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呼ばれた理由

「いらっしゃいませ」


花宮はなみやが言うと違う意味に聞こえる」


 俺と水萌みなもとレンの三人は約束通り花宮の家にやって来た。


 ちなみによりは積まれたお宝を知識に変える作業があるからと来れないらしい。


 訳すと「買うだけ買って積まれた本を読むのに忙しい」とのこと。


 まあ悲しい裏話をすると、今日依は花宮に呼ばれていない。


 どうやら俺達に用があるようだ。


「お部屋がいい匂い」


「一階がお店だからね。それと在庫処分みたいになっちゃうけど、良かったらこれ食べて」


 花宮はそう言ってマフィンやコロネなどのパン達を並べる。


「やったー」


「いいの?」


「うん。叔父さんと叔母さんも常連の水萌ちゃんには感謝してるし。だからこれは出来たて」


 花宮が最後にシュークリームを机に並べる。


「私ここのシュークリーム大好き!」


「うん、叔父さん達も水萌みなもちゃんは毎回買ってくれるって言ってた」


「オレも食べたことあるけど、特に美味しいよな」


 俺も前に水萌と買いに来た時、水萌のおすすめとして買ってみたけどとても美味しかった。


「帰りに買って帰ろ」


「気持ちはわかるけど食べ過ぎるなよ?」


「大丈夫。今日はシュークリームだけで我慢するから」


 晩ご飯もあるから本当は食べさせない方がいいのだろうけど、水萌ならシュークリームを食べたぐらいで晩ご飯を残すことなんてないからいいのだろうか。


 まあ水萌がシュークリームを何個買うかは言ってないのが少し怖いところではあるけど。


「水萌ってオレの倍以上は食べてるのになんでどこも成長しないのか」


恋火れんかちゃんが酷いこと言った」


「半分はそうだから何も言えない。よりが言ってたけど、アニメとかなら胸に吸収されるキャラクターもいるらしいけど、そうでもないよな」


「レン、セクハラになるから男子の前でそういうこと言うな」


「なに? サキはそういう話されると恥ずかしいの?」


 レンが嬉しそうに言う。


 だから俺は表情を変えずに(元から変わらない)向かいに座るもう一人の顔を赤くしている男子を指さす。


「あ、ごめん。普通に男子なの忘れてた」


「そういうのモラハラになるからな」


「うわ、正論しか言わないサキってめんどくさい。完全にオレが悪いんだけど」


 言ってて俺もめんどくさいとは思ったけど、花宮を『可愛い』と思うのは仕方ないとしても、花宮を『女子』として扱うのは違うと思う。


 花宮は『可愛い男子』であって『可愛い女子』ではないのだから。


「まーくんもまーくんで僕で遊んでるでしょ」


「そんなことはない。……多分」


「もう。そうやっていじわるばっかりするまーくんにはお仕置きだよ」


 花宮がジト目を向けてから頬を膨らませてそっぽを向くというごほ……わかりやすく拗ねてしまった。


「お仕置きとは?」


「えとね、今日まーくんを呼んだのってまーくんとお話したい人がいるからなの」


 ほんの数秒前まで拗ねていた花宮だけど、すぐにいつもの花宮に戻ってくれるあたりいい子だ。


 だからやり過ぎてしまうのだけど。


「なんかね、まーくん、依ちゃんもかな? 二人の話をしたら『連れて来て』って」


「怒られるやつ?」


「……どうだろ」


 花宮があからさまに視線を逸らした。


 これはどう捉えるのが正解なのか。


 本当に怒られるけどそれを伝えるのを避けたのか、それとも俺に恐怖感を持たせる為にわざと間を作ったのか。


 できれば後者であって欲しい。


「ちなみにその人って?」


「叔父さんと叔母さんの子供で、僕の従姉妹いとこになるお姉ちゃんがいるのは話したよね?」


「聞いた。つまりそのお姉さん?」


「うん。僕達の一個上で高校二年生だよ」


 なんとなくわかった。


 要は俺や依が花宮に変なことばかり吹き込んでいるのが花宮経由で伝わったから元凶の俺が怒られるわけだ。


 そしてそれを察したのか依は逃げたと。


「確かに人見知りの俺にはお仕置きだわ」


「ヒトミシリ?」


「なんでそんなカタコトなんだよ」


「まーくんって人見知りなの?」


 花宮が本気で驚いた顔をしている。


 何をそんなに驚くことがあるのか。


 俺ほど人見知りな人間もいないと思うけど。


