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笑顔にさせるのは

「そんな大層なもんじゃないから期待すんなよ?」


「私も舞翔まいとくんからのプレゼントに釣り合わないんだ」


 レンと水萌みなもが自信なさげに俺へのプレゼントらしき箱を持ってきた。


 大きさは手のひらサイズでそこまで大きくはないようだ。


「俺がそれ言ったら怒るんだから言わんくていいんだよ」


「サキの気持ちがめっちゃわかる。これはやばいわ」


「うん、舞翔くんが優しいことをいくら知ってても怖い」


 レンと水萌が少しだけ挙動不審になる。


 こればっかりは仕方ないと思う。


 何しろ俺達は誰かに何かをあげるなんて経験が著しく少ないのだから。


「慣れるまでは仕方ないかな」


「慣れるものなのかな?」


「人間なんでも怖いのは最初だけなんだよ。知らんけど」


 誰でも最初は怖い。


 初めての学校や、初めてのバイト。


 だけど気がつくと慣れてそれが普通になってくる。


「お兄様にしては珍しく下ネタだね」


「どこが?」


「マジか、本気でわからない顔してやがる。これはうちが変態みたいになるから言わんどこ」


 よりが変態、変なのは今更だから気にすることでもないような気がする。


 思い返せば依だって最初は変な人だと思っていたけど、慣れてしまうとそれが普通に感じてしまっている。


「そもそも最初は嫌いだったのに」


「いきなりうちのメンタル削るのやめてね」


「今は好きだから」


「そしていきなり喜ばすのも禁止。感情のジェットコースターはどんな絶叫ものよりも怖いから」


 依が複雑そうな顔で言う。


 ちょっと言ってる意味はわからないけど、そう言うならこれからは依を褒めることは極力避けることにした。


「なんか悪い方にいった気がするぞ?」


「サキ、あんまりよりに『好き』とか言うな」


「うちが寝取るから?」


「よりが調子乗るから。よりは図に乗るとめんどくさいんだよ」


 レンがため息混じりに言うと、依が少し拗ねたようにジト目を向ける。


 俺に。


 理不尽だけど心でレンの意見に同意してしまった俺は何も言えない。


「まあいいや。お兄様に『好き』って言ってもらえたし」


「簡単な女はほっといてオレからプレゼントをくれてやろう」


「誰がチョロインだ!」


 レンがほんとに依を無視して気持ちを作っている。


 なんだか依が可哀想に見えてきたので後で構ってあげることにした。


「無視はお兄様で慣れてるからいいけど……」


「なんかごめん。これからは構うから」


「そう言って構ってくれない……こともないのがお兄様だから困るんですよね」


 依にため息をつかれた。


 結局構って欲しいのか欲しくないのかわからないからその場のノリで適当に扱ってしまうのだ。


 どうしたものかと考えていたら、レンが俺の胸に顔を当てて上目遣いで俺を見ている。


「今はオレの番なんだけど?」


「無理するな。恥ずかしいならそういうのは二人かせめて水萌だけの時にしとけ」


「はっ、誤魔化すな。心臓張り裂けそうになってるぞ」


 レンがすごい嬉しそうにニマニマ顔を俺に向けてくる。


 仕方ないことだ。


 だって可愛いんだから。


「レンはさ、水萌から小悪魔の座を奪いたいの?」


「別にいらんわ。つーかなんでサキってそんなに顔に出ないんだよ」


「知らない。もしかしたら今まで表情を動かすことがなかったから表情筋が硬いのかも?」


「うわぁ、なんかすごい納得できる理由」


 レンに呆れたような顔を向けられた。


 俺は別に感情が無いわけではない。


 女の子の可愛い動作や言動にはドキッとするし、プレゼントを渡す時は怖かった。


 だけどそれはレン達と出会ってから知ったもので、それまでは感情が動くことなんて一切なかった。


 覚えてないけど花宮はなみやと一緒に居た時もボーッとしてただけで何も考えてなかったと思うし。


「ごく稀になら顔に出ることあるでしょ?」


「水萌は見たことある?」


「お顔が赤くなってるのはある。後、笑ってくれたこともあるかな? あれはドキドキした。それと寂しい時はお顔に出てる?」


「サキの寂しそうな顔って、『顔』ってよりかは『雰囲気』なんだけど、確かにあれは一番感情出てるか」


 よくわからないけど、やはり俺にはちゃんと感情がある。


 そして寂しい時に顔に出るのは、俺がずっと一人の時に無意識に感じていたからかもしれない。


