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お世話係就任?

蓮奈れなさん?」


「ごめんなさい、悪ノリした私が全て悪いんです。なので少し放置していただけると助かります」


 蓮奈さんがまたも毛布の塊になってしまった。


 蓮奈さんが俺に迫って来て追い詰められたのは覚えているけど、その後なにがあったのか覚えていない。


 俺が気づいた時には蓮奈さんの顔が火照っていて、どこか嬉しそうに見えたけど、少ししたら毛布に隠れてしまった。


「俺、何かしました?」


「それを現実で聞くことになるなんて思わなかった。正直に言うと何かはしたけど、完全に私の自業自得だし、それに……」


「それに?」


「なんでもない。それよりも一つだけ確認していい?」


「なんですか?」


「私のこと嫌いになったよね……?」


 蓮奈さんが毛布から顔だけを出して今にも泣き出しそうな顔で言う。


「えっと?」


「私ってスイッチ入ると自分を抑えられなくなっちゃって、そのせいでクラスの人に引かれちゃって、他にも理由はあるんだけど、いつの間にか学校でひとりぼっちになったの。だから気をつけてたんだけど、桐崎きりさき君見てたら自分が抑えられなくなって……」


 蓮奈さんの頬に涙が流れる。


 学校で何かしらがあったのは見ればわかる。


 着てる服が中学のジャージなのも、高校のを着れない理由があるのかもしれない。


「ご、めん。いきなりこんな話されても困るよね」


 蓮奈さんが無理やり笑顔を作る。


「正直困りました。困ったので困った時に水萌みなもにやることをしていいですか?」


「え?」


 逆に蓮奈さんを困らせてしまったので、自分で聞いたくせに蓮奈さんを無視して蓮奈さんの頭に手を伸ばした。


「ずっと毛布の中に居るからボサボサじゃないですか。これはこれで可愛いですけど」


 俺がどう反応したらいいのかわからなくなった時にやること『頭を撫でる』をしてみた。


 まあ無意識に手が伸びることの方が多いけど。


「あ、嫌でした? 初対面の男に髪触られるのって普通は駄目なんですよね?」


 水萌とレンと出会ってすぐの頃は頭を撫でることを控えていたけど、何回かやってるうちにすることが普通になっていた。


 だけどいつだったかよりに「女子の髪に気安く触れるのは駄目なんだよ」と言われた。


 だから依の頭を撫でるのを控えていたら「撫でてくれないの?」と言われて結局意味がわからなくなった。


「すいません、やめま──」


「続けて欲しいです」


 俺が手をどけようとしたら蓮奈さんに手を押さえられた。


 蓮奈さんからお許しが出たので撫でるのを再開する。


「そういえばさっきの返答ですけど、なんで蓮奈さんに迫られて嫌いになるんですか?」


「だって、桐崎君には彼女がいて、それなのに私は私欲で桐崎君を襲おうとしたから。それに桐崎君がさっき言ってたけど、私と桐崎君って今日初めて会った初対面の相手なわけで、そんな相手にいきなり迫られたら嫌でしょ……?」


