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水萌の心配

蓮奈れなおねえちゃぁん」


「う、うん。寂しいのはわかったから抱きつくのやめない……?」


 舞翔まいとくんと恋火れんかちゃんがデートに行ってしまって、お邪魔な私は蓮奈お姉ちゃんに預けられた。


 なんだか恋火ちゃんが真剣な表情だったから言う通りにしたけど、やっぱり寂しいので蓮奈お姉ちゃんの『蓮奈お姉ちゃん』に顔を埋めるように抱きついている。


「落ち着くんだもん」


「は、恥ずかしいの!」


「でも舞翔くんには自分から押し付けてるんでしょ?」


「し、してな……いって言いたかった……」


 私は知っている。


 蓮奈お姉ちゃんは一回だけ舞翔くんを照れさせるようなことをしたのを。


 あの舞翔くんを照れさせるなんてどんなことをしたのか気になって恋火ちゃんと問い詰めたら結構簡単に教えてくれた。


「蓮奈お姉ちゃんは舞翔くんのこと好き?」


 私は『蓮奈お姉ちゃん』から蓮奈お姉ちゃんの顔を見あげながら聞く。


「い、いきなり何?」


「まあ好きなのは知ってるんだけど、恋火ちゃんから舞翔くんを奪いたいとか思ってるのかなーって」


 別にそういう気持ちがあることを責めたいわけじゃない。


 私だってそういうつもりが無いのかって言われたら絶対に無いとは言えないから。


 だから本当に興味本位だ。


「私は桐崎きりさき君と付き合いたいとかはないよ。そりゃ、気が合うし一緒に居て楽しいから付き合ったら嬉しいだろうけど、桐崎君の幸せを壊してまで付き合いたいとか思わない」


「だよね。じゃあさ、もしも恋火ちゃんが舞翔くんと付き合ってとか言ってきたらどうする?」


「なんで恋火ちゃんが言うの?」


「恋火ちゃんがそういう人だから」


 最近の恋火ちゃんはおかしかった。


 普段なら絶対に聞かないのに、蓮奈お姉ちゃんにいっぱいデートのことを聞いていた。


 どこに行くのがいいのかとか、どういうことをすればいいのかとか。


 最初は舞翔くんとデートをしたくて勉強しているのだと思っていたけど、それにしては表情も鬼気迫るような感じだった。


 そして今日の表情を見て確信した。


「舞翔くんと恋火ちゃんって恋人さんになってから一ヶ月ぐらいなの」


「言ってたね」


「だけどね、その間に恋人さんらしいことって何もしてないの」


 私達のしてることが恋人さんらしいことと言うならしてるけど、私達の中でそれは『友達がやること』になる。


 舞翔くんと恋火ちゃんは恋人さんになってからそれも減った。


 恋火ちゃんが一歩引いてる感じで。


「恋火ちゃんって昔っからそうなんだけど、自分のことを後回しにしてでも周りの人を優先するの。それがどれだけ自分の大切なものでも、自分がどれだけ困るとしても」


 小さい時の私はそれに気づけなかったけど、今なら恋火ちゃんがどれだけ私の為に身を削っていたのかがわかる。


 だから恋火ちゃんと舞翔くんが恋人さんになれたのは私も本当に嬉しかった。


 やっと自分の幸せを掴んでくれたんだって。


「だけどね、舞翔くんは舞翔くんだから、みんなと仲良くするでしょ?」


「そうだね。水萌みなもちゃんともイチャイチャしてたし、私は会ったことないけど文月ふみつきさんって子ともなんでしょ?」


「うん。それとしーくんも」


 文月さんはまだ恥ずかしがるから触れ合いは少ないけど、私としーくん、それと蓮奈お姉ちゃんのやり取りを見た恋火ちゃんが何も思わないわけがなかった。


「多分ね、蓮奈お姉ちゃんとのを見たのが決め手だったんだと思う」


「言い訳していい?」


「うん」


「私と桐崎君とのやり取りが一番『友達』じゃなかった?」


 それはその通りだ。


 舞翔くんと蓮奈お姉ちゃんのやり取りは誰が見ても小さい子のじゃれ合いでしかなかった。


 だけどどうしたって『男女でじゃれ合っている』のに変わりはない。


「私と舞翔くんのは恋火ちゃんも見慣れてて、本気じゃないのもわかってるの。文月さんも一歩引いてるし、しーくんは男の子だから。だけど蓮奈お姉ちゃんとはまだ会って数日なのもあって不安になったんだと思う」


