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番外編 古き思い出 ⚠この話は世界観が結構変わるので注意が必要です。暴力的な意味で。後、めっちゃ長いです。

「またやってるよ……」


 近いからと選んだ高校。


 その高校へ向かう途中には怖い人達が居る。


 たまに同じ場所で何かを怒鳴り合って、たまに手が出たりもしていて危ない。


 僕はそういうのが苦手なので本当にやめて欲しい。


 それなら道を変えればいいって?


 そうもいかないわけがある。


「毎度毎度絡んでくんじゃねぇよ」


「それはこっちのセリフだ。先に居たのは俺とあねさんだろうが」


「その姉さんが俺らにガン垂れてくんだろ」


「仕方ないだろうが。姉さんは朝弱くて目が開かな……なんでもありません!」


 まるで舎弟のような小物感のある男の子がすごい剣幕の『姉さん』と呼ばれた茶髪の女の子に睨まれている。


 まあどちらも僕の知り合いなんだけど。


悠仁ゆうじ、そうやってすぐ喧嘩しないの。それと陽香ようかちゃんも起きて」


 僕は強面の先輩達に頭を下げながら幼なじみの悠仁と陽香ちゃんに近づく。


大翔やまと遅い」


「陽香ちゃん達がいつも早いの。僕だって十分前には着くような時間で出てるのにいつも悠仁と陽香ちゃんが先に居ていつも先輩達と言い合ってるし」


 僕はそう言って先輩達の方に体を向ける。


「ほんとにいつもすいません」


「お前は気にしないでいい。ぶっちゃけると俺らもお前とそこのちっこい姉さんのやり取りが見たくて絡んでるところがあるから」


「あ? 泣かすぞ」


 陽香ちゃんが怒って先輩達に向かって行くのを手で止める。


「大翔、大切な幼なじみが悪口言われてんのに何もするなって言うのか?」


「ううん。陽香ちゃんに確認したくて」


「何をだよ」


「陽香ちゃんは『ちっこい』って言われたのに怒った?」


「当たり前だろ」


「そっか」


 確かに陽香ちゃんは高校生の平均からしたら小さい。


 だけど僕はそこが可愛くて好きだ。


 だから悪口を言われたとは思ってないけど、陽香ちゃんが悪口を言われたと思っているのなら……


「あ、始まる」


「悠仁、呑気に見てんじゃねぇ。大翔を止め──」


「先輩、陽香ちゃんは小さいからいいんですよ。知ってます? 陽香ちゃんって小さい頃から小さくて、背の順で並ぶ時は常に一番前なんです。だけど陽香ちゃんは腰に手を当てるんじゃなくて腕を伸ばしたいってずっと思ってたんです。それだけでかわいいのに、背を伸ばす為に牛乳を毎日飲んで、寝る子は育つを信じて今でも夜の九時には寝て、他にも色々とやってるんですけど見ての通り小さいのは変わってないんです。だけどそれがまた可愛い。陽香ちゃんは小さいから可愛いんです。いやもう、身長が一ミリ伸びた時なんて……何? 今いいところなんだけど?」


