞翔くんなんだけど」
呆れた様子の依が頭を上げる。
まあ上げたからって撫でるのはやめないけど。
「いや、やめろし!」
「嫌でしたか」
「嫌じゃないわ! これからもよろしく」
「情緒不安定すぎないかな? まあついでだから言っとくけど、依が何もしなくても俺はぼっちだったし、それを苦に思ったことはないから」
俺がぼっちなのは俺が人と関わるのをめんどくさがっていたからであって、依のせいでも、それこそ紫音のせいでもない。
今が人に恵まれているだけであって、俺は基本的にぼっちなのだ。
「だからこの話は終わり」
「優しすぎなんだよ。少しは責めて欲しいのに……」
「は? だから後でいじめるって言ってんじゃん。言っとくけど、泣いてもやめないからな?」
「嘘をつかないのを知ってるからマジで怖いんですけど……」
依の顔が引き攣ってきた。
依の言う通り俺の言葉に嘘はなく、たとえ依が泣いたとしても俺はやめるつもりはない。
「今から憂鬱……」
「んで、謝罪会見は終わり? 終わりなら勝負内容がお化け屋敷になった時ようにペア決めたいんだけど」
「ちょっと待って。うちの母親のことで水萌氏に謝らなきゃだし、れんれんにも謝らないと──」
「え、いらない」
「オレも」
依からの謝罪は水萌とレンに即答で却下された。
「でも……」
「確かにあの人は嫌いだけど、それで謝られても困る。恋火ちゃんと仲良くしてたのは許さないし」
「それはもういいだろ。オレの場合は出会いの話だろ? あの公園で会ったのは母親の命令だったみたいな。それがなんだよ。じゃあよりは今も母親の命令があるからオレ達と仲良くしてんの?」
「それは無いよ!」
依が俺の手を離してレンの手を両手でギュッと握る。
ちょっと寂しい。
「公園で会った時も、確かに命令でれんれんに会いには行ったけど、話してるうちに本当に楽しくなって、うちは友達だって、ずっと……」
依の頬に涙がつたう。
そんな依をレンが抱き寄せて頭を撫でる。
それからは泣きじゃくる依をみんなで撫で回す大会が始まったのだった。




