初めての全員集合
「久しぶりの依ちゃん登場、ババン!」
「セルフSE 付けんのは水萌だけでいいから。それと蓮奈が怯えるから落ち着け」
昼休み、初めての全員集合が行われた。
意外なことに、俺達六人が全員集まるのは今日が初めてだ。
そしてこれも意外なことに、依がここ、俺と水萌が出会った体育館裏に来るのも初めてになる。
「久しぶりって言うけど、ちょくちょく学校には来てたじゃん」
「そうだけど、なんか感覚的にはだいたいラノベ一巻分ぐらいぶりな感じなんだよね」
「確かにこの、依の意味のわからない感じがすごい久しぶりに感じる」
別に夏休み明けも最低一週間に一回は依と会っていたのに、なぜだか久しぶりに話した感じがするのはなんなのか。
「も、もしかしてこの世界はラノベなのか!?」
「もしそうならどうする?」
「多分この世界はお兄様とれんれんルートだろうから、番外編とかifルートを作ってもらって分岐エンディングを書いてもらうかな?」
「ちなみに依ってラノベの中に入って推しのキャラと付き合いたいとか思うタイプ?」
「は? 確かに好きなキャラはいるけど、うちは好きなキャラには幸せになってもらいたいんだよ。それでそのキャラにとっての幸せは好きな人と一緒に居ることで、それを邪魔したくない。たとえその二人が結ばれなかったとしても、うちはその関係性を含めて推しになってるから、うちがその子と付き合うとかないから。たまに『この子は俺の嫁』みたいに言ってる人いるけど、二次元と三次元を一緒にしないで欲しい。百歩譲って嫁を自称するのはいいんだけど、あくまで自称だから、その子はあなたの嫁になっても喜んでないから。とか言うと怖いオタクがガチギレするだろうからちゃんと『個人の感想です』は付けとくよ?」
軽い気持ちで聞いたのに、結構な力説が返ってきた。
それと終始真顔で淡々と話すのは怖いからやめて欲しい。
「依ちゃんは変わらないね」
「うちは不変の存在なのさ」
「一生変人」
「ボソッと言っても聞こえてるからな?」
紫音が甘やかすから余計な一言を追加してみたら怒られた。
まあ確かに学校を休みがちになったこと以外は特に変わった様子はない。
「でもお姉ちゃんが怯えてるから抑えて」
「そういえばお兄様に隠れてるそこの可愛い人が紫音くんの従姉妹のお姉さん?」
俺達の全員集合が初めての理由は依と蓮奈が会ったことがないから。
俺が蓮奈と初めて会った時は蓮奈が逃げた為蓮奈と会うことはなかった。
それからも依は蓮奈どころか俺達とも夏休み中は会っていない。
そしてたまに学校に来てもお昼を一緒にすることがなくて会ってなかった。
「依ってなんでお昼来なかったの?」
「うちにも付き合いがあってね。それと、蓮奈お姉様だったよね? 結構な人見知りだって聞いてたのもある」
「ちょっと気になることはあったけど、依って変人なのに気づかいしすぎだよね。だからなのか?」
「うちもすごい気になることがあるけど、実際お姉様怯えちゃってるじゃん? 水萌氏とれんれんは久しぶりのうちに興味無さそうにご飯食べてるのに」
紫音と依は怯えていると言っているけど、蓮奈は多分怯えて俺に隠れてるわけじゃない。
むしろ逆と言うか……可愛いな。
「間違えた」
「何を?」
「蓮奈がソワソワしてるの見てたらなんか可愛いなって」
「れんれん、浮気だぞ」
「あぁ、後でいじめとく」
レンが興味なさそうに俺が作ったお弁当を食べる。
レンは夏休み明けから俺が作ったお弁当を食べるようになった。
そしてレンも俺に作ってくれるようになり、俺はレンの作ったお弁当を食べるのだけど、それを水萌もやるものたから、俺は毎日二つのお弁当を食べている。
せめて交互にしてくれればいいのだけど、俺があげるなら自分達も作らないとおかしいということで作ってきてくれる。
まあ作ってきてくれるのだから残さずに全て完食するけど。
「些細なことで嫉妬してたれんれんがあんなに余裕を……ナニしたの?」