 僕が気持ちよく陽香ちゃん語りをしていたら悠仁に肩を叩かれた。


「大翔、先輩達も引いてるし、何より姉さんがやばい」


 引き攣った顔の悠仁に言われるがままに先輩の方を見ると、確かに複雑そうな顔をしている。


 そして陽香ちゃんは両手で顔を隠しながらうずくまっているが、耳が真っ赤だ。


「陽香ちゃん、大丈夫!? 体の調子悪いなら家に帰ろ。僕が看病する」


「逆効果だからやめとけ。それと姉さんは別に病気とかじゃないから」


「悠仁は黙って」


「ガチトーンやめろし。お前が怒ると本気で怖いんだから……」


 悠仁が何か言ってるけどそんなの興味ない。


 今は陽香ちゃんだ。


「陽香ちゃん、せめて大丈夫かどうかだけ教えて」


「大丈夫。大丈夫だから少し離れて」


「でも……」


「お願いします。後でなんでもするので」


 心配だけど陽香ちゃんがそう言うなら従うしかない。


「今日のは一段とだな」


「安心してください。俺は幼稚園の時から見せられてるんで」


「お前も苦労してんだな。俺達は『リトルデビル』が『リトルエンジェル』になるのが面白くてたまにここで絡んでるけど、あれを毎日は胃もたれしそう」


「その為に毎日胃腸薬持ってきてるんで」


「ほんとに苦労してんだな。あれが『リトルデビル』って呼ばれてたなんて誰も信じないだろ」


『リトルデビル』とは、確か陽香ちゃんのあだ名だった気がする。


 陽香ちゃんは確かに小悪魔みたいに可愛いからいいあだ名だ。


「あんまりそれを大翔の前で言わない方がいいっすよ。その呼び名自体は知ってますけど、大翔の中では『友達に付けられたあだ名』的な認識なんで」


「つまり?」


「バレたら姉さんに校舎裏っすね」


「……さて、俺らはそろそろ学校に行くか」


「お前ら後で来いよな」


 陽香ちゃんが片目だけで先輩達を睨みつける。


 先輩達は冷や汗をかいて怯えている。


「陽香ちゃん、元気になったなら僕達も学校行くよ。それとあんまりそういう目しないの。可愛いのに変わりないけど、僕と悠仁じゃなかったらまた勘違いされちゃうよ」


「うっさい、バカ大翔!」


 陽香ちゃんが顔を赤くして走り出した。


 だけど少しすると止まって僕達を待ってくれる。


「ああいうところが可愛い」


「大翔には勝てないな」


「何か言った?」


「さっさと付き合えって言ったんだよ」


「僕と陽香ちゃんじゃ釣り合わないでしょ」


「お前以外で誰が姉さんにあんな顔させられるんだよ」


 悠仁が寂しそうな表情で陽香ちゃんを見る。


「悠仁は?」


「無理だから」


「でも悠仁は陽香ちゃんのこと好きでしょ?」


「何を根拠に?」


「え? 何をって、小さい頃から陽香ちゃんにベッタリだったし、高校だって偏差値足りてないのに陽香ちゃんと同じところ受ける為に毎日勉強して、悠仁が悪ぶってるのだって陽香ちゃんの真似して一緒に居る為でしょ?」


「そうだな、大翔にベッタリだった姉さんの気を引く為に近くな居て、大翔と同じとこを受ける為に頑張ってる姉さんと同じ学校に行く為に頑張って、姉さんに見捨てられないように隣に居られるように舎弟の真似後やってるよ」


「じゃあ──」


「大翔はそういうところなんだよ……」


 悠仁が呆れたように歩き出した。


 僕は何か間違えただろうか。


「デビルもデビルで苦労してんだな」


「先輩は今のわかったんですか?」


「多分わからないのはお前ぐらいだからな」


 先輩も呆れたように歩き出した。


 だけど少しして立ち止まる。


「そういえば、デビルに昔負けた奴が報復を考えてるとか聞いたから気をつけろよ。十人ぐらいならデビル一人で余裕だろうけど、報復なんて考える奴は何するかわからないからな」


