デート開始
「行きたい場所っここ?」
「そ、一つ目の行きたいところ」
水萌を蓮奈のところに預けた俺とレンは、レンの案内の元、近くのショッピングモールに着いた。
「蓮奈さんが『彼女の買い物に付き合えない男は彼氏とは呼べない』って言ってたから」
「なんのラブコメを見たのかな」
蓮奈の情報ソースは二次元関係なので、どうやら最近リアル寄りなラブコメを見たようだ。
「珍しいな。蓮奈ならそういうラブコメ見なそうなのに」
「ちなみに『デート中にほかの女の話する男も減点対象』って言ってたから」
「減点方式かよ。何点で失格とかあるの?」
「何点とかはないよ。強いて言うなら彼女の器次第らしいけど」
「なるほど」
つまりは彼女がどれだけ許せるかの話ということだ。
俺が他の女の子、水萌達の話をしたのをレンが聞いて、それをレンがどこまで許せるか。
「別にほかの女の話限定でもないけど」
「レンが愛想を尽かしたら?」
「そうなったら破局だよ。オレのことは忘れて水萌辺りと付き合えば?」
「実は既に愛想尽かされてる?」
「それはないよ。少なくとも今は愛想尽かしてない。だけど今日のデートで尽かすかもだから気をつけろ」
レンがそう言って歩き出す。
どうやら俺の審査が始まったようだ。
「一つだけ確認していい?」
「やだ」
「なんで?」
「多分オレのして欲しいことをやるか、サキのやりたいようにやるのどっちがいいかだろ?」
「さすがエスパー」
正確にはレンの望む彼氏を演じるのか、演じることはなく、そのままの俺でいるのどっちがいいかを聞きたかった。
「それは自分で考えろ。ちなみに間違えると減点しかないから」
「やばいじゃん」
「頑張れ〜」
レンが他人事のように手を振る。
なんか腹が立ってきたのでその手を握る。
「彼氏っぽいことするのか?」
「純粋にレンの手を握りたかった」
「ふーん」
レンか嬉しいとも嬉しくないとも取れない微妙な表情になる。
これが正解なのかはわからないけど、悔いは無い。
「ちなみに買い物って何か買いたいものあるの?」
「別に。蓮奈さんからデートスポットについて色々と聞いた中では買い物が一番人混みにならないかなって」
まあ確かに夏休みも残り少ないこともあり人が少ない。
でもそれなら遊園地や水族館などでも同じな気はするけど。
「他にも理由はあるから安心しとけ。それよりも、最初の試練はここ」
「試練て。服屋?」
レンが足を止めたのは男が一人で入れなそうな可愛らしい服屋だ。
「ちなみにサキってここに一人で入れって言われたら入れる人?」
「アウェイ感とかは気にしないけど、他の人が嫌じゃない?」
別に『男子禁制』とかではないんだろうけど、こういう店に男が居ると「なんで居るの?」みたいな目で見られるのがお決まりだ。
「まあそういう発想になるよな。オレもこういう店が初めてだから知らんけど」
「まあレンって同じ服しか……着なくもないか」
昼間は毎日同じパーカーだけど、夜は可愛い猫になるのだった。
あらならこういうところに置いてあっても違和感はない。
「忘れろ。あれは封印した」
「もったいない。せっかくの水萌からのプレゼントなのに」
「あれ着ると水萌がハイテンションになってうるさいんだよ。だからサキの前だけって理由付けて着ないことにした」
「そういえば次のお泊まりはいつ?」
レンがうちに泊まってからレンだけでなく、水萌もうちに泊まることが無くなった。
まあ夜から朝にかけて会えないだけでそれ以外の時間は常に一緒に居るから、起きてる間はずっと一緒なのだけど。
「サキがうさ耳パジャマ買ったら」
「その為にここ来たの?」
「違うから。少しは嫌がれ」
レンにため息をつかれた。
嫌がれと言われても、うさ耳のパジャマを着たらレンがうちに泊まってくれると言うなら喜んで着る。
相当に見苦しいだろうけど、どうせ自分では見えないんだから関係ない。
「サキってそういうところ強いよな」
「ちなみに水萌が泊まらないのはレンが妨害してるから?」
「それもある。あるけど、水萌ってあんなんだけど普通に気を使いすぎるタイプだから」
「あんなんは余計だろ」
でも言いたいことはわかる。
水萌は思いつきで生きているように見えるけど、実際は色々と考えた上で自分のやりたいことを優先する。
