照れさせよう大会2
「さてさて、舞翔くんが復活したところで再開しよー」
「俺は一体何を?」
水萌がやけにハイテンションだけど、さっきまで俺が何をされていたのか覚えていない。
そういうことにしておく。
「水萌ちゃんはなんでそんなに嬉しそうなの?」
「可愛い舞翔くんが見れたから」
「なる。でも水萌ちゃんなら嫉妬とかしそうだったのに」
「私は恋火ちゃんが舞翔くんと恋人さんでいるならそれでいいの。恋火ちゃんが舞翔くんを好きでい続けて、それを認めて、そして舞翔くんを幸せにしてくれるならそれで」
「つまり恋火ちゃんが桐崎君と付き合ってる間は誰が桐崎君を笑顔にしても可愛い桐崎君が見れるからいいけど、桐崎君がフリーな状態なら自分が桐崎君を一番幸せにさせたいってこと?」
「そんな感じかな? 一番に幸せにしたいって言うよりかは、一番になりたいって感じだけど」
決して俺は悪くないはずなのに、今の会話を聞いたレンが俺をジッと見てくる。
俺がレンの方を見るとそっぽを向いた。
なんなのだろうか、あの可愛い生物は。
「とにかく、私は嬉しいのです」
「それなら良かったよ」
「だけど残念なことに蓮奈お姉ちゃんは脱落です」
そういえば俺を照れさせる大会を勝手に開催されていた。
制限時間五分以内に俺を照れさせたら勝ちで、複数人勝者がいたら決選投票が行われるという。
俺は蓮奈に照れさせられたが、制限時間五分をオーバーしたので大会は脱落になる。
「ふっ、甘いぞ水萌ちゃん。水萌ちゃんと私が大好きなシュークリームよりも甘い」
「な、なんだって……」
何やらおかしな茶番が始まった。
「私は確かに制限時間以内に桐崎君を照れさせることはできなかった。だけどそれも想定のうちなのだ」
「も、もしかして!」
「そう、私は事前に桐崎君に照れさせられたから桐崎君にイタズラをしてもらえるのだよ」
「そ、そんな裏技が……」
驚愕したような顔をしている水萌も、俺にイタズラされることを誇らしげに言ってる蓮奈はなんなのか。
レンの呆れたような顔を見て欲しい。
「つまり私も照れれば舞翔くんからイタズラを……」
「でもその場合は水萌ちゃんが桐崎君を照れさせても意味は無くなるよ」
「これがジレンマっていうやつなのか……」
本当に何を言っているのか。
水萌も蓮奈も真剣すぎて口を挟めない。
「私はどうしたらいいの?」
「簡単なことだよ。水萌ちゃんがしたい方を選べばいいのさ」
「だけどそれで舞翔くんを照れさせられなかったら……」
「じゃあ諦める?」
「やだ!」
「それならどうするの?」
「頑張る!」
「うん。水萌ちゃんならできるよ」
「蓮奈お姉ちゃん!」
水萌が蓮奈に抱きついた。
見ている分には可愛い二人が中を深め合ってるように見えるから目の保養になるけど、話してる内容は意味がわからない。
「よし、私、頑張る。その前にお買い物してきます」
水萌はそう言って蓮奈の部屋を出て行く。
そして少しして大量のパンをおぼんに載せた水萌が帰ってきた。
「なんかシュークリーム買いに行ったらたくさん貰った」
「お父さんとお母さん、私が学校行けるようになったの相当喜んでたからね。桐崎君含めてみんなに感謝してるんだよ。迷惑じゃなかったら受け取って」
「迷惑なんかじゃないよ。ほとんど舞翔くんがしたことだけど、蓮奈お姉ちゃんと学校行けるの私も嬉しいし、それでこんなに美味しいパンを食べれるなら嬉しいことしかないよ」
実際学校な行く決心をしたのは蓮奈なんだから俺達がお礼を貰うのは変な話だ。
それだけ蓮奈を大切に思ってるのがわかるから素直に受け取るのが礼儀なのだろうし、既に手を伸ばしている水萌同様受け取ることにする。
「とりあえず私の五分を始めるね」
「頑張れ水萌ちゃん」
「うん」
水萌が部屋の真ん中に置かれたおぼんの隣に座り、その隣を叩いて俺を呼ぶ。
蓮奈の真似なんだろうけど、水萌がやると小さい子が大人ぶってるようで可愛い。
「もう始まってるの?」
水萌の隣に腰を下ろしながら聞く。
「うん。時間は少ないからやるよ。ずっとやらせてくれなかったこれ!」
水萌が目をキラキラさせながらシュークリームを手に取って俺の口元に運んできた。
「懐かしいものを」
「ちゃんと約束したからね? 舞翔くんがお熱出した時にやらせてくれたけど、舞翔くんが元気な時にもう一回やらせてくれるって言ったもんね」
「昔すぎて忘れた」
「懐かしいって言ったもん……」
「落ち込むのは想定外でした。覚えてます、お願いします」
水萌が本気で落ち込んでしまったので俺は土下座して謝る。
「良かった。じゃあお口開けて」
「う、うん」
さっきまでの落ち込みようが嘘のように水萌の目のキラキラが復活する。
「は・や・く」
水萌が女の子座りでグイグイくる。
膝に乗ってこないだけまだいいけど。
「あ、あーん」
「か、可愛い……」
「やめるぞ」
「照れた?」
「顔に出たら勝ちなんだろ?」
「むぅ、それなら続き。お口開けて」
水萌が楽しそうに言うので今度は何も言わずに口を開ける。
そして水萌が口元に運んできたシュークリームを一口食べる。
「美味しい」
「いつもより?」
「うん。本当に美味しくなってる可能性はあるけど」
水萌に食べさせてもらったおかげか、本当にいつもよりも美味しく感じるけど、今日のが特別な美味しい可能性も捨てられない。
これを人は照れ隠しと言うのかもしれないけど、後悔とはしてからじゃないと気づかないものなのらしい。
「あむっ」
「あ……」
「んー、いつもと同じ味だよ?」
「そ、そうか。まぁでも今更か?」
「なに、が……」
今起こったことを話すと、水萌が俺の食べたシュークリームを食べた。
もちろん俺の食べた箇所を。
いわゆる間接キスだけど、最近は少なくはなっていたが、出会ってすぐの頃はよくやっていたから今更恥ずかしがることでも……
「あるのか……」
「だ、だって最近してなかったし、それに舞翔くんのことをちゃんと好きだって理解してからはそれこそ……」
「そうだな、これからはもっとやる?」
「舞翔くんのいじわる……」
水萌がほっぺたを膨らませながら俺にはいはいで寄って来て、耳元に顔を近づける。
(舞翔くんのえっち。……でも二人っきりの時にね)
水萌がそう囁いてニコッと笑う。
男女問わずに聞きたい。
これで照れないまたは顔に出ない人類はいるのだろうか。
少なくとも俺には無理だった。
それからしばらく俺が動けなかったのは言うまでもない。