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悪魔の子は悪魔

「お疲れ様、主人公」


「即座に心配しなかったヒロインなんて知らないし」


 俺がいい感じに死んだ主要キャラごっこをしてたら蓮奈れながやって来た。


「拗ねないの。それよりも、水萌みなもちゃんが自分で決めて行ったから見届けたけど、大丈夫なの?」


「駄目そうならまた俺に意識向けさせるよ」


「それも心配だけど、水萌ちゃんの方は?」


「精神的な意味? それなら大丈夫でしょ。あの水萌が自分の意思でよりを助けようって思ったんだよ? 心配することが水萌に失礼だよ」


 なんだかんだ言っても水萌が依のことを好きなのはわかっていたが、それでも水萌が依の為に行動したのには驚いた。


 驚きはしたけど、水萌が自分の意思で動いたのなら向き合う準備は済んだということになる。


「とりあえず見守ろ。何があっても俺が水萌に手は出させないから」


「そんなこと言われたら惚れちゃうよ。まあ何か起こらない方がいいんだけどね」


 蓮奈はそう言って俺の殴られた左頬を優しく撫でてくれた。


 さっきまでの痛みが嘘のように痛みが和らいでいく。


 蓮奈に感謝しながら、水萌の頑張りを眺めることにした。


「その手を離しなさい」


「離さない。依ちゃんが居ないと舞翔まいとくんが困るし、何より私はあなたが嫌い」


「酷い言われよう。やっぱりもっとちゃんと教育をした方が良かったかしら?」


 けばいおばさんが水萌のことを睨みつける。


 それを見た蓮奈が俺の制服をちょんちょんと引っ張る。


「結局あの人って誰なの? 依ちゃんの母親みたいな感じだけど、舞翔君とも関係あるんだよね?」


「認めたくはないけど、多分依の母親だと思う。俺も詳しくは知らないけど、なんか母さんと知り合いっぽいんだよね」


 俺が前に依の話を母さんにしたら、依について詳しく聞かれたことがある。


 その時に依の母親と知り合いかもしれないと言われ、その時の対処法を習った。


「じゃあ水萌ちゃんが怯えて、恋火れんかちゃんが怒ってるのは?」


「二人が姉妹なのは話したよね。二人の両親が結構忙しい人達で、育児ができなかったんだよ。その時に代行として頼んだのがアレみたい」


「サキはなんでそこまで知ってんだよ」


 いつの間にか呆れた様子のレンが右隣に立っていた。


「『裏ルート』からの情報提供があったから」


「それって陽香ようかさん?」


「そうとも言える。どういう関係なのかは教えてくれなかったけど」


 普段怒ることなんてめったにない母さんがあの人の話をする時だけはとても機嫌が悪かった。


 いったいどんな関係性なのか。


「私は育ての親なんだから言うこと聞きなさいよ。離せ」


「あなたに育ててもらった覚えなんてない! 毎日毎日私や恋火ちゃんを怒鳴りつけて、それのどこか教育なんですか!」


「キーキーうるさい。だいたいあんたは未だに私の決めた金髪を守ってるんじゃない。私のおかげでちやほやされてさぞ楽しかったでしょう?」


 けばいおばさんが気持ちの悪い笑みを浮かべて水萌を見ると、水萌がウィッグを掴んで地面に叩きつける。


「偽物の私をちやほやされたって嬉しくない! 私は私を私として見てくれる、舞翔くんみたいな人に褒めてもらえるのが嬉しいんだもん! あなたみたいにお化粧をいっぱいして自分を隠してる人にはわからないでしょうけど!」