「お前今カタカナだったろ」
「えー、カタカナだと何かあるのー?」
「もう高校生なんだからそういうのは知ってないと駄目だろ」
「うわ、一番言われたくない相手にマジレスされた」
俺だって最近は勉強している。
というかしないとレンにされるがままになるのがこの前の一件でわかったので本気で勉強中だ。
「カタカナだと何かあるの?」
「紫音は健全な高校生枠だから知らなくていい」
「純新無垢な少年が世界の汚い部分を知って汚れていく姿を見るとゾクゾクしない?」
「世界の敵は黙ってろ」
紫音と依は気が合うとは思うけど、依という劇薬を近づけると紫音に悪影響しかない。
これがジレンマというやつなのか。
「お兄様のうちへの扱いが雑なところもほんと変わらないよね。久しぶりなのもあって気持ちよくなってきた」
「変人から変態にランクアップしとく?」
「言っとくけど、絶対にうちだけじゃないからね?」
依がそう言って静かにお弁当を食べている二人に視線を向ける。
二人は気づいてないフリをしてお弁当を食べ続ける。
「わ、私はもっと雑に扱われてもいいけどな……」
なんだか俺の背後で不穏な声が聞こえたような気がしたけど、多分気のせいなので無視をする。
それについては無視をするけど、そろそろ俺もお弁当を食べたいので蓮奈をどうにかすることにする。
「蓮奈、あそこにいるのは確かに変な人だけど、実はいい人だから話してみな」
「褒めてるようで貶してるだろ」
「違うよ、貶してるようで褒めてるの」
「同じだ!」
依が頬を膨らましてジト目を向けてくる。
「どうした? 可愛いよ?」
「うちはどう反応したらいいのさ。可愛いって言われたことを喜べばいいの?」
「好きにしていいよ」
「じゃあお兄様に口説かれたことにしと……なんでもないでーす」
依が一瞬顔を引き攣らせて紫音に隠れに向かった。
なんだかレンの方を見たような気がするけど、レンは澄まし顔でお弁当を食べている。
「危なかったぜ」
「アウト寄りのセーフ?」
「違う、セーフ寄りのアウトだ」
「それって駄目じゃない?」
「そう、だからどうしよう……」
依が震えて助けを乞うような顔を紫音に向ける。
そんな依に紫音が「頑張れ」と、無情にも引き離すようなエールを送って頭を撫でている。
「お、お兄様、あなたの彼女さんがうちを襲おうとしてるよ? いいの?」
「何がだよ」
「寝盗られるかも」
「は?」
「はい、すいません。どうしよう、水萌氏は絶対に味方になってくれないから頼れるのは……」
依はそう言って俺の背中にピッタリくっついて離れようとしない蓮奈を見る。
「へい、そこの彼女。ちょっと真面目に助けてください。なんでもします」
依はそう言って蓮奈に頭を下げる。
別にレンだってそこまで酷いことは……しないだろうからそんなに怯えなくてもいいのに。
「え、えと……」
「蓮奈、嫌なら嫌でいいぞ。依は雑に扱われるのが好きな人だから」
「そういう誤解を生む説明はやめてくれるかな? うちが雑に扱われて喜ぶのはお兄様だけだから」
依がため息混じりに言うが、俺だけでなく水萌やレン、紫音にも雑に扱われて喜ぶと思う。
「じゃ、じゃあ質問していい、ですか?」
「いいですよー。お兄様は聞いてくれないけどスリーサイズとか言いましょうか?」
「あ、それは別に……」
「変なこと言って蓮奈を困らせるのやめてくれる?」
「これはうちが悪い。それでなんでしょうか?」
「依ちゃんさんは、壁のシミ派ってことで合ってますか?」
「そですね、恋愛はするより見る方が好きです」
「同志……」
蓮奈が目をキラキラさせながら依の手を握る。
ちょっと話してる内容がマニアックすぎて、にわかの俺にはまだわからない内容だったけど、多分蓮奈と依は仲良くなった。
オタクというものは、きっかけさえあれば仲良くなるのも険悪になるのも一瞬だ。
とりあえず蓮奈が依と話すのに夢中になってる間にお弁当を食べることにした。




