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舞翔の過去、それから……

「どうだった?」


「なんかすごかった……」


 レンからのサプライズ? で母さんの職場であるレストランに行き、サボった母さんから色んな話を聞いた。


 それだけでなく従業員の人からも母さんに困らされたことや、母さんがどれだけすごいかを延々と聞かされ続けた。


 食事は美味しかったけど、なんかすごい疲れたし、滞在時間が長すぎて少し暗くなっている。


「母さんから誘われたの?」


「そう。なんかサキに仕事のこと教えるタイミングがわかんなくなってきたからデートする機会があったら連れて来てって」


「普通に教えればいいのに」


「普通に教えるタイミングがわからなかったんだろ? オレだってサキに自分のこと話すの悩んだし」


 レンの話と母さんの仕事ではベクトルが違うから例えにならないと思う。


 なんとなく言いたいことはわかるけど。


「ずっと隠してたのも父さん絡みだからだろうし」


「それ……いや、なんでもない」


「別に気にしないでいいよ。父さんのこと話してないもんな」


 隠してたわけではないけど、父さんのことは誰にも話していない。


 特に話すようなことでもないだろうから。


「ちなみに聞きたい?」


「聞きたいか聞きたくないかで言ったら聞きたいけど、サキにとっても大事な話なんだろ?」


「まあ、そうかな。レンに愛想尽かされるかもだし」


 愛想を尽かされるというか、嫌悪感を抱かれても仕方ない。


 俺はそれだけのことをした。


「内容重そうだから場所変えようか」


「じゃあ公園かな」


「近いしな」


 俺とレンが初めてちゃんと話した日の最後に立ち寄った公園。


 適当に歩いていたらその公園の近くまで来ていたのでそのまま公園を目指すことにした。


 そしてあの日以来久しぶりに公園にやって来た。


「さすがに変わらないな」


「実は四ヶ月ぐらいしか経ってないからな」


「もっと長い気がしたけどまだそんななんだよな」


 俺達が出会ったのは五月の始めぐらいだったから、九月になろうとしている今で約四ヶ月経っている。


 気分的には何年も一緒に居る感じだけど。


「濃い四ヶ月だったけどな」


「確かに。俺の十六年の中で一番濃い四ヶ月だった」


 友達ができたり、妹ができたり、幼なじみと再会したり、友達と妹が幼なじみだったり、恋人ができたり。


「父さんに話したいことができたのも四ヶ月のおかげなんだよな」


「サキに謝っとくことがある」


「いきなり何?」


「オレさ、サキがお父さんに話してるの聞いてた」


 そういえばお墓参りに行った時に俺が一人残って父さんへ近況報告と謝罪をしてた時に人の気配を感じた。


 猫が出てきたからその猫だということにしたけど、やっぱりレンだったようだ。


「猫と戯れてた?」


「サキのことが気になったからトイレに行くフリして残ったんだけど、話が想像以上に重くて出て行けなくなったから近くに居た猫を使った」


「俺を襲わせてその間に逃げようと?」


 そんなわけがないのはわかっているけど、正直あの時はレンが居るのはなんとなくわかっていたけど、それ以上に猫が怖くてそれどころではなかった。


「あそこまで動物が駄目とは思ってなかったけど、とにかくオレはサキの話を盗み聞きした。だからサキの話を聞く前に謝らせてくれ」


 レンはそう言って頭を下げてきた。


「別に謝ることじゃないだろ」


「さっきオレに愛想を尽かされるとか言ってたから、オレもちゃんと話して許してもらおうかと」


「そういうね。気にしなくていいのに」


 レンは自分も愛想を尽かされるようなことをしたから俺が何を言おうがチャラになると言いたいようだ。


 やっぱり優しい子だ。


「立ち話もあれだからベンチ行こ」


「ん」


 レンの手を引いてベンチに向かう。


 こういう時にハンカチでも敷ければいいのだろうけど、こういうところは現代っ子なので持っていない。


「俺の膝座る?」


「なんかバカップルっぽくてやだ」


 レンにあっさり拒絶されて隣に座られた。


 ちなみに俺とレンはとある方面から『バカップル』と呼ばれているようだけど黙っておくことにした。


「話したくないならいいんだよ?」


「別に話したくなくて逸らしてるわけじゃないから」


 確かに話すタイミングは探っていたけど、今回のもいつものやつだ。


「じゃあ話す。父さんが死んだのって、俺のせいなんだよ。もっと言えば俺が殺したって言ってもいい」


「……」


「愛想尽かした?」


「なんで? さすがに比喩で愛想は尽かさんだろ」


「比喩じゃないんだよ」


「なんで真実を隠そうとすんだよ。オレはその先を待ってんの」


 レンが人差し指をクイクイと曲げて話の続きを催促してくる。


「先か……。父さんが死んだ理由は確かに事故だけど、過程を見るなら俺が殺してるんだよ」


「過程ね。あれか? 誕生日プレゼントをねだって、それを買って来る途中で事故に遭ったとか」


「そうだよ。さっき母さんから仕事のこと聞いてわかったけど、父さんも母さんの仕事を手伝ってたから忙しくてたまにしか会えなかったんだけど、あの時は落ち着いてきてた時なんだったんだろうな」


