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文化祭当日

「来なくていい日ってなんでこうも早く来るのかね」


「時間の進みを考えないからかな?」


 絶望を通り越して『無』になっている蓮奈れなと学校に向かう。


 今日は待ちに……は待ってない文化祭の日だ。


 蓮奈にとっては絶望の一日になるのかもしれない。


「だけど仮病使わないのが蓮奈のいいところだよな」


「何度風邪になることを祈ったか」


「風邪を祈るとこも偉いよな」


 蓮奈は本当に今日という日を嫌がっていた。


 水萌みなもと話したおかげで衣装合わせはなんとかなったようだけど、いざ本番が近づいてくるとあからさまに元気が無くなってた。


「お姉ちゃんね、せっかくまーくんのおかげで学校行けるようになったのに、仮病とかの『嘘』で学校休むのが嫌なんだって。まーくんを裏切るみたいで」


「しおくん帰ったらお説教」


「蓮奈のそういうところほんとに好き」


「やっぱり帰ったら褒めてあげる」


 蓮奈が控えめ気味に頭を突き出してくるのでその頭を撫でる。


「手のひら返しがやばいな」


恋火れんかちゃんが言う?」


「オレはあそこまでじゃないだろ」


「でもなんだかんだ言って舞翔まいとくんと恋人さんしてるしー」


 水萌がからかうように言うと、レンが怒って追いかけっこが始まった。


 まあ水萌がレンを振り切れるわけもなく、すぐに捕まったけど。


「あの二人って姉妹みたいだよね」


「姉妹だしな」


「やっぱりそうな……え?」


 蓮奈が足を止めて固まる。


「水萌とレンって双子だよ?」


「混乱してる。まず、なんで隠してたことをそんなあっさり言う?」


 蓮奈がジト目を向けながら聞いてくる。


「別に隠してたわけじゃないよ。話すタイミングがなかったから言わなかっただけ」


 水萌とレンが姉妹ということは隠してるわけではなく、わざわざ話す必要性を感じなかったから話さなかっただけだ。


 二人も聞かれたら話すつもりだったようだし。


「僕は知ってたよ?」


「なんでさ!」


「話したっけ?」


「うんとね、まーくんのお父さんのお墓参り行った時にさ、水萌ちゃんと恋火ちゃんのお父さんとお母さんも来てたでしょ? さすがにわかる」


 言われてみればその通りだ。


 ずっと聞かれたら話そうとは思っていたけど、そもそも知ってるから聞かれなかったようだ。


「だからまーくんと水萌ちゃんが兄妹じゃないのも知ってる」


「そりゃそうだ」


「ちょいまち。私はその兄妹設定も知らないんだが?」


 蓮奈がなぜか拗ねたような顔で俺を睨んでくる。


 別にわざわざ話すようなことでもないし、その設定だって必要なくなってきたものだから仕方ない。


「そうか、そうやって私だけを除け者にするのか……」


「え、蓮奈は騙されてた方が良かったの?」


「舞翔君って言い方ずるいよね。仕方ないから私には嘘をついてないってことで許してあげる」


 蓮奈が「やれやれ」といった感じで俺の肩を叩いてくる。


 まるで俺が何か悪いことでもしたみたいで癪だ。


「とりあえず文化祭始まったら一番に蓮奈のクラス行くから」


「貴様、私が忘れてたことを……」


「ちなみにシフト的に居る?」


「私は午前中だけだから居るよ。つまり午前中ずっと居座って、私を指名してくれれば私は生き延びれるかもしれない」


 蓮奈が俺の肩に指が食い込むぐらい強く掴む。


 ちょっと痛い。


「指名制なの?」


「……うん」


「違うのね。ていうかメイド喫茶なら厨房やれば良かったんじゃないの?」


 俺は文化祭の出し物の裏側を知らないけど、『喫茶』というからには飲食があるわけで、蓮奈は家がパン屋さんなんだから厨房の方が合ってると思う。


「男子が内装作りで、女子は接客兼厨房です……」


「最初っから詰んでるのね。回転率とか考えてないのが文化祭っぽいけど」


 これが仕事となれば、接客と厨房で分けた方が客の回りが良くなって稼げるだろうけど。


「まーくんが夢のないこと言ってる」


「回転率は言っちゃいけないよ。文化祭はあくまでお祭りであってお金稼ぎの場所じゃないんだから」


紫音しおんはわかるけど、蓮奈にもマジレスされるとは思わなかった」


 蓮奈ならむしろ同意してくれると思ったのに、呆れられた。


 味方だと思っていた存在に背中から斬られた気分だ。


「そもそも分けたところで私が厨房になれるとでも?」


「なれないの?」


「いいかいしおくん。陽キャの目立ちたがり屋は自分から接客やりたがるだろうけど、それだって過半数なんだよ。しかも自称料理上手とか、男子に料理上手アピールしたい人は厨房に行くの。そうなるとどうなるかわかる?」


