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小さい子が好き

「まーくんってさ、小さい子が好きなの?」


「いきなり何を言ってんだ? 俺も怒る時は怒るからな?」


 俺は今日も紫音しおんの家に遊びに来ている。


 というか蓮奈れなが学校に行けるメンタルになるまでは通うつもりで、水萌みなもとレンも同意してくれている。


 むしろ水萌とレンは協力的で、今も蓮奈の部屋で女子会(?) をやっているようだ。


 そして女子ではない俺と紫音は終わるまで暇つぶしをしてたわけだけど、紫音がいきなり変なことを言ってきた。


「言い方が悪かったかな? んとね、まーくんってちっちゃい子が好きなの?」


「変わってないだろ。なに? そんなによりと二人っきりになりたい?」


「それは……」


 紫音の顔がボっと赤くなる。


 依に色々されたことを思い出したのだろう。


「ちなみになんだけどさ、紫音は依のこと好きなの?」


「異性として?」


「そう」


「うーん、好きか嫌いかで言ったらもちろん好きなんだけど、多分まだ友達としてかな?」


 まあそんな気はしていた。


 そもそも依の方が紫音を異性として認識してるかも怪しいし、紫音はからかわれてるだけだから、あくまで『まだ』異性として好きにはなってないだろう。


「気がついたら付き合ってそう」


「依ちゃんみたいな可愛い子と付き合うなんて想像できないよ」


「依の方もそうだろうな」


「え?」


 見る人が見れば紫音の方が可愛いという人だっている。


 それを一番言うのが依だろうし。


「まあもしも付き合ったら恋人のいろはを教えて」


「普通逆じゃない?」


「俺達はいつでも探り探りだから」


「ほんとにそろそろデートとかしたら? ただでさえまーくんは女の子とばっかり仲良くしてて恋火れんかちゃんを不安にさせてるんだから」


 耳が痛い。


 紫音の言う通りレンと付き合ってから何も恋人らしいことをしていない。


 それはずっと思ってはいたけど、本当にそろそろ何か考えないと愛想をつかされる。


「夏休み中までに考えとく」


「そうした方がいいよ。多分二人とも外とか人混みが嫌いなんだろうけど、二人で居ればそんなの気にならないから」


「経験済み?」


「お姉ちゃんと一緒にお出かけするの楽しかったんだよ。大きくなってからはお姉ちゃんが外に出れなくなっちゃったからお出かけしてないけど」


 紫音が少し寂しそうに笑う。


 蓮奈が外に出られなくなったのが蓮奈の人見知りが加速した結果なのか、不登校の原因が理由なのかはわからないけど、そんな顔されたらやるしかない。


「蓮奈を夏休み明けまでには外に出れるようにする」


「あんまりお姉ちゃんに無理させないでね」


「当たり前だろ。俺は蓮奈に『外に出たい』って思わせるのが仕事だから」


「まーくんならほんとに出来そう」


 出来る出来ないとかではなく、やってみせる。


 蓮奈が留年して俺達ともう一度二年生をやるのもそれはそれでいいけど、蓮奈の人生が狂ってしまうし、何やら俺が責任を取らなくてはいけないらしいからさせるわけにもいかない。


