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謎解きはデコピンの後で

「早くラブレター見よ」


「なんでそんなにラブレターにしたいんだよ」


 体育館裏のいつもの場所にやってきた俺達は、俺を囲むようにして座っている。


 そして水萌みなもを始めとしてみんなが先輩からの手紙に興味津々だ。


「そういえばあの人って名前なんて言うの?」


「ん? なんで私の方向くの?」


蓮奈れな以外に知ってる人いないでしょ?」


 蓮奈が首を傾げながら聞いてくるが、同級生の名前もわからない俺達に先輩の名前を知る人なんているわけがない。


「蓮奈も知らない系?」


「ううん、他の人はうろ覚えだけど、真中まなかさんはわかる」


 どうやらあの先輩は真中さんと言うらしい。


 まあ手紙を開いて最後のところを見たら『真中 実怜より』と書いてあったから聞かなくてもわかったのだけど。


「下の名前は『みれい』?」


「確かそう。それでラブレターにはなんて?」


「次ラブレターって言ったらキレるから」


 さすがにそろそろしつこい。


 キレると言っても何かするわけではないが、こういうのは口に出すのが大切なのだ。


 現に一人を除いてみんなの表情が引き締まった。


「蓮奈、素直に思ってること言ってみ」


「怖いもの見たさでキレた舞翔まいと君を見たい自分がいる」


「蓮奈さん、サキは怒らせたら駄目だよ。いくら蓮奈さんが罵倒されるのが好きだったとしても、サキのは蓮奈さんの求めてるのとは違うタイプだから」


「俺をなんだと思ってるんだよ」


 いくら俺だって蓮奈を追い詰めるようなキレ方はしない。


 そもそも俺がキレたところで大して怖くもないだろうし。


「普段怒らない人って怒るとやばいもんね」


「蓮奈さんが求めてるのは頭ごなしに怒られるやつでしょ? サキのは正論で責めてくるやつだから」


「あ、それはやだ。沸点高い人って正論詰め好きだよね。最終的に泣きたくなるからほんと苦手」


紫音しおん、苦手だって言われてるぞ」


「まーくん、現実逃避しないの。お姉ちゃんは僕とまーくんを苦手って言ってるんだからね?」


 紫音も俺と同じで基本的に怒らない。


 俺の場合は怒るのがめんどくさいだけだが、紫音の場合は怒るのが嫌いなタイプだと思う。


 人の為なら怒るけど、基本的に相手を傷つけることが嫌いな紫音は聖母のような存在だ。


「まーくん絶対に変なこと考えたでしょ」


「紫音が聖母だって考えてた」


「まーくんはまだ僕を女の子扱いするんた……」


 紫音が俺の制服をキュッと握って寂しそうな顔で言う。


「聖母が女だけだと誰が決めた。紫音は聖なる存在なんだから聖母でいいだろ」


「なんでちょっとキレ気味なんだよ。紫音が引いてるぞ」


「俺の心が傷つくのをわかっててそういうことをするやつはしらん」


「サキが拗ねた」


 レンが楽しそうに俺の頭を撫でる。


 ほんとにいい性格をしている。


 そんなことを考えながらレンを睨んでいると、後ろから紫音に優しく抱きつかれる。


「いじわるしてごめんね。最近まーくんがお姉ちゃんばっかりになってて寂しかったの……」


「ねぇレン」


「ずるいよな。オレから言えるのは『ギリセーフ』ってことぐらいなんだよ」


 レンからの許しも得たので、聖母様の抱擁を堪能しながら聖母様の頭を撫でる。


「しーくんずるい!」


「ずるくないよ? だって僕は男の子だから」


「だからずるいの! 私がやると恋火れんかちゃんが拗ねて帰ってから怒るんだもん!」


「拗ねてないわ!」


「怒ってるのは認めるんだ」


 余計なことを言った蓮奈がレンに睨まれて俺を盾にする。


 するとなぜかレンの目つきが更に鋭くなった。


より、そろそろ助けて」


「ん? んー」


 依が聞いてるのか聞いてないのかわからないような返事をする。


 依は今、俺が真中先輩から貰った手紙を俺から奪ってジッと眺めている。


「何か変なことでも書いてあるの?」


「んー」


「ちょっと依しばくから全員離れて」


 俺がそう言うと紫音と蓮奈がサッと離れる。


 これだけすんなり離れられると依が実は嫌われているのではないかと不安になってしまう。


「まあいいか。じゃあ依、ちゃんと喋るのと、レンから本気のデコピン受けるのどっちがいい?」


「んー」


「レン、デコピンしてって」


「おけ」


 そこからは早かった。


 どうやら依はちゃんと話を聞いていたようで、返事を適当にしたのはわざとらしく、レンを止めようとしたけど、レンはそれよりも早く動き依のおでこに赤い丸を作った。


「痛そ」


「一応より直伝だからな」


「う、うちは、痛い打ち方を、教えた、だ……」


 相当に痛かったらしく、依は涙目になってそれ以上話せなかった。


「痛みが引いたら教えて。その間に手紙読まないと」


「サキってほんとドライだよな」


「依が返事しないからだし」


「返事してくれなくて寂しかったと」


「うん」


 別に寂しいとは言わなけど、わざとでも返事が適当なのはちょっと嫌だった。


