類は友を呼ぶ
「水萌、オレはこういう時ってサキを軽蔑すればいいのか?」
「そうじゃない? それで舞翔くんと恋人さんやめて落ち込んだ舞翔くんを私が慰めるの」
「よし、とりあえずサキをいじる方向でいこうか」
蓮奈さんの部屋で話していた俺と蓮奈さんだったけど、いきなり蓮奈さんが気絶して俺に覆いかぶさった。
そして隣で壁に耳を付けて聞いていた水萌とレンがそれを聞いて駆けつけた。
蓮奈さんは花宮に頼んでベッドに運んでもらった。
俺達は蓮奈さんの部屋の真ん中で正座して向かい合っている。
「サキとしてはどうなの?」
「何が?」
「付き合ってるオレが隣に居るのに友達のお姉さんに押し倒された気持ち」
レンが少し楽しそうに聞いてくる。
別に俺は押し倒されたのではなく、なぜか気絶してしまった蓮奈さんを支えようとしたけど俺が非力だったせいで二人で倒れてしまっただけなのだけど。
「蓮奈さんって言うんだよね? 可愛い人だね」
「そうだな。今は聞けないけど声が特に可愛い」
「サキってなんで普通なら修羅場になるような状況を見られたのにそんな余裕なんだよ」
レンがため息をつきながら呆れたような顔になる。
「確かにアニメとかならヤバい状況なんだろうけど、倒れる蓮奈さんをそのままにして怪我でもされたらそっちのが嫌でしょ。それとも蓮奈さんがそのまま倒れた方のが良かったと?」
「ド正論で殴るのやめて。多分サキにはそんな気はないんだろうけど、完全にオレが悪者にされてるから……」
レンが気まずそうな顔になった。
レンは俺に他意がないみたいに言ってるけど、確かに本音九割だけど一割だけ言い訳も入ってるから少しだけ罪悪感が湧く。
「じゃあ一つだけ確認させて」
「なに?」
「蓮奈さんのこと口説いてないな?」
「口説くとは?」
「サキにわかるように言うなら、よりが恥ずかしがる時に言うようなことかな」
依が恥ずかしがる時に俺は変なことを言ってるだろうか。
「そっか、サキは常に素で生きてるからわからないか。まあでも、蓮奈さんの反応見るに言ったんだろうな」
「私も言ったと思う。しーくんは?」
「僕? 絶対言ったと思うよ?」
蓮奈さんの頭を優しく撫でていた花宮が当たり前みたいに言う。
「俺は何を言ったんだよ」
「鈍感が」
「鈍感系主人公って見ててイラつかない?」
俺がそう言うとみんなからジト目を向けられた。
俺は何か変なことを言っただろうか。
ちょっといたたまれないのでお決まりの展開を期待してみる。
「そろそろ救世主が目覚めてくれるはずだ」
「またサキが馬鹿なことを──」
「あれ? 私寝てた?」
「マジかよ……」
ちょうどいいタイミングで蓮奈さんが気絶から目覚めた。
レンを含めてみんなが驚いているが、正直俺も驚いている。
「実は起きてましたよね?」
「え?」
「マジなやつだ。メシア」
俺は両手を組んで蓮奈さんに祈りを捧げるけど、蓮奈さんの目覚めが俺に味方するのかはまだわからない。
下手したら悪化する可能性もある。
「あ、あれ? し、しおくん、ひ、人が増えてるよ!?」
「お姉ちゃんが倒れたのを心配して……来てくれたんだよ」
花宮が一瞬水萌とレンに視線を向けて何かを飲み込んでから続けた。
確かに水萌とレンは蓮奈さんを心配して来たのかは微妙なところだ。
何か別の理由で話を盗み聞きしようとしてたようにしか思えない。
「そ、そうなの? え、えっと、あ……」
蓮奈さんが水萌とレンを見て固まる。
やはり蓮奈さんは極度の人見知りのようだ。
「類友ってこういう感じなのかな」
「だからサキは人見知りじゃないっての」
「俺は頑張れば人と話せる人見知りなの」
「本当の人見知りは頑張っても人と話せないだろ」
「つまり俺は新種の人見知りってことか」
レンにため息をつかれた。
俺はいくら呆れられても人見知りだと言い続ける。
そして俺は人見知りだから同じ人見知りの水萌と出会えたのだ。
そこが俺の原点の『類は友を呼ぶ』になる。
「親近感」
「水萌は本当の人見知りだからそうかもな」
「舞翔くんの言う通りお声も可愛いし」
「それは確かに」
蓮奈さんの人見知りは確かに水萌と似ている。
蓮奈さんの場合は話そうとしても話せないタイプで、水萌はそもそも話そうともしないから少し違うけど、大きく『話ができない』というところは似ている。
「そう考えると蓮奈さんの方が……」
「なーに?」
「なんでもないです」
話そうとして話せない蓮奈さんの方が、そもそも話す気のない水萌よりも……なんて思ってない。
そして水萌の笑顔の圧に負けて言葉をやめてもない。
