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友達の友達

「ということで、蓮奈れなが学校に行けるように特訓することになりました」


「……」


 蓮奈のお世話係に任命された俺はとりあえず隣の部屋に居た三人を呼んだ。


 夏休みはもう残り二週間程度なのでやるなら今日からだ。


 なので蓮奈に人と話すことに慣れてもらう為に水萌みなもとレンに頼ろうと思ったのだけど、蓮奈は毛布にくるまりながら俺を盾にするように隠れて、水萌はそれを見て不機嫌そうにしていて、紫音しおんは嬉しそうにしている。


 そしてレンは……


「随分と仲良くなったみたいで」


「友達になった」


「オレ達が言えることじゃないけど、それは友達の距離感なのか?」


「逆に友達は近くにいたら駄目なの?」


 レンが何に怒ってるのかわからないけど、俺にとってはこれが友達の距離感だ。


 それにレンも言っている通り、これが友達の距離感でないのなら水萌なんてどうなるのか。


恋火れんかちゃん、大丈夫だから怒らないで」


「何がだよ」


「もう」


 水萌がため息をつきながらレンの頭を撫でる。


 レンはその手をどけようとするが水萌も諦めないので小さい戦争が起こっている。


「お姉ちゃん」


「な、なにしおくん」


「お姉ちゃんもまーくんのこと好きになっちゃった?」


 紫音が蓮奈に耳打ちをするが、すぐ後ろだったので俺にも聞こえた。


 そして言われた蓮奈はみるみる顔が赤くなっていく。


「な、ちが、くはなくもないのかもしれなくはないのかもだけど、あくまで友達としてだから!」


「お姉ちゃん可愛い」


 紫音が嬉しそうに蓮奈の頭を撫でる。


 こちらは蓮奈が無抵抗(抵抗する元気がない)なのでそのまま受け入れている。


「お姉ちゃんは僕と結婚してくれるって言ってたのに」


「い、いつの話してるの」


「まーくんと会った頃だから幼稚園?」


「そもそも私としおくんは従兄弟だから結婚できないでしょ。そういうのは二次元だけでいいから」


「にじげん?」


 紫音が手を止めて首をコテンと傾ける。


「やっぱり蓮奈と紫音はそういう話しないんだ」


「しない。しおくんはラノベの表紙を見て顔を赤くして欲しいし」


「言いたいことはわかるけど、それなら俺のこと責められなくない?」


 さっき、紫音に『ダークマター』と『プレイ』という言葉を教えたことを怒られたけど、蓮奈も紫音の反応で遊んでいるのなら俺が怒られるのはおかしい。


 むしろ蓮奈の方がタチが悪い。


「気にしたら負けだよ」


「うざー。というか当たり前だけど紫音とは普通に話せるんだよな」


「まあ私がこうなったのって高校でのことがあってからだからね。それまでは普通の人見知りだったし」


「お姉ちゃんとこうして普通に話せるようになるまで時間はかかったよ。だけどね、まーくんの真似してお姉ちゃんの隣に黙って座ってたら仲良くなってた」


「私が顔向けると笑顔を返してくれるんだよ? そんなの好きになっちゃうよ」


 想像しただけでなごむ。


 俺もそんな紫音だから小さい頃に一緒に居られたのかもしれない。


「小さい頃はしおくんに助けてもらって、今は桐崎君に助けてもらってるんだね。あはは、男に媚びるクソ女かよ」


「自虐が過ぎるだろ。友達なんだから媚びればいいだろ」


「だけどさ、おたくの彼女さんが私を許さなくない?」


 蓮奈が俺に隠れながらレンの方を見る。


 俺も一緒に見るが、水萌と姉妹喧嘩をしてたはずのレンが不機嫌そうに俺を見ていた。


 ちなみに水萌は呆れたように俺を見ている。


舞翔まいとくんだから仕方ないのはわかるよ? 私も人のこと言えないし。だけどさ、恋火ちゃんが可哀想だよ?」


「言っても無駄だろ。サキにはそういう気が本気でないんだから」


「でもこういうのは積もり積もっていって、いつか爆発するって文月ふみつきさんも気にしてたよ」


「爆発するのオレだろ? 正直そろそろ一回してもいいかなって思ってるんだよな」


 なんだか不穏な会話が聞こえてくるけど、多分絶対に俺のせいだから何も言えない。


「私のせいだよね……」


「うーん、お姉ちゃんのせいっていうか、まーくんが女の子の知り合いばっかりなのと、まーくんと恋火ちゃんがちゃんと話さないのが原因かな?」


 落ち込んだ蓮奈に紫音が頭を撫でながら言う。


 前者は完全に俺に非はないはずだけど、後者はどういうことなのか。


 俺とレンは毎日話してるはずだけど。


花宮はなみやさん、詳しく」


「あくまで僕が思ったことだけど、まーくんって無意識に女の子を口説くじゃん」


「うん」


「即答ですか」


 レンの即答に思わず突っ込んでしまった。


 俺は別に誰かを口説いた記憶はない。


 レン以外にそういう感情を向けたこともないし。


「まーくんは無意識だからわからないよ。だからそれは仕方ないとして、だけど恋火ちゃんはそれが嫌なんだよね?」


「別にそういうわけじゃ……」


「そうやって誤魔化すからまーくんが困るんだよ。まーくんにとっては女の子を口説くことは普通なことで、息を吸うのと同じなんだから」


 紫音は俺のことをなんだと思っているのか。


 もしかして俺は傍から見たら海によく出没するナンパ男に見えるのか。


「勘違いしてるまーくんはほっといて。恋火ちゃんはせっかくまーくんの彼女になれたんだからちゃんと嫌なことは嫌って言えばいいんだよ」


「言ってもサキはするだろ」


「するよ。たとえば『私以外に優しくしないで』とか言っても、まーくんは優しさの塊だから無理だもん」


 すごい過大評価で困る。


 俺は別に優しいわけではなく、自分勝手にものを言ってるだけなのに。


「まあ今のは束縛が大きいけど、とにかく嫌なら言えばいいじゃん。いつもがどうかは知らないけど、今の見てたら恋火ちゃんが勝手に拗ねて勝手にまーくんのせいにしてるようにしか見えないよ」