「確かに初対面の人に近づかれるのは嫌ですね」


 俺は誰がなんと言おうと人見知りだからいきなり近づかれたら普通に嫌だ。


 だけどそれに蓮奈さんは含まれない。


「俺は蓮奈さんのこと好きなので嫌じゃないですよ?」


「……落ち着け私。しおくんが言ってたでしょ、桐崎君の『好き』に変な意味はない。普通に友達としての好きを言葉に出すって。友達……」


 蓮奈さんが頬を赤く染めながら俺の方をちらっと見てすぐに目を逸らす。


「き、桐崎君は私をお友達って思ってくれる?」


「友達……。微妙な感じなんですよね。蓮奈さんは年上なわけで、それなのに友達って言っていいんでしょうか?」


 俺は『友達』というものがどういうものか最近知ったが、まだ詳しく理解したわけではない。


 蓮奈さんは一つ上の代なので言ってしまえば『先輩』になる。


 歳が違えば友達になれないのかと言われたら、なれるとは思うけど、俺と蓮奈さんが『友達』なのかはよくわからない。


「なんかシンパシーを感じる。じゃあこうしよう。私は桐崎君をお友達だと思うから、桐崎君も私をお友達って思って」


「蓮奈さんがいいならいいですよ」


「久しぶりのお友達だ」


 蓮奈さんが毛布で口元を隠しながら左右に揺れる。


 なんだか可愛い。


「あ、じゃあお友達なんだから敬語やめよ」


「『蓮奈さん』も禁止ですか?」


「うん。私のことは呼び捨てかあだ名でもいいよ」


「じゃあ……蓮奈で」


 なんて呼ぶか少し考えてみたけど、いいあだ名が思いつかなかったのでそのまま呼ぶことにした。


「おふ、いいとは言ったけどなんかすごいな」


「嫌でした?」


「呼び方はいいよ。だけど敬語はやだ」


「そっか。気をつける」


「うん。じゃあ次敬語使ったら私のリハビリに協力してね」


「リハビリとは?」


「私って今、絶賛不登校中なんだよね。だから人と話す練習とか、自分を抑える練習とか?」


 学校でひとりぼっちとは言っていたけど、まさか不登校とは思わなかった。


 だけどそれなら俺が役に立てるかもしれない。


「水萌とレンに出会うまでずっとぼっちだった俺が蓮奈を助ける」


「桐崎君、自分からぼっちになるのといじめでぼっちになるのは違うからね?」


「つまり俺は役たたずのぼっちもどきってことか……」


 蓮奈のことを助けられると思ったのに、やっぱり俺なんかでは誰も助けることは……


「落ち込む桐崎君って可愛い。これはスイッチを制御する練習してくれてるのかな?」


「俺ごときが調子に乗ってすいません」


「落ち込む時はとことん落ち込むタイプだ。だけど撫でる手が止まらないのがすごい」


 俺はずっと蓮奈の頭を撫でている。


 撫でるのは好きだけど撫で始めるとやめ時がわからなくなってしまう。


「何もできない俺が蓮奈の頭を撫でるなんて分不相応でした。やめ──」


「させませーん。それと敬語使ってるから私のお世話係に任命決定ね」


 蓮奈が俺の手首を掴んで離さない。


 さっきは練習相手だと言っていたのに、いつの間にかお世話係になっている。


「桐崎君、なんか勘違いしてるみたいだからちゃんと言うね」


「何をですか?」


「だから敬語やだ! んと、桐崎君は私を助けられないとか言ってるけど、私は十分に助けられたから。桐崎君が初めてだからね? 私の醜態を見て引かないでむしろ好きとか言った人」


 蓮奈が掴んでいる俺の手を下ろしていじり出す。


「あんまり思い出したくないから詳しくは説明しないけど、学校で一回だけさっきみたいに暴走したのね。そのせいで私は痴女扱いされちゃって、それはまあ仕方ないんだけど、ただでさえ嫌だった男子の視線が増えたり、女子も私を避けるようになって、学校に居場所が無くなっちゃったんだ」


 蓮奈が俺の手のひらと自分の手のひらをくっつけたので大きさでも比べてるのかと思ったら、いきなり指を絡ませてきた。


「恋人繋ぎー。なんてね」


「話したくないなら話さなくていいんだよ?」


「本題がまだだから話す。とにかくそんなことがあって私は不登校になったんだけど、桐崎君は私の挙動を見ても普通に接してくれるし、男の子なのに胸を気にしないでまさかの名前が気になるし、それに私が醜態を晒せば自分も同じことをしてくれた」


「それは無意識だから。ちょっと蓮奈が可愛すぎた」


 正確に言うなら蓮奈へのささやかな反撃だけど、まあ俺も自制が効かなくなった結果だから同じようなものだ。


「たらし」


「どういう罵倒?」


「知らない。まあとにかく、私は十分に桐崎君に助けられてるんだよ。だから自分を責めないで、むしろ胸を張っていいよ。多分私はその胸にこれからもたれ掛かるから」


 蓮奈はそう言って俺の胸にもたれ掛かるように座る。


「なんか想像してたのと違う」


「よくよく考えたら肩にコテンはあるけど、胸にいくのっておでこか耳だったから。胸にもたれ掛かるってどういう感じなんだろ?」


 俺に聞かれても困る。


 だけどこうしてもたれ掛かってくれるなら支える。


「目標は夏休み明けに学校に行くこと?」


「それは早すぎでは?」


「ちなみに不登校にはいつから?」


「二年生に上がってすぐだったかな?」


「進級できるの?」


 蓮奈と一緒のクラスで勉強するのも悪くないけど、それはいいのだろうか。


「大丈夫大丈夫。いざとなったらお友達の桐崎君が責任取って私をお嫁さんにしてくれるでしょ?」


「なんの責任?」


「私にあんなことした責任……」


 蓮奈が顔だけを俺の方に向ける。


 その顔が少し赤いのはきっと気のせいだ。


 俺は何もしていないはずだから。


「つまり夏休み明けに学校に行かせるのが俺の任務か」


「うちに毎日通えばデイリーボーナス貰えてお得だよ」


「どんなボーナス?」


「私と会える」


「それは確かにボーナスだろうけど」


 それでは学校に行かせるという俺の任務に関係ない。


 まあ毎日通えばそれだけ色々なことができるけど。


「桐崎君を照れさせるのは諦めよう。私が照れる」


「よく言われる」


「たらしー」


 蓮奈が足をパタパタさせながら嬉しそうに言う。


「ありがと。大好き」


「はい?」


「なんでもなーい。鈍感系主人公には絶対に聞こえない不思議な声で喋ったから」


「意味がわからない」


 よくわからないけど、蓮奈がとてもハイテンションだからいいことにした。


 そしてしばらくの間、俺と蓮奈は好きなアニメの話をしていた。

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