 水萌の発言にまたも傍観者達から笑い声が聞こえてくる。


「小娘が。それならあなたが今私から奪おうとしてるこの子はどうなるのかしら?」


「依ちゃんのお化粧はあなたと違って醜い自分を隠す為じゃない。醜い誰かの嫉妬で付けられた傷を隠す為のものだよ」


「私が付けたとでも?」


「あなたは覚えてないでしょうけど、自分でそう言ってたよ。『最近の趣味は娘を痛めつけること』って」


 今の水萌の一言でおばさんの表情が変わった。


「証拠がない」


「証拠なんていらないでしょ? 現に依ちゃんには傷があるんだから」


 水萌の言う通りだ。


 実際に傷を付けられた依が「母親にやられました」と言えばそれで済む。


 それをさせない為の依への『教育』なんだろうけど、もう意味は無い。


「何か勘違いしてるみたいだけど、この子がなんであなた達の傍に居たのか知ってるの?」


「そんなの舞翔くんがたぶらかしたから」


「水萌、変なことを言うな。さすがに困惑されてるぞ」


 水萌の返答を受けたおばさんがさすがに予想外の答え過ぎて固まっている。


 それとは別に依の顔が赤くなっている。


「シリアスになれないのが僕達の悪い癖だもんね」


紫音しおんおかえり。どこ行ってたの?」


「水道」


 紫音がそう言って俺の頬を撫でる蓮奈の手をどけて濡らしたハンカチを俺の頬に当てる。


「ちべたい」


「可愛い言い方」


「随分と可愛いハンカチだな」


 紫音が俺に当てているハンカチは花柄でとても可愛らしい。


「これはお姉ちゃんの。僕のは恋火ちゃんの手に使ってるから」


「両手に巻いてるから誰のかと思ったら」


 レンの両手にはハンカチが巻かれている。


 おそらくレンが怒りで爪を立ててしまうからそれ対策で紫音が巻いたのだろう。


 ちなみにどちらも無地だ。


「ほんとに調子が狂う。とにかくこの子があなた達と一緒に居たのは私の指示で、あなた達のことを知る為なのよ」


「……」


「どう? 絶望した? この子はあなた達のことをなんとも思ってなかったって知っ……何を笑ってるの?」


 おばさんが不思議そうな顔を依に向ける。


「や、その……水萌ちゃん、シリアスなところだからイタズラしないで」


 依が笑うのを我慢しながら水萌に言う。


 依が何をされてるかと言うと、水萌に手をうにうにといじられている。


「だってお話つまんないんだもん。私だけじゃなくて舞翔くん達だって想像以上につまんなくて話聞いてないよ?」


「バレたぞ。聞いてた風にしろ」


「えっと依ちゃんが舞翔くんのこと好きって話だっけ?」


「そんなの今更だもんな」


「彼女としてそれいいの?」


「ほらね?」


 水萌が呆れたようにため息をつく。


 だって水萌の言う通り話がつまらなすぎて聞く気になれなかったのだから仕方ない。


「信じたくないのはわかるけど、事実だから。桐崎きりさきの家を壊す為にそこの生意気な小僧と同じ小学校に行かせて、たまに家を抜け出してたそこの不良娘に近づけさせた。おかげで色々とやりやすかったよ」


 おばさんが俺とレンに視線を向けながら楽しそうに言う。


「その罪悪感から私を守ろうとしたんだもんね。ほんとにおバカさんなんだよね」


「依ってバカ真面目だから」


「そうそう、よりはバカ」


「みんな言い過ぎだよ。僕もそう思うけど」


「しおくんのずるい。私はちゃんと『うましか』ちゃんの味方だよ?」


「みんなでバカバカ言って……」


 依が頬を膨らませてジト目で睨んでくる。


 なぜか俺を。


「確かに最初はあなたの指示で舞翔くんと恋火ちゃんに近づいたのかもしれないけど、それが何って話。結局依ちゃんは舞翔くんのことが大好きになって、恋火ちゃんと嫌だけど仲良くなってるわけだし」


 水萌の余計な一言は気になるけど、まあ水萌の言う通りだ。


 きっかけは確かに命令かもしれないけど、結果的に仲良くなれた。


 結果良ければなんとやらだ。


「だから私達が依ちゃんを嫌うことはないので。だから依ちゃん離してくれます?」


「……」


 おばさんが無言で水萌を見ている。


 そろそろかな。


「離すのはあんたよ」


 おばさんはそう言って水萌のほっぺたに俺と同じように裏拳を入れようとする。


 だけどそんなのを俺が許さない。


 水萌のことを抱き寄せながらおばさんの手を受け止める。


「危ない危ない。単細胞って返す言葉が無くなると暴力で解決しようとするから読みやすくていいよね」


「助けてくれるのはわかってたけど、余計に好きになって恋火ちゃんに内緒で悪いことしちゃうよ?」


「ほんとにやめてね? 俺も男の子だからスイッチ入っちゃうかもしれないから」


「いいこと聞いた」


 水萌の顔が完全に悪い子になった。


 余計なことを言ったと後悔してももう遅い。


「汚い手で触るな! さっきは反応もできなかったくせに!」


「そっくりそのまま返すし、俺だって触りたくないですから。だけどまあ、逃げられても困るんで」


「は? 何か──」


「早いなほんと。仕事中だろ……」


 俺が呆れながらおばさんの背後に視線を向ける。


 俺の視線が背後に行っているのに気づいたのか、おばさんも後ろを向く。


 そしてものすごいスピードで駆け寄って……突進してくる小さな人影を見て冷や汗をかいて逃げようとする。


 だけど俺が手を掴んでいるから逃げられない。


「てめ、離せ!」


「いやいや、ここで離してあんた逃がしたら怒りの矛先どこ行くかわからないですから」


「そんなの知るか! このままだと私が──」


「そんなの知るか」


「悪魔の息子は悪魔かよ……」


「やっと見つけたぞこのアマぁぁぁぁぁ!」


 その叫び声が聞こえるのと同時におばさんは俺の前から消えた。


 正確には殴り飛ばされて俺の背後に転がって行った。


 鬼の形相、おばさんの言葉を借りるなら悪魔の形相の母さんの拳によって。

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