「……」


 紫音の言葉を受けたレンが押し黙る。


 水萌は何か言いたげだけど、口をパクパクさせるだけで終わる。


 なので俺が口を挟む。


「別に紫音が悪者になる必要ないんだぞ」


「だって、ほっといてもまーくんがなんとかするんだろうけど、全部まーくんのせいにしてまーくんに甘やかされるの待ってるの見てるのが嫌だったから……」


「レンはそんなことしないよ。俺の配慮が足りてないのは事実だし」


 俺とレンは恋人になったわけだけど、結局なる前と何も変わっていない。


 むしろ距離感が微妙になった。


 水萌を含めた三人で居る時は近くに居てくれるけど、よりや紫音が居ると距離を置かれる。


 それに水萌との三人の時も、水萌が宿題中で動けない時や、水萌が俺に絡んでくる時しか距離が近くならない。


 理由がないと距離が遠い気がする。


「俺がレンだけを見れればこうならないんだけど」


「じゃあ一回水萌ちゃんも抜きでデートでもしたら?」


「いや、それは無理です」


 紫音の提案に黙っていたレンが即答で返す。


「紫音」


「なに?」


「俺って実はレンに嫌われてる?」


「うーん、あれは多分そういうのじゃないと思うけど。というかまーくんは彼女が責められてるんだから僕を怒らないとでしょ!」


 紫音が頬を少し膨らませて文句を言ってくる。


「だから悪者役にならなくていいんだって」


「本音九割だったから役じゃないよ」


「やめて、ギクシャクするでしょ」


「あんまりこれ言いたくなかったんだけど、僕と恋火ちゃんって友達の友達感あるんだよね」


 紫音が複雑そうな顔で言うが、少しだけわかる気がした。


 二人が話してるところもめったに見ないし、レンにいたっては未だに花宮さん呼びだ。


「だけどまーくんが困るだろうからちゃんとする」


 紫音はそう言うとレンに近づいて行く。


「色々言ってごめんなさい。これは恋火ちゃんを責めるみたいに言ったことに対しての謝罪ね。まーくんを困らせたのは謝らないから」


「蓮奈さん蓮奈さん」


「なんだい少年」


「いい返しをありがとう。おたくの従兄弟さん正直すぎん?」


「見た目に騙されたらいけないよ。しおくんは芯の通った男だから。そんじょそこらのヘタレどもとは訳が違う」


「そんじょそこらですみません」


 ずっと思ってはいたけど、紫音は見た目と行動が可愛いから女子に間違われるが、ちゃんと接していると自分の意見はちゃんと言うし、相手の意見が気になれば指摘する。


 つまり『姉御肌』というやつだ。


「って、結局女じゃねぇか」


「一人ツッコミって初めて見た。桐崎君ってやっぱり変人だよね」


「人なのか毛布なのかわからない蓮奈には言われたくない」


「なにをー」


 蓮奈が俺に頭突きしようとするけど全然届いていない。


 可愛くて面白かったので、軽くデコピンをしておいた。


「やっぱりちゃんと謝るね。まーくんも悪いや」