「それをなんで僕に?」


 知らせてくれたのは嬉しいけど、そういうのは陽香ちゃんに直接伝えた方がいいはずだ。


「デビルはお前に絶対知らせないだろ」


「まあそうですね。陽香ちゃんはそういうことに僕を巻き込むの嫌みたいですから」


 陽香ちゃんは『小さい』と言われるのが嫌で、そう言った人を黙らせる為に強くなったと言っていた。


 それが原因で色々と危ないことをしてるのは知っているけど、僕には絶対にそういう話はしない。


 僕を危ない目に遭わせない為に。


「お前に知らせた理由だけどな、デビルの弱点がお前だからだよ」


「僕が?」


「もしもお前が人質にでも取られたらデビルは何もできずに負ける。だからお前に知らせた」


 確かに陽香ちゃんは優しいから僕や悠仁が人質に取られたら抵抗なんてしないかもしれない。


 それで陽香ちゃんが痛い目に遭うのは嫌だ……


「気をつけます」


「まあデビルと一緒に居れば平気だろ。むしろ一緒じゃない時間とかあんの?」


「えーっと、寝る時とここに来るまでの時間ですかね?」


「逆に他の時間はずっと一緒ってわけね……」


 先輩がまたも呆れたような顔になる。


 何か変なことを言っただろうか。


「まあいいや。とにかくお前は一人になるな。朝もできるなら家まで迎えに来てもらえ」


「だけど陽香ちゃんの家からうちって学校と逆方向なんですよ」


「それであいつが怪我していいのか?」


「嫌です!」


「それならそうしろ。じゃあ俺はデビルにも伝えて来るから」


 先輩はそう言って陽香ちゃんと悠仁の元に歩き出した。


 そういえば陽香ちゃんがうちから帰る時に送って行くからその帰り道も一人になった。


 その時は気をつけなけれ──


 カタッ


 僕が陽香ちゃん達の元に歩き出すと、十字路のところで音が聞こえた。


 陽香ちゃん達は先輩からさっきの話を聞いているので少しだけ寄り道をすることにした。


 十字路を曲がって少し行くと、人が倒れていた。


「大丈夫ですか?」


 倒れてるのだから大丈夫なわけはないけど、こういうのは声をかけるという行為が必要だとどこかで聞いた。


 だから声をかけながら駆け寄ると、その人がモゾモゾと動き出した。


「あ、良かった、だい──」


「偽善者でありがとう」


 倒れてた人がそう言うと、僕は気を失った。


 何をされたかわからない。


 目が覚めるとそこは知らない倉庫みたいなところだった。


 薄暗いけど周りは見える。


 人が十人ぐらい居て、一人の女の子を……


「陽香ちゃん!」


「お、ようやくお目覚めかお姫様」


 僕はすぐ後ろに居る声の主に視線を向ける。


 さっき倒れてた男の人だ。


 年は多分僕らよりも少し上。


 高校三年生ぐらいだと思う。


「陽香ちゃんに何をしてる」


「はっ、お姫様の目じゃ無くなったな。何って見たらわかるだろ? 報復」


 報復、ついさっき聞いた言葉だ。


 先輩が言ってたのはこの人達のことらしい。


「安心していい。俺らはガキを襲う趣味はないから」


「これが襲ってないって言うつもりなのかよ」


「純粋すぎんだろ。まあそういう意味では襲ってるな。いいもんだろ、俺らを潰したガキがやられてる姿なんて」


「負けたからこんなことを?」


「まあそれもある。だけど一番の理由はあのガキが俺らを潰した理由だな」


「理由?」


「あいつ俺らを潰した理由でなんて言ったと思う? 『好きな人が他の女子と話しててむしゃくしゃしたから』だぞ? 確かに先に絡んだのは俺らだけど、そんな理由聞いたら腹立つだろ?」


 陽香ちゃんに好きな人がいたのは驚きだけど、今はいい。


 それよりも……


「そんなくだらない理由で僕を人質にして陽香ちゃんを大人数で襲ってるって言うの?」


「くだらないね。俺らはあのガキのくだらない理由で潰されたんだよ」


「それは自業自得でしょ!」


 陽香ちゃんはあくまで絡まれたから対処しただけだ。


 確かにやり過ぎたかもしれないけど、ここまでやられる理由はない。


「あのガキがやり返さない理由知ってるか?」


「陽香ちゃんは優しいから」


「優しいね。お前さ、子供みたいに将来の夢があるんだろ?」


「料理人になること」


「余計に子供っぽいな。だけどそれのおかげであいつは従順にやられてくれてる」


「……」


「お前って存在だけで十分だったかもしれないけど、もっと絶望して欲しかったから、言うこと聞かなかったらお前の腕を折るって言ったんだよ」


 どうやら全て僕が悪いようだ。


 僕には夢がある。


 料理人になって僕の料理でみんなを笑顔にしたい。


 もちろん陽香ちゃんはそれを知ってるし、僕がその為に頑張っていることも知っている。


 そして料理人は手を怪我してはいけないことも。


「は?」


「なに?」


「お前頭おかしいだろ。なんで今の話聞いて()()()()()()


 どうやら僕は無意識に笑っていたらしい。


 別に全てを諦めて自暴自棄になってるとかではない。


 むしろ活路かつろを見出したからだ。


「笑いたくもなるよ。なんだか色々と言ってるけど、結局一人の女の子に勝つ為に人質を取って、しかも大人数でその女の子を襲ってる。今陽香ちゃんを襲ってる人も、あなたも、陽香ちゃんが怖いってことでしょ? 一人の女の子が」


 後ろの男の雰囲気が変わった気がする。


 もう見る価値がないので見てないけど、多分怒っている。


「一人で勝てないから人を集めて、人を集めても勝てないから人質を取って、それでも怖いから人質である僕の夢を利用して、それでも一人が怖いから大人数で襲ってる。それともみんなで負けたからみんなでやり返さないと嫌だった? もしかしてそういう仲良しクラブとかなのかな?」


(そろそろかな?)