「まあ、そっか。『友達』が見るのと『恋人』が見るんじゃ意味が違うよね」


「うん。だから今日のデートは舞翔くんとの思い出作りみたいなやつだと思うの」


 恋火ちゃんは思い込みが激しすぎる。


 舞翔くんが恋火ちゃん以外の女の子にうつつを抜かすことなんてありえないのに。


 私も人のことを言えないんだろうけど。


「だから私に言われたらか」


「うん。恋火ちゃんが今一番舞翔くんを譲ろうとするのは蓮奈お姉ちゃんだと思うから」


「まあ恋火ちゃんが押し付けたいって言うなら受け取るよ。私だって桐崎君と一緒に居るのは好きなわけだし」


 ちょっと意外だった。


 蓮奈お姉ちゃんならもっと言葉に詰まるか慌てるかと思っていたのに。


「意外って思った?」


「うん。ちょっと反応が薄い感じ」


「だって桐崎君がそんなの許すわけないじゃん」


「そうだけど、恋火ちゃんが勝手に離れてく可能性だって……」


「それこそだよ。出会って数日の私でもわかるけど、桐崎君って大切なものは絶対に手放さないタイプでしょ?」


「うん」


「しかもどんな方法を使ってでも」


 蓮奈お姉ちゃんが手招きをしている。


 私は吸い込まれるように蓮奈お姉ちゃんに抱きつく。


「心配するだけ無駄だよ。どうせ桐崎君がなんとかするから」


 蓮奈お姉ちゃんが私の頭を優しく撫でながら言う。


「それもわかってるけど、私は恋火ちゃんに幸せになって欲しいんだもん。確かに私も舞翔くんのことが好きだよ? だけどそれは恋火ちゃんの幸せを奪ってまで叶えたいことじゃないもん……」


「そうだね。ほんと君らは似た者同士だよ」


 蓮奈お姉ちゃんはやっぱり落ち着く。


 抱きしめてくれるのも、頭を撫でてくれるのも、優しい声だってそうだ。


「……大丈夫だよね?」


「大丈夫。どうせ桐崎君のことだから今まで以上にイチャイチャカップルになって帰って来るだろうから夏休みの間、って言っても明日までだけど、二人っきりにしてあげよ」


「うん。その間は蓮奈お姉ちゃんが一緒……?」


 さすがに一人でマンションに居るのは寂しいし、一人になったら泣いてしまうだろうから誰かと居たい。


「やば、可愛すぎる。これが桐崎君がしおくんに感じる気持ちなのか? いや、違うか」


 蓮奈お姉ちゃんが一人で何かを言っている。


 舞翔くんみたいだ。


「あ、ごめんね。もちろんうちに来てくれていいよ。一緒に《《健全な》》遊びをしようね」


 なんだか圧を感じたけど、蓮奈お姉ちゃんと一緒に居られるなら寂しさも減らせる。


 いっぱい甘えるんだ。


「お姉ちゃん大好き」


「やばいな、そろそろスイッチが入ってしまう。もしも水萌ちゃんにそんなことしたら桐崎君に軽蔑したような目で見られながらなじられて……」


 なんだか蓮奈お姉ちゃんの声が少し変になってきた。


 可愛い声なのは変わってないけど、なんだか息が荒くなってきたような……


「水萌ちゃん、たくさん遊ぼうね」


「う、うん……?」


 なんだか蓮奈お姉ちゃんの雰囲気がおかしい気がするけど、きっと大丈夫なはずだ。


 蓮奈お姉ちゃんが変なことをするわけないし……


 なんて思っていたけど、舞翔くんと恋火ちゃんが恋人さんをやり直したことを聞いて嬉しくなった次の日。


 わたしはれなおねえちゃんとたのしくあそびました。


 とてもたのしかったです。

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