 せめて言葉で返してくれたら違ったのだろうけど。


「くっ、お兄様の可愛さで痛みが和ら……げば良かったのに」


「和らいでないなら話さなくていいから」


「ほんと冷たい……。いや、うちのおでこを言葉で冷やしてくれてるのか」


「結構余裕あんだろ」


 レンにそう言われて依が「おでこが割れるー」とわざとらしく騒ぎ出した。


 めんどくさいので放置する。


「ふむふむ」


「なんて書いてあるの?」


「うちの学校ってめんどくさい人しかいないのかな?」


 俺は蓮奈に意味不明な手紙を手渡す。


「ふむふむ。私こういうの苦手だからパス」


 蓮奈がそう言って俺に手紙を戻す。


 手紙に書かれていたのはこうだ。


『虹の先、そして桜の足元、そこにて雌雄を決しよう。

 真中 実怜より』


「『虹の先』ってなに?」


「それを言うなら『桜の足元』もな」


「普通に考えるなら『虹の先の桜の木の下で決闘しよう』になるよね?」


「でもそれなら『そして』はおかしくないか?」


『虹の先』と『桜の木の下』という二つの場所を示す言葉がある以上、雌雄を決する場所を示すのに『そして』はおかしい。


 それなら『虹の先の桜の木の下』でいいはずだ。


「じゃあ『虹の先』と『桜の木の下』のそれぞれに意味があって、その二つの意味を合わせると場所になるってこと?」


「そうなるのかな? それはそれで意味がわからないけど」


「あれかな、『虹』っていう言葉の先と、『桜』っていう言葉の足元を合わせるみたいな」


「足元が最後なのはわかるけど、先ってどっち?」


『先』を『先端』と捉えるなら『に』になるし、『先』を『進む先』と捉えると『じ』になる。


 それにどちらにしても、桜の足元である『ら』と合わせても『にら』と『じら』になって場所にはならない。


「ニラのある畑だ!」


「どこにあんだよ」


「じゃあ地雷のある場所?」


「余計にどこだよ。ちなみにクジラのいる場所とかもないからな?」


「なぜわかった。それなら恐竜のいるとこだ!」


『ジュラシック』から取るのはちょっと無理やりがすぎる。


 蓮奈はもう考えるのを放棄しているので放置することにした。


「水萌……紫音は何かわかる?」


「舞翔くん、なんで私の名前を呼んでから諦めたようにしーくんの方に聞いたのかな?」


「水萌は最後に聞いた方がいい閃きをくれるかなって」


「思ったの?」


「思ってないです」


 水萌がほっぺたを膨らませて俺を睨む。


「ちなみに水萌はわかる?」


「ふんだ。舞翔くんは私じゃわかんないって思うんでしょ。素直にしーくんに聞けば」


「じゃあ紫音、わかる?」


「やーだー、私にも聞いてー」


 水萌が俺の腕を掴んで引っ張る。


 頭がぐらつくからやめて欲しい。


「じゃあ水萌、わかる?」


「わかんない!」


「ありがとう。それで紫音は?」


「あ、水萌ちゃんは今ので満足なんだ」


 紫音が驚いたようにしているが、水萌は既に手紙に興味を無くして俺の手で遊んでいる。


「水萌は飽き性だから」


「うん、まーくんにしか興味が無いのはわかった。それでお手紙の方だけど、僕もなぞなぞとか得意じゃないんだよね」


「こういうのって発想の転換だから一つわかると全部わかるんだけどな」


「だよね。虹の先ってなんなんだろ。桜の足元はなんとなくわかるんだけど」


 紫音の言う通り、桜の足元が土や根っこなのはわかるけど、虹の先がわからない。


 時間的に考えるなら、虹の先は虹が消えた空が残り、比喩として考えるなら虹の向こう側とかになる。


「レンはわかる?」


「さあ。もうギブでいいじゃん」


「まあいっか。俺も別に謎を解きたいんじゃなくて真中先輩に会うかどうかを決めたいだけだし」


 そもそもこの手紙は俺が真中先輩と勝負をするかどうかを決める為のもの。


 だから謎で時間を取られるのは本末転倒とも言える。


「じゃあ答え合わせしようか。依」


「なーに?」


「白々しいからいいよ。答えは?」


「えー、こんなのもわかんないのぉ?」


「サキ、よりがウザイからもう一発していいよな?」


 レンがデコピンを構えながら俺に聞いてくる。


「許す」


「許さないで! 教えます、教えますのでどうか」


 依が頭を地面に擦り付けながら土下座をする。


 土で汚れるからやめなさい。


「まったく」


 依の肩を叩いて頭を上げさせ、おでことスカートに付いた土をはたいて落とす。


「れんれんよ、おたくの彼氏がうちを惚れさせようとしてくるんだが?」


「気にするな、いつものことだから」


「彼女としてもう少し気にしなさいよ?」


 なんかよくわからないけど、依に付いた土は綺麗に取れた。


 俺満足していると、ため息をついた依に軽いデコピンをされた。


 理不尽を訴えようとしたら「ありがと」と笑顔で言われたので訴えは保留にすることにした。


 そして立ち上がった依が「じゃあ行こ」と言って歩き出した。


 よくわからないけど、とりあえず俺達は依の後に続くのだった。

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