「お姉ちゃんみたいに積極性の無い人はみんな接客になっちゃう?」


「そうだけど、そんなにストレートに言われると傷つくからね?」


 蓮奈が落ち込んでしまったので頭を撫でる。


「お姉ちゃん、ごめんなさい」


「いいよ、私が根暗ぼっちのクソ陰キャなのが悪いんだから……」


「まーくんどうしよう、学校に近づくに連れて気分が落ちてくお姉ちゃんの気分を落としちゃった……」


 紫音があわあわしながら俺と蓮奈に視線を彷徨さまよわせる。


「根暗ぼっちのクソ陰キャは俺もなんだけどな。まあ今の状況で『ぼっち』は信じられないんだけど」


 水萌達と会う前の俺は確実にぼっちだった。


 だけど今では誰かしら近くに居る。


 そして最近はほとんど常に蓮奈が一緒に居る。


 つまり蓮奈は俺と同じで『ぼっち』を名乗ることはできない。


「それに俺は蓮奈が根暗ぼっちのクソ陰キャなとこがいいと思う」


「まあ陽キャとか嫌いだろうしね」


「蓮奈もだろ。それよりあんま紫音をいじめんなよ?」


「しおくんが酷いこと言ったのが悪いんだもん」


「いや、紫音は事実しか言ってないだろ」


「あー、舞翔君まで酷いこと言ったー。知らないんだー」


 蓮奈が嬉しそうに俺の少し前を歩き出す。


 何がそんなに嬉しいのか。


「そういえば蓮奈ってなじられて喜ぶタイプか」


「そうだけどそうじゃないわ!」


「じゃあなんで喜んでんの?」


「そこはノリじゃんか」


「よくわからん」


 蓮奈がさっきまでの笑顔が消えてふくれっ面になってしまった。


 これも手のひら返しになるのだろうか。


 それとも百面相?


「まあ可愛いでいいか」


「一人で悩んで一人で解決して、結果の提示だけで私を弄ぶのやめなさいな」


「言い方がめんどくさい」


「そっくりそのまま返すわ!」


 蓮奈が怒って前を歩く。


 反応がいちいち可愛くて見てて面白い。


「まーくんってお姉ちゃんで遊ぶの好きだよね」


「反応がいいからさ」


「じゃあ僕もいい反応したら好きになっちゃう?」


「ちゃんと好きだから」


 紫音のコテンと倒した頭を撫でる。


 紫音のことだって友達として好きだ。


 俺はそういうことを隠してないのにみんな何が心配になるのか。


「まーくんは男の子も……」


「なんて?」


「ううん、なんでもない。僕はそうなっても受け止めるから」


「ほんと何言ってんの?」


 紫音が意味のわからないことを言い出すので聞いても「大丈夫」としか言わない。


 結局なんだったのかわからなかったけど、多分大したことではないだろうから置いておくことにした。


 それよりも学校に近づくに連れて元気が無くなる蓮奈だ。


 学校が見えてきたら俺の背中に隠れて離れなくなってしまったので、仕方なくそのまま俺の靴を履き替えてから蓮奈の靴を履き替えた。


 そしてどうしても離れようとしない蓮奈を自分のクラスまで送り届けることにした。


 さすがに同級生に見られるのは恥ずかしかったのか、二年生の階に着くと隠れるのはやめて俺の制服を掴むだけになった。


 そして蓮奈のクラスに着いて、泣き出しそうになった蓮奈に「がんば」と伝えて俺は自分の教室に向かった。


 蓮奈も諦めて教室に入って行ったのでとりあえずは良かった。


 だけど、蓮奈の教室に着いた時に殺気のようなものを感じたのはなんだったのか。

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