ネタ切れの散歩
「次はどこに行くの?」
「散歩再開」
服屋を出た俺とレンは手を繋いで散歩を再開した。
レンが何かを考えているような顔をしてるので、次に行く場所は考えていない気がする、
「いやさ、色々と考えてはいたんだけど、サキって女子長い買い物に付き合わされたとしてもめんどくさいとか思わないだろ?」
「相手によるけど、少なくともレンの買い物に付き合う分には思わないかな?」
「だろ? 今日はさ、デート中に男がやられて嫌なことをやっていこうと思ってたんだけど、サキだと全部無駄になるから考え直してる」
レンと居るだけで楽しいのに、レンの買い物に付き合わされて嫌だと思うわけがない。
むしろ物欲の無いレンの買い物なんて興味しか湧かない。
「お昼は決まってるんだけど、後一時間ぐらいは時間潰さないとなんだよな」
「じゃあゲーセンでも行く?」
「それも考えたけど、せっかくのデートなんだしゲーセン行くのもな」
「でも夏休み前は放課後デートでよく行ってたじゃん」
「それはサキが勝手に言ってただけな」
レンが呆れたようにため息をつく。
確かにあの時は冗談のつもりで言っていたけど、あれだってれっきとしたデートだ。
「こういうのは言ったもん勝ちだろ?」
「絶対に違う……こともないのか? デートの定義を『男女で出かけること』にしたらそうなるよな?」
「うん。だけど多分『男女』じゃなくて『恋人と出かける』なんだと思う」
男女で出かけることをデートと呼んだら俺は水萌ともデートしてることになる。
人によっては妹と出かけることをデートと呼ぶ人だっているし、気になる相手と出かけることを勝手にデートと思って出かける人もいる。
だからやっぱりデートは言ったもん勝ちなところがある。
「ちなみにオレ以外にデートを申し込んだことは?」
「意外なことに無い」
「意外な自覚あるんだな」
それはもちろんある。
何せ初対面のレンに放課後デートを申し込むような俺だ。
いくら有名人とはいえ、水萌にならデートを申し込んでもおかしくない。
なんだか誤解が生まれそうな感じだけど、あくまで友達としてだ。
「そもそも申し込んでなかったけど」
「あれってオレからだったよな」
「熱烈なアプローチに負けた」
「二つ返事だったろが。それともいやいやだった?」
「んなわけない。レンはあの頃から可愛かったから、そんな可愛い子に誘われて嫌なわけがない」
「嘘くせぇ」
まあ確かに可愛いから了承したのは嘘だ。
レンを可愛いと思っていたのは事実だけど、純粋にレンと一緒に居たいと思ったから受け入れた。
「俺はあの頃からレンのこと好きだったから」
「友達としてだろ。つーかあの頃からだよ。オレが男子に間違われなくなったの」
そういえばレンと初めて会ったときにレンを女子だと見破ったことを詰められた。
「普通に可愛いからだろ?」
「少なくともサキと会うまではオレと初めて会う相手には男だと思われてたんだよ」
「なんで?」
「フードで顔隠してたし、口調も悪いからだろ。どっかの誰かにはバレたけど」
レンにジト目で睨まれる。
「レンの可愛さは隠しきれないってことでいいじゃん」
「良くないっての。サキにバレるは、ゲーセンでも『痴話喧嘩?』とか聞こえてくるし、陽香さんにもバレたぞ?」
「だから可愛いからだっての」
そもそもが俺に聞くのが間違っている。
俺と出会ってからバレるようななったのなら、俺はバレるようになったレンしか見ていない。
だからわかるわけがない。
「まあいいや、水萌にでも聞いとこ」
「意外となんでも知ってるんだよな」
「趣味が人の秘密を知ることだからな」
「怒られるぞ。それとその趣味はレンのだろ」
「怒るぞ?」
レンが笑顔で手を握る力を強める。
怒ると握る力が強くなるならいつでも怒って欲しい。
「ドMが」
「何も言ってないだろ」
「顔が喜んでた」
「レンの愛情表現が可愛くて」
「愛情表現じゃねぇ。それはそうと、何も思いつかないからサキの買い物とかないの?」
普通に話してるだけで楽しくて忘れてたけど、今はお昼までの時間を潰せる場所を探していたのだった。
「このまま話してるだけでいいじゃん」
「それだといつもと変わらないだろ」
「レン、遊園地にデートに行ったカップルの別れる原因って知ってる?」
「サキが知ってることに驚き」
レンも知ってるようだけど、遊園地にデートに行ってアトラクションの待ち時間で無言になるカップルは別れる確率が高いという。
つまりなんでもない散歩で話が尽きないのはいいことだ。
「それって逆を言えば話が尽きた瞬間に危険信号が出るぞ」
「しようとしてた話をするまでに最低でも二個は別の話をする俺達だぞ?」
「説得力がやばい……」
正直話をするだけなら一生できるかもしれない。
どうでもいい話でもレンとなら楽しくなるし。
「でも買いたいものはあるんだよな」
「なに?」
「蓮奈が学校に一ヶ月通えた記念のプレゼント」
「デート中に買うものじゃねぇ……。それに蓮奈さんまだ学校行ってもないし」
ごもっともだけど、俺は買いたいものを言っただけで買いに行きたいとは言っていない。
行ってくれるなら行きたいけど。
「アドバイスが欲しい系?」
「うん。蓮奈の喜ぶものなら依の方がわかりそうだけど、レンの方がちゃんと選んでくれそうだし」
「さりげなくよりをディスってやるな。わかるけど」
「女の子目線のアドバイスが欲しくて」
「蓮奈さんへのプレゼントなら紫音の方がいいんじゃないの?」
確かに従兄弟の紫音なら蓮奈の喜ぶものがわかるかもしれない。
「紫音にも今度聞くよ。だけどレンにも聞いていい?」
「いいけど、最後に点数は発表するからな?」
そういえばこのデートは減点方式で点数をつけられているのだった。
既にゼロを下回ってなければいいけど。
「女目線って言っても、オレはサキからのプレゼントならなんでも嬉しいから」
「嬉しいけどそれじゃあ参考にならない」
「多分蓮奈さんはオレ以上にサキからのプレゼントってだけで喜ぶよ」
「何を根拠に」
「本人談」
なんとも説得力のあるアドバイスか。
建前の可能性もあるけど、蓮奈にそういう器用なことかできるとは思えない(失礼)。
「まあ今回はご褒美になるから消え物とかにすれば?」
「お菓子とか?」
「そう。サキの手作りお菓子とか喜ぶんじゃない?」
「パン屋さんの娘に素人の手作りお菓子あげんの?」
行く度に出してもらえるパンの余りや、わざわざ作ってくれるシュークリームや色んなお菓子。
あんなクオリティのものを食べている蓮奈に俺の手作りお菓子なんてあげてもいくら蓮奈といえど喜ぶとは思わない。
「気にする必要ないと思うけど」
「まあ候補には入れとく」
「どうしても気になるなら陽香さんに習えば?」
「母さんに?」
確かに母さんも料理は上手い。
母さんのクオリティを超えるのが俺の目標ではあったけど、未だに足元にも及んでいない。
「それも考えとく」
「そうしろ。それよりも買い物の用が無くなったから時間を潰すことが無い」
「だから話しながら散歩してればいいじゃん」
「……仕方ないか。話止めるなよ?」
「もち」
そうして俺とレンはレンが予約したというお店に行く時間まで他愛ない話を続けたのだった。