 毎年俺の誕生日の日は時間を作って一緒に居てはくれたけど、あんまりゆっくりはしていられなかった感じだった。


 だけどあの日は朝から父さんが家に居て俺にプレゼントに何が欲しいかを聞いてきた。


 特に欲しいものが無かった俺は服を頼んだ。


 その時着てた服が小さくなってきていたので買ってくれるならと頼んでみた。


 そして「絶対に舞翔まいとが喜ぶ服を買ってくる!」と嬉しそうに出て行ったのが父さんを見た最期の姿だった。


「俺がさ、服とかじゃなくて『父さんと一緒に居たい』とか親孝行な息子やってれば父さんが死ぬことなかったし、母さんの絶望する顔を見ることもなかったんだよ」


 あの時の顔は今でも鮮明に思い出す。


 あれから一時期は母さんが抜け殻のようになってしまって、立ち直るまでに数日かかった。


「俺がものをねだったせいで父さんを死なせて、母さんを悲しませた。それからかな、俺は絶対にものを欲しがることはしなくなったし、大人の『絶対』を信じなくなったのは」


 全部俺が悪い。


 俺がものをねだったから。


 俺が父さんを信じたから。


「さすがに愛想尽かした?」


「……」


「レン?」


 レンが無言で頭を撫でてきた。


「なんでご褒美?」


「別に頭を撫でたくなっただけ。サキのアホな頭は撫でれば良くなるのかなって」


「どんな罵倒だよ」


 いきなりご褒美をくれたかと思えば、今度は罵倒。


 そういうプレイは望んでない。


「第三者のオレがわかったようなこと言うなって感じだけど、それってサキは何も悪くないだろ」


「母さんにも散々言われた。だけど俺のせいだろ」


「まあ百万歩譲ってサキのせいでお父さんが亡くなったとする。だけどそれをお父さんが恨んでるって本気で思ってるの?」


「誰だって殺した相手は恨むだろ」


「サキはオレが頼んだ買い物の途中で事故に遭ったらオレを恨むのか?」


「恨むわけないだろ。レンは何もしてないんだから」


「それがブーメランなことに気づけ」


 そんなのはわかっている。


 だけど『わかる』ことと『納得』することは違う。


「ぶっちゃけるとさ、陽香ようかさんから少しだけ聞いたんだよ」


「俺が話した意味」


「サキから聞いたのは知らなかったやつ。陽香さんからはサキの話の後」


「後?」


「うん。陽香さんさ、絶望して後追いしようとしてたらしいんだよ」


「それは知らないんだけど?」


 確かにあの時の母さんならそれぐらいしてもおかしくなかった。


 ワーカーホリックの母さんが仕事を数日休むぐらいだったし。


「だけどサキが言ったんだろ?」


「何を?」


「やっぱり無意識なんだ。陽香さんが立ち直れたのってサキのおかげなんだぞ?」


 レンが呆れたようにため息をつくが、俺は本当に何もしていない。


 確かに少しだけ話したけど、大したことは言えなかったはずだ。


「サキが『俺を恨んでくれていいから、元気な母さんに戻って……』って引きこもってた陽香さんに言ったんだろ?」


「言った。だけどそんなので母さんの絶望を消せるわけないだろ」


「陽香さんにとってはその言葉がそうだったんだよ。お父さんのことはもちろん大切だけど、それ以上に心に傷を負った息子を大切にしようって」


「俺は別に……」


 俺の負った傷なんて自業自得で、母さんに比べたら些細なものだ。


 それに母さんが居てくれたおかげで俺も普通に生活できるぐらいには回復できた。


「サキはさ、ネガティブすぎんだよ。サキって自分が思ってる以上に周りから大切にされてんだから」


 レンが俺の頭を自分の胸に押し当てるように抱きしめる。


「貧相で悪かったな」


「何も言ってない」


「どっかの誰かと比べたろ」


「レンほど落ち着く胸はない」


「あっそ」


 レンが俺の背中をさする。


 本当に落ち着く。


 レンの母性が成す技なのか、目頭が熱くなってきた。


「お、泣くか?」


「いい?」


「素直。いいよ、少ししたらオレも話あるからそれまでに泣き虫卒業しろよ」


「話していいよ。多分そこまでじゃないから」


 涙は出ているけど目頭に溜まる程度なのできっとすぐに止まる。


 レンが余計なことさえ言わなければ。


「サキがいいならいいけど。じゃあさ、オレ達の恋人ごっこ終わりにしよ」


「……やだ」


「色々と考えたんだけどさ──」


「やだ! 行く」


「は?」


 俺はなんの説明もせずにレンの手を引く。


 多分今の状態でレンの話なんて聞いたら戻れなくなる。


 レンのことだからそれを考慮して何か俺のケアをする方法を用意してるだろうけど、そんなの知らない。


 俺はレンを地下に連れ込むことにした。

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