オプションの為に
「可愛いメイド捕まえてきた」
「え、それはつまり捕まった私は舞翔君からあんなことやこんなことをされるがままになって、そして最後には……」
何か騒いでいるメイドを無視して椅子に座る。
可愛いメイドが騒ぐせいで視線が痛い。
「さすがのオレでもそういうのはどうかと思うんだよ」
「そういうのとは?」
「言っていいの?」
「俺が悪かったです。ていうか蓮奈がこんななのは今更だろ」
「こんなって酷い言い方するよね。もしかして私をおもちゃにする遊びってもう始まってる?」
またも俺に視線が刺さる。
帰ったら蓮奈と話し合う必要があるようだ。
「私も舞翔くんのおもちゃになりたい」
「水萌、あんまりそういうことを人前で言うな。誤解を生む」
「お兄様がガチで止めに入ってる」
依がニマニマしながら楽しそうに言う。
あの娘にも後で話し合いが必要だとして、ガチで止めるのは当たり前だ。
正直ここの席の顔面偏差値は高すぎて、それだけで周りの視線を集めている。
そんな中で「おもちゃになりたい」なんて言ったら普通にアウトだ。
「舞翔君は周りの目とか気にしないと思ってた」
「俺は気にしないよ。だけど水萌が変な目で見られるのは嫌だ。それと蓮奈は当たり前のようにサボるな」
俺達は五人で蓮奈に会いに来たけど、席は六人席だ。
俺の両隣に水萌とレンが座っていて、俺の正面が紫音で、俺の右斜め前が依。
そして余っている席に蓮奈が座った。
「サボってないよ? メイドさんとおしゃべりできるサービスです」
「確かに実際のメイド喫茶にはありそうだけど」
「オプション料としてマージンいただきまーす」
「チップをよこせと」
「お金じゃなくていいからね? 後で私で遊んでくれれば」
蓮奈がニコニコしながら言う。
私『と』じゃないのが気になるけど、蓮奈がそう言うなら仕方ない。
「いいよ」
「ほんと?」
「もちろん。蓮奈で遊べばいいんだよな?」
「そうそう。どしたぁ、ついに私に惚れたかぁ」
「だそうだから任せたよ」
俺が両隣で痛い視線を送ってきていた水萌とレンに言うと蓮奈のニマニマ顔が固まる。
「なるほど、任されたー」
「蓮奈さんに好き勝手していいと。それはいいな」
「考え直すんだ舞翔君。その二人は舞翔君と違って容赦がないんだよ!」
「え、だから任せるんだよ? 蓮奈もそれを望んでるんでしょ?」
蓮奈はおもちゃになることを望んでいる。
だったら俺よりも水萌とレンの方が楽しんで蓮奈をおもちゃにしてくれるだろう。
それなのに蓮奈の顔が引き攣っている。
「お兄様がれなたそで遊んでる。だけどれなとそが望んでるのはこれじゃないんだよなぁ」
「まーくんはわかってやってるよね」
「だろうね。お兄様はうち達をいじってる時が一番生き生きしてんだよね」
なんだか依と紫音に馬鹿にされた気がする。
まあ確かに今は蓮奈をからかっているけど、別にみんなをからかうのが趣味とかではない。
みんながいい反応をくれるからついやってしまうだけだ。
「つまり俺は悪くない」
「絶対悪いやつだ」
「悪くない」
「頑固さんだ。それはそれとしてさ、お腹空いた」
水萌がお腹を押さえながら俺に上目遣いをする。
女子がこうするのは「奢って欲しい」とかの意味合いがあるのだらうけど、水萌の場合は「お腹空いたから何か食べたい」という意味合いしかない。
そこに不純な考えがないのが水萌の純粋さだ。
「もうちょっとお話しないかな?」
「蓮奈はサボりたいだけだろ」
「そうさ、誰だってサボれるならサボりたいだろ!」
「開き直りやがった。でも実際俺達って結構席占領してるから邪魔なんだよな」
今はまだ席に空きはあるけど、俺達が来た時よりもお客は増えている。
このまま居座っていると本当に追い出される。
「とりあえずこのままだと蓮奈がただサボってるってことになるから何か頼もうか」
「料理を運ぶっていう仕事をすることにはなるからね。そもそもオプションって何かを頼んでから付くものだし」
依の言う通り、とりあえず何かを頼めばその席に居ても違和感はない。
現に他の席でも専属のメイドさんが付いているし。
「舞翔君の優しさにお姉さん涙が出てきちゃう」
「メイド喫茶なんだから『あれ』もあるんでしょ?」
「舞翔君の鬼畜っぷりにお姉さん涙が出ちゃう……」
メニューを軽く見ただけでも、あるのはわかる。
それこそ本当の意味でのオプションが。
「定番なのはオムライスだよな。ちなみに料理によって変わるとかってある?」
「私はオプションの付かないメイドさんなので」
「じゃあ一緒におしゃべりできないな」
「舞翔君は私とお話するの嫌なんだ……」
蓮奈がとても寂しそうな顔をする。
「つまりオプションのあるメイドさんなんだな?」
「オプションなんてなくても私とお話したいでしょって意味!」
「だけどオプションってことにしないとほんとにサボりじゃん」
「ぶっちゃけさ、私一人いないくらいで変わるものでもないでしょ」
さっきまでの表情はなんだったのか、蓮奈がため息をつきながらめんどくさそうに言う。
まあその通りだけど。
「だけど後で言われるぞ。『あいつは私達が興味もない男達と話してる間ずっとサボって友達と話し込んでた』って」
「そして私は学校を辞めるのか……」
「俺は蓮奈が学校辞めるの嫌だから」
「だから?」
「注文をする。そしてオプションよろ」
「私の痴態を見たいだけ……」
蓮奈が言葉の途中で何かを考え出す。
多分ろくでもないことを考えている。
「一応聞くけど、どうした?」
「いやさ、私の痴態を見たい舞翔君ってなんかエッチではないか?」
「ほんとに聞いて損した」
わかってはいたけど、本当にどうでもよすぎて呆れもしなかった。
とりあえず蓮奈は無視してメニューを確認する。
「みんなは食べたいものとかある? できれば色んな種類のオプション見たいんだけど」
「お兄様ってほんと鬼畜だよね。まあうちも見たいから頼むけど」
「蓮奈さんいじめてやるなよ。とりあえず全部水萌が食べればいいから全部頼んでみる?」
「恋火ちゃんもだよ。僕はお仕事で来れない叔父さんと叔母さんの代わりにお姉ちゃんのこと撮る係やるね」
「紫音が一番鬼畜だろ」
なんだかんだでみんな鬼畜だった。
だけど慈悲の心で頼むものは鬼畜達ではなく、純粋無垢な水萌に任せることになった。
まあつまりそういうことだ。
蓮奈は絶望しながら全てのメニューの準備に向かった。