 多分後ろの男は限界を迎えているはずだ。


 クールぶってる人は結構沸点が低い。


 だから操りやすい。


「名前は一人が怖いチキンクラブ……違うか。独り立ちができないひよこクラ──」


 そこまで言って右腕に壮絶な痛みが走る。


「折った」


「見るの怖いけどどうやって?」


「知りたいか?」


「やっぱりいい。だけど折っちゃったんだ」


 これで僕の夢は終わった。


 折れた腕がくっついたとしても、今まで通りに料理はできない。


 だけどこれでいい。


「ざまぁみろ。人を煽るからそうなるんだよ。お前みたいなお姫様はあそこで無様に床を舐めてるガキに守られてればいいものを」


「ははっ」


「何がおかしい?」


「笑っちゃうでしょ。涙出てきた」


 笑ったからであって、決して痛いからではない。


 強がってないから。


「何もわかってないのが面白くて。あなたがただのチキンじゃなかったおかげで陽香ちゃんの足枷が無くなったから」


「おま──」


 ドンッ


 その一音で全てが終わっていた。


 陽香ちゃんを襲っていた人達はみんな倒れている。


「陽香ちゃん、僕は陽香ちゃんに守られるだけの存在じゃないから。終わったら色々と話すよ」


「……うん」


「ふざけんなよ。なんであんなボロボロで──」


「うるさい」


 陽香ちゃんが光になった。


 本当になったわけじゃないけど、それぐらい速くて、文字通り目で追えなかった。


「……ごめんなさい」


「なんで陽香ちゃんが謝るの?」


「大翔の努力も、夢も、全部、壊した……」


 陽香ちゃんが鼻声で言いながら僕の腕を拘束してる縄をほどく。


 今はアドレナリンが出てて痛みをほとんど感じないけど、それはつまりやばいのを意味している。


「僕が決めたことだし、少なくとも壊したのはそこの人ね」


 僕は完全に気絶している男を見る。


「でも……」


「もう、じゃあこうしよ。僕は腕を使えなくなったから罰を受けました。陽香ちゃんも罰を受けてこの話は終わりね」


「腕折ればいい?」


 陽香ちゃんが本気で腕を折りそうだったので抱きしめて止める。


「や、大翔!?」


「陽香ちゃんへの罰はね、僕の夢を代わりに叶えてくれること。ちなみにこれは罰だから嫌とか無しね。後、僕の腕使えなくなっちゃったから責任取って僕を支えて」


「え、え?」


 陽香ちゃんが困惑した様子で僕の顔を見る。


 可愛い。


「んとね、まず罰の方は僕の代わりに陽香ちゃんが料理人になって。責任は僕と結婚して僕を支えてって話。こっちは嫌だった大丈夫。陽香ちゃん好きな人いるって聞いたし」


「……ぷしゅー」


「あれ? 陽香ちゃん?」


 なぜか陽香ちゃんが顔を真っ赤にして気を失ってしまった。


 よくわからないけど、多分大丈夫だ。


 陽香ちゃんに気を取られて気づかなかったけど、どうやら僕の他にも人質になっている人が居て「私は何を見せられてるの?」と言っていた。


 あの人も僕と同じように人質にされたのだろうか。


 今はとにかく無事だったことを喜ぶことにした。


 その後は悠仁と先輩達がやって来て後処理をしてくれた。


 ちなみに悠仁達は遅れたのではなく、陽香ちゃんがとてつもない速度で先に行ったかららしい。


 そもそも僕は誘拐されたわけで、みんな僕の場所なんてわからなかったはずなのに陽香ちゃんはどうやって見つけたのか。


 昔から鼻は良かったけど、まさか……なんて。


 そうして長いようで短い一日は終わった。


 結局僕の腕は今まで通りに動かすことができなくなり、責任を感じた陽香ちゃんには責任を取ってもらった。


 いつか話したんだ「もしもお店を出せたら二人の子供の名前をお店の名前にしよう」って。


『その舞翔まいとも立派に育って、僕に恋人を報告に来てくれるなんてね』


『僕のせいで色々と抱え込んじゃったみたいだけど、大切な子供を恨む親はいないよ』


『だけど相手がほんとに悠仁の子になるなんて』


『あの時僕と一緒に捕まってたゆいさんと悠仁が結婚したのは驚いたけど、助けてもらった唯さんが悠仁に一目惚れしてストーカー気味になってたりしたし、必然だったのかな?』


『それはそうと、舞翔は女の子の気持ちがわかってないから心配だよ、もう少し好かれてる自覚を持たないと。ほんとに誰に似たのか』


『まあそんなことはさておき、陽香ちゃん、舞翔、大好きだよ』

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