「……」
「いい人しかいないでしょ?」
「桐崎君だけでもびっくりしたのに、桐崎君の言葉を借りるならこれが『類友』なんだね」
花宮と蓮奈さんが何かを話している。
「あ、そういえば蓮奈さんって名字が『花宮』なんですよね?」
「え、うん」
「僕のお父さんと叔父さんが兄弟だから同じ名字なんだ」
「なるほど。つまり俺が『花宮』って呼ぶとややこしいですよね」
さっきもそれを気にして呼び方を変えてみたけど、やっぱりその方がいいと思う。
「ということで花宮は紫音になりました」
「突然すぎない? 別にいいけど」
「意外と普通な反応。紫音の恥ずかしがるところ好きなんだけど」
「まーくんっていつからそんないじわるに……昔からか」
紫音に大きなため息をつかれた。
そろそろ昔のことを思い出した方がいいだろうか。
結構紫音に迷惑をかけてそうだし。
「しおくん嬉しそう」
「わかる? 呆れたみたいにしてみたけど、まーくんに名前で呼ばれるの嬉しい」
「ほんとにいいお友達なんだね」
「うん!」
紫音が満面の笑みで答えるが、なぜか蓮奈さんは毛布で自分の顔を隠す。
「あ、ごめん」
「大丈夫、私が陰の者過ぎるせいだから」
「だから『いんのもの』ってなんなの?」
「『光』が天敵な人のこと」
「桐崎君!」
蓮奈さんと会って一番の大声を聞いた。
それでもか細いけど。
だけど俺には『ダークマター』や『プレイ』を紫音に教えたと怒ってきたくせに、自分も変な言葉を教えてるんだから仕方ない。
「お姉ちゃんは吸血鬼なの?」
「発想が可愛い」
「うん、さすがしおくん」
「まーくんとお姉ちゃんが仲良くなったのはいいけど、二人で僕を馬鹿にするのは駄目!」
紫音が頬を膨らませて俺を睨む。
そんなことをされても可愛いだけなんだけど、俺だけを睨むのは不公平だ。
まあ蓮奈さんを睨んでも毛布につつまれてるから意味無いのはあるけど。
「サキって自称人見知りなくせして初対面の人とすぐ仲良くなるよな」
「うん、私と恋火ちゃんもほとんど初対面だったのにすぐ仲良くなったし、文月さんもちょっと話しただけで仲良しさんだった」
「僕もそうかも。しかも僕以外はみんな女の子で可愛いんだよね」
「「あぁ……」」
水萌とレンが紫音を見て同時に納得する。
紫音は顔にはてなマークを浮かべているけど、そういうことだ。
「き、桐崎君ってもしかして……」
「なんですか?」
「ハーレムものの主人公なの?」
「依みたいなことを」
真面目に聞いた俺が馬鹿だった。
決めつけは悪いだろうけど、蓮奈さんは依と同じ匂いがする。
「まさかまだ女の子の友達が……」
「お姉ちゃん、まーくんは彼女いるんだよ」
「くはっ」
蓮奈さん(毛布の塊)が崩れ落ちる。
「ま、まさかのリア充。桐崎君は裏切らないと思ってたのに……」
「大丈夫、まーくんは普通じゃないから」
「紫音よ、お前も人のこと言えないぞ?」
さっきは紫音を馬鹿にしたことを怒っていたくせに、自分も俺のことを馬鹿にしている。
本当に今度依と密室に放り込んでやろうか。
「き、桐崎君は陽の者じゃない?」
「俺はどっちかって言うと陰の者ですね。水萌が居ないと教室の隅っこでボーッとしてるだけなので」
最近だと依も近づいて来るけど、その前に必ず水萌が居るから俺は水萌が居なければ今でもクラスの人に名前を覚えられてない陰キャぼっちだ。
「陰は光が強いと目立ちますから」
「何それかっこいい」
「どこで通じ合ってんだよ」
レンにジト目で突っ込まれた。
通じ合ったわけではなく、なんとなく蓮奈さんが好きそうな言葉を選んで言ってみただけなんだけど。
案の定喜んでくれたからそれはいい。
「それよりも、蓮奈さんの話って終わったんですか?」
「あ、終わってない。だけど……」
「人が居ると恥ずかしいって」
「だからなんで通じ合ってんだよ!」
レンが少し拗ねたように俺の肩を小突いてくる。
可愛かったので頭を撫でた。
「なんだよ」
「そこに可愛いが居たから」
「意味わかんないし」
どうやら満足いったようでレンの表情が綻ぶ。
「恋火ちゃんって……なんでもない」
「サキ、オレは水萌と話すことができたから隣に行く」
「ありがとう。ほどほどにな」
「水萌次第だな」
「じゃあ僕が見てるね」
「ありがと」
ほんとに気が使える子達だ。
水萌のは気遣いとかではないだろうけど、ナイスアシストだったので、レンに怒られて落ち込んでる水萌にご褒美を考えておかなければ。
そうして俺と蓮奈さん(毛布の塊)はまた二人っきりになったのだった。