「いや、花宮さんの言う通りなんで。正直サキだから仕方ないとは思いつつも、やっぱり嫌な気持ちはあったから。それでも一番に甘やかしてくれるのはオレだって誤魔化してたけど、隣の芝生は青いだよな」


 レンが俺と蓮奈のやり取りを羨ましそうに見てくる。


 そんなに毛布にくるまる蓮奈から頭突きをされたいのか。


「変なのを好きになった自分を恨むことにしよ」


「恨むなら私が貰おうか?」


「あげないよ。あれはオレのものだから」


 なんだか人を物扱いしてるように聞こえたけど、今はまたいつ倒れるかわからない蓮奈が心配で気にしてる余裕がない。


「つーかいつまで毛布にくるまってるんだよ」


「き、桐崎君は私にここで脱げと?」


「そう、さっさと脱げ」


「や、こんな人前で……えっち」


「着物の帯引くやつやる?」


「あ、やりたい」


 蓮奈はそう言うと俺に毛布の端を渡してくる。


「絶対面白くないぞ?」


「いいのいいの。こういうのは雰囲気が大事なんだから」


「雰囲気もないと思うけど。まあいいか、じゃあ」


 そう言って俺は勢い良く毛布を引っ張る。


 だけど案の定上手く回らず、普通に蓮奈が引っ張られて蓮奈が俺に突っ込んだ。


「痛い」


「ごめん? あれ、私が謝るのはおかしいか?」


「上手く回らなかった蓮奈が悪い」


「桐崎君が下手っぴだったんだよ」


「もう普通に脱げ」


「きゃー、桐崎君に襲われるー」


 うるさい蓮奈を無視して毛布をひっぺがす。


「なんか子供が遊んでるみたいだな」


「あんなに楽しそうなお姉ちゃん初めて見たよ」


「舞翔くんもじゃない?」


「確かに。なんか今になって童心が生まれたのか──」


 蓮奈の毛布を全て剥がしてベッドに投げた。


 蓮奈が追いかけようとするので腕を掴んで止める。


 そして何故か固まっているレンの前に連れて来る。


 逃げないように腕は掴んだままで。


「そもそも元はと言えば蓮奈が人馴れする為に始めたんだから」


「そう、だけど、いきなり話すのは……」


「もう十分醜態晒したろ」


「そうさせたのは桐崎君だから責任取って!」


「知らんし」


 なんだか意味のわからないことを言っている蓮奈は無視して俺に固定されている顔をレン達に向けさせる。


 そして背中をさすりながら話をさせた。


 と言ってもなぜかレンと水萌の方が心ここに在らずみたいな返事をしていた。


 とりあえず喋れる度に蓮奈の頭を撫でたりしていたけど、これを会話と呼んでいいのか。


 蓮奈の事情を当たり障りない程度に話したところで今日のリハビリ? は終わりにした。


 その後は俺が蓮奈と話していたけど、終始水萌とレンは蓮奈の体に視線が固定されていた。


 視線が嫌だったのか、蓮奈はまた毛布を装備したけど、これは仕方ないので許した。


 帰ってから二人を注意したら「だって……」「うん……」と何かに敗北したような顔になっていた。


 あれはなんだったのか。

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