 まあそれよりも、紫音と蓮奈が一緒に出かけられるようしてあげたい。


「まーくんがまーくんしてる顔だ」


「どういう意味だし。つーかそれよりも最初のはなんだよ」


「あれ? 話は逸らしたはずなんだけど」


「脱線慣れしてるから元に戻すの上手いんだよ」


「変な特技を覚えてる……」


 紫音に呆れたような顔をされるが、俺達はその話をしようとしてから実際に話を始めるまでに最低十分はかかる。


 正確には時折話はしてるけど、また脱線するからしたい話が終わるまでに最低十分かかってしまう。


 だからこそ、俺達は脱線慣れしていて話を戻すのも得意だ。


「それで?」


「別にまーくんを馬鹿にしたわけじゃないよ?」


「紫音にそういうの期待してない。単純に気になった」


 紫音が人を傷つけることを言うなんて思ってない。


 紫音は素直だから思ったことが口に出ただけなんだろうけど、言ったからにはそう思ったということだ。


 レンにも似たようなことを言われたけど、俺は別にロリコンとかでないはずだ。


「なんかね、まーくんって子供の扱いが上手そう……違うか、好きそうだったから」


「どういうこと?」


 紫音の言ってる意味がわからない。


 俺はそもそも子供がそんなに好きでないし、たとえそういうのが無かったとしても俺は紫音の前で子供と一緒に居たことはないはずだ。


「もしかして水萌が子供っぽいから言ってる?」


「それは水萌ちゃんに失礼だよ。確かに子供っぽいけど」


「俺、紫音のそういうとこ結構好き」


「僕もまーくんのことは好きだけど、そういうことじゃなくてね、昨日お姉ちゃんとまーくんが遊んでたじゃん」


「遊んでたって言うか……遊んでたか」


 昨日はレンと紫音が言い合ってる時に蓮奈とたわむれていた。


 あれをなんて言うかと言われたら確かに『遊んでいた』になる。


 だけどそれはつまり……


「あれね、すごい子供と遊んでるみたいだったの」


「紫音は人のこと言えないじゃないか」


「僕はお姉ちゃんの子供っぽいところは美点だと思ってるから」


「いいこと言ってる風に言ってるけど、本人の前で言えるのか?」


「昨日まーくん達が帰った後に言ったよ。そしたらね『合法ロリだ!』って喜んでた」


 喜ぶところがおかしいのは蓮奈だから仕方ないとして、それで俺が子供と遊ぶのが好きにはならないと思う。


 確かに蓮奈と戯れるのは楽しかったけど。


「まーくんは大きい子よりも小さい子の方が好きだって言ったのってお姉ちゃんなんだよね。僕もそう思ったから聞いたの。まーくんに怒られたくないから話は逸らしたけど」


 紫音が「ごめんなさい」と言って頭を下げた。


 別に紫音は何も悪くない。


 悪いのはあの自称合法ロリだ。


「後で説教するか」


「お姉ちゃんは悪くないよ」


「悪いよ。紫音が勘違いしたからいいけど、もしも本当の意味を理解してたら俺は今隣の部屋に特攻してた」


 紫音は『小さい子』を『子供』と認識したようだけど、蓮奈が言ったのは絶対に違う。


 やっぱり紫音に変なことを一番吹き込んでいるのは蓮奈だ。


「まあいいや。今頃メンタルやられてるだろうから、後で追い討ちするだけで許してやろう」


「それって結構酷いんじゃ……」


「自業自得。それよりさ、勝手に決めつけてたけど、蓮奈って俺達と同じ学校?」


 すごい今更だけど、蓮奈が留年したら同い年ということしか考えてなくて、勝手に同じ学校にしてたけど、そもそも蓮奈の通ってる学校を知らなかった。


 まあ聞いておいてあれだけど、紫音に俺達の学校を話してない。


 だから答えられるわけが──


「同じだよ。すごい偶然だよね」


「なんで俺の学校知ってるの?」


「あ、秘密だったのに言っちゃった」


「蓮奈が秘密にしろって?」


「ううん、お姉ちゃんも多分まーくんの学校知らないよ」


 それなら紫音が俺の学校を知ってることに説明がつかない。


「まあいっか。ほんとは当日にびっくりさせたかったんだけど、僕ね、まーくんの学校に転校してくるの」


「転校?」


 これでずっと不思議だったことに説明がついた。


 紫音は引っ越したから俺と公園で会うことがなくなった。


 だけどその紫音はこうして俺の隣に居る。


 最初は親戚の家に遊びに来てるだけなのかと思ったけど、それにしては期間が長いような気がするし、何よりもバイトまでさせてもらってるのが少し変だった。


 どこか長い目で見てるような。


 そしてそれだと一つ気になることがある。


「まーくんなら気づいちゃうよね。だから内緒にしときたかったんだけど」


「別に話したくないならいい。だけどそういうことなんだな?」


「……まーくんならいいよ。ちょうど二人だけだから話すね。僕がこっちに帰って来た理由」


 紫音が一つ息を吐いてから口を開く。


 ちょっと重たい話が始まる。

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