「サキの人見知りは完全に自称だから気にしないで大丈夫」


「そんなことはない」


「あるから。サキは人見知りの意味を間違えてる。サキのは人見知りじゃなくて人に興味がないから関わりたくないってだけ」


 レンが呆れたような顔で言う。


 そこまでキッパリ言われると否定がしにくい。


「まあ人見知りなら人見知りでもいいよ。そっちの方がお仕置きになるし」


「笑顔で言うな。なんか胃が痛くなってきた」


「じゃあ貰っていーい?」


 水萌がそう言って俺のシュークリームに手を伸ばす。


「これは食べたいから駄目。水萌はいっぱい食べたんだから我慢しなさい」


「むぅ……」


 水萌が口元にチョコ(多分コロネの)を付けながら不服そうな顔をする。


 そんな顔をされても実際たくさんあったパン達は九割は水萌によって食べられている。


「水萌が静かな時って何か食べてる時なんだよな」


「お話に夢中で気づかなかったけど、水萌ちゃん一人であの量食べたんだ」


「こんなんで驚いてたら水萌と一緒に過ごすとかできないぞ。水萌はこの後晩ご飯も俺達の倍は食べるから」


「なんかみんなして私にいじわるしてる!」


 水萌がほっぺたを膨らませて拗ねてしまった。


 俺は花宮からティッシュを貰ってご機嫌ななめな水萌の口元に付いたチョコを拭き取る。


「たくさん食べてる水萌のこと、俺は好きだよ」


「僕も驚いちゃっただけで、美味しそうに食べてくれるのは僕も嬉しい」


「まあ水萌が幸せならそれでいいんじゃないの」


「私も優しいみんなが大好き!」


 水萌はそう言って満面の笑みで俺に抱きついてきた。


 こういう時は全員に抱きつくものだろうけど、場所的に無理だから俺が代表で抱きつかれたのだろうか。


 まあ可愛いからなんでもいいんだけど。


「こういうのもセクハラになるんだろうけどさ、水萌って食べた後すぐでも軽いよな」


「ほんとにどこ言ってんだろうな」


「頭を使うと糖分を欲するって言うから」


「使わない頭に糖分なんて行かないしいらないだろ」


「やっぱり恋火ちゃんは優しくないから嫌い、嘘」


 とんでもなく早い手のひら返しを見た。


 だけど実際水萌の食べたものはどこに行っているのか気になる。


「まあいっか。水萌は可愛いってことで」


「どういうことだよ」


「可愛い子って体重とか無いものでしょ?」


「よりが好きそうなやつね」


「アイドル体型って言ってもいいけど」


「あれは現実だから──」


「それ以上は言うな。叩かれる可能性がある」


「誰からだよ」


 このご時世どこで誰が聞いているかわからないから変なことを言わない方がいい。


 特にオタクを敵に回すと結構あっさり住所を特特定されたりして危ない。


「ということで不用意な発言は気をつけるように」


「なんかサキがよりに似てきた気がする」


「どんな侮辱だ」


「それはよりに失礼」


「後であやま……怖いんですけど」


 最近携帯するようになったスマホがメッセージを知らせる着信で震えたので「そんなことはないだろ」と思いながら開いてみたら依から『すごい侮辱された気がしたんだけど?』とメッセージが来ていた。


 やっぱり俺の周りにはエスパーしかいないのではないだろうか。


 とりあえず依には『大変申し訳ございませんでした』と返したら『今度お詫びしてね〜』と返ってきたのでとりあえず怒ってないようで安心した。


「な?」


「何がだよ」


「誰がどこで聞いてるかわからないって話」


「今のは花宮さんがバラしただけだろ」


「だろうけど意味は同じだろ」


 さっきから花宮がテーブルの下をチラチラ見ていたので何をしてるのかと思ったら依に俺の発言を伝えていたようだ。


 それがバレていたことを知った花宮は目をキョロキョロさせて明らかに動揺している。


「俺に悪いと思うならお仕置きは無しで」


「それは駄目。お姉ちゃんも頑張ったんだから」


「何を?」


「な、なんでもない。それよりもお姉ちゃんが待ってるから……早く行って」


「いや、その間はなに」


「気にしないの!」


 花宮はそう言って立ち上がると俺の方に回り込んで俺の背中を押す。


 どうやら俺一人でお姉さんのところに行かされるようだ。


 俺は怒られるのが確定している対談に向かうのだった。

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