だけど関係が壊れる可能性があることになると気を使って相手の考えを優先する。
「損するタイプだよな」
「普段は自由だからわかりにくいんだけどな」
「つまりここに来た理由は色々と我慢してる水萌へのプレゼント選びか」
「……違うし」
どうやら正解らしい。
水萌の我慢とかは偶然話に出てきただけだろうけど、ここに来たのは水萌のプレゼントを買う為のようだ。
「前に水萌がパーカー暑いって言ってたから?」
「今更って思う?」
「別に。まだ暑いだろうし、それに来年だってあるんだから」
「そうだよな」
レンの表情が不安そうなものから安堵したような表情になる。
やっぱり大事な人へのプレゼントは緊張するもののようだ。
「これは水萌が選んでくれたから、次はオレの番だろ?」
「一緒に来てもいいと思うけど」
「それはやだ。なんか恥ずい」
「水萌は喜ぶぞ」
「それはそれでめんどくさいんだよ」
めんどくさいとは言いつつもレンは嬉しそうな
顔をしている。
久しぶりのツンデレをありがとう。
「それはそれとして、サキの希望ってあるの?」
「レンと水萌に着て欲しい服?」
「そう」
「パーカー」
「知ってた。蓮奈さんも言ってたけど、なんでそんなにパーカーがいいの?」
「なんでって言われると困るけど、正確に言うならパーカーじゃなくてもいいんだよ。蓮奈もだろうけど、体のラインが出る服とかじゃなくて、少し余裕がある服って言うのかな。そういうのがいい。それ以上の説明はできない」
俺もなんでパーカーが好きなのかよくわかっていない。
自分で着るのも好きだけど、楽なのとフードの安心感があるからだ。
俺だけかもしれないけど、フードがあるのとないのとで結構気分が変わる。
別に被る必要はなくて、フードの存在感が安心するのだ。
そして見るのが好きな理由は、多分だけどオーバーサイズの服を着てる女子が好きなんだと思う。
有名なところでは『彼シャツ』みたいなやつ。
「つまりサキは変態と」
「どういう結論?」
「少し大きめな服着せて色々とチラ見したいってことだろ?」
「蓮奈はそうだろうけど、俺は……そうなの?」
正直わからない。
俺は自分で気づいてないだけで寂しがりだったり、実はそういう気持ちがあってパーカーが好きだと言ってる可能性はある。
「安心しろ。サキからそういう視線を感じたことはない」
「ほんと?」
「少しはそういう目で見ろって思ったけど」
「どっちだよ」
レンが楽しそうに笑う。
だけどその笑顔がだんだん黒くなってる気がした。
「確認なんだけど、蓮奈さんにはそういう目を向けた?」
「蓮奈からどうせ聞いてるんだろ」
「うん。『すごいえっちだった……』って恥ずかしそうにしてた」
レンが笑顔で握っている手に力を込める。
痛い。
「次会ったら本気でいじめる」
「エロいことすんの?」
「レンはそういうこと言いそうだけど実際は照れて言えない子だと信じてたのに……」
「甘いな。人間腹をくくれば大抵のことはできるんだよ」
そう言うレンの耳は赤い。
良かった、レンはレンだった。
「冗談は置いといて、ほんとは蓮奈さんに何するの?」
「放置」
「放置?」
「人見知りの子ってね、慣れた相手に放置されるのが一番堪えるんだよ」
「体験談ね」
その通りだ。
レン達が俺を抜いて話しているのを見ていると悲しくなる。
蓮奈は俺と同じタイプなので絶対に効く。
「でもサキが悲しんでる蓮奈さんに耐えられなくなって慰めるまでがセットだろ?」
「そんなことないし」
「はいはい」
レンがどうでも良さそうに手を振る。
俺だってやる時はやる。
そりゃあ、せっかく回復してきた蓮奈のメンタルがまた壊れては困るからある程度のところでやめるけど、もしかしたら蓮奈が絶望しすぎてやばいかもだから慰めるかもしれないけど。
「ほら、行くぞ優しい坊や」
「どういう意味だ可愛い子猫」
よくわからない呼び合いをして、レンに手を引かれるままに俺は店に入った。
そして約一時間。
悩みに悩んだレンがペアルックのパーカーを買った。
一緒に何かを持って行ったように見えたけど、多分気にしたら負けな気がしたので無視をした。
こうして俺は試練? を終えたのだった。