 俺が気づいてないだけでその時だけは顔に出ていた可能性はある。


「僕達のプレゼントもなんとなく嬉しいって思ってるのはわかったけど、顔には出てなかったもんね」


「ごめん」


「いいよ、来年はまーくんを笑顔にさせてみせるから」


 花宮が胸の前でガッツポーズをする。


 服装もあって、今なら本物の女子に見える。


「なるほどな、つまりサキを笑顔にさせたら勝ちってことか」


「なんの勝負だよ」


「サキの恋人としては負けられないって話」


「つまり私が勝ったら舞翔くんは私と恋人さん?」


「そうはならんだろ」


 水萌のトンデモ発言にレンがチョップで返す。


「サキは普通に反応してくれていいから。その方がオレもやる気出るし」


「多分意識して感情を出すの無理だから大丈夫。それと顔には出なくても嬉しいからね?」


「そこは気にしてない。サキが喜ばないわけないんだから」


 嬉しいことだけど、なぜにそこだけはみんなから絶対の信頼を得ているのか。


「ということで、オレからはこれ」


 レンはそう言って俺から離れて持っていた箱を俺に渡してきた。


 名残惜しいけど、レンの耳が少し赤くなっているので仕方ない。


 続きはまた今度。


「ありがとう。開けていいの?」


「じゃなきゃサキの顔が変わらないだろ」


「やっぱり変わってないよね。これだけでも嬉しいんだけど」


 レンからプレゼントを貰うというだけでもとても嬉しい。


 だけど自分の顔を触っても案の定表情が変わってるようには思えない。


「じゃあ開けるな」


「うん。正直あんまり期待してないけど」


 レンから許可をもらい、俺は箱を丁寧に開ける。


 すると中には何かのケースが入っていた。


「マトリョーシカ?」


「違うわ。開けてみ」


 レンに言われたままにケースを取り出して開けてみる。


 すると中には二つのリングが入っていた。


「ペアリング?」


「そ、サキはオレと水萌にペアネックレスくれたからオレはサキとのペアにしようかなって」


「なるほど」


 それは純粋に嬉しい。


 きっとレンのことだから時間をかけて真剣に悩んで、そして恥ずかしながら買ってくれたのだろう。


 それを想像するだけで微笑ましい。


「まあ、サキの顔を動かすことはできなかったけど」


「心は動いたよ?」


「ありがと。ちなみに付ける必要はないから。オレもサキから貰ったネックレスはずっと飾ってるだけだし」


「正直汚したくないから使いたくはないんだよね。いつか付けるとして、いつも通り枕元に飾っとく」


「そうしてくれ」


 レンはそう言うと微笑むように笑った。


 可愛くて抱きしめたくなったけど、さすがに自重した。


 サキは人前で抱きつかれるのが恥ずかしいそうだから。


「じゃあ次は私だね。恋火れんかちゃんであの反応だから私もプレゼントには期待しないね」


 水萌はそう言って、手に持つ箱を俺に差し出してきた。


「ありがとう」


「うん! 開けていーよ」


 水萌に言われた通り箱を丁寧に開けると、中にはペアリング、今度はイヤリングの方が入っていた。


「イヤリングって水萌からしたら意外な感じだね」


「そう? まあ私ってそもそもアクセサリーとか付けないから全部意外だと思うよ?」


「それもそっか。だけどなんでイヤリング?」


 水萌ならレンと同じように指輪の方が選びそうなものだ。


 そこをイヤリングにしたのには何か理由があるような気がする。


「んとね、恋火ちゃんが指輪なのは一緒にお買い物に行ったから知ってて、同じのにしたら恋火ちゃんには勝てないからかな?」


「プレゼントに勝ち負けないって」


「でも同じものなら恋火ちゃんからの方が嬉しいでしょ?」


「否定はできないけど肯定もしない」


 そればっかりはなんとも言えない。


 水萌とレンが同じものをくれたとしても同じぐらいに嬉しいとは思う。


 だけどレンは恋人だからその分嬉しさが上乗せされる可能性はある。


 そう考えると水萌の言ってることは正しいような気がする。


「だから恋火ちゃんのプレゼントでお顔が変わらなかったから私はプレゼントでお顔を変えるのを諦めたのです」


「他に何かあるの?」


「舞翔くんのプレゼントとは関係なかったんだけど、ちょうど舞翔くんのお誕生日があるってことで、今日お披露目にしたの」


 水萌がモジモジしながら言う。


 どうやら何か重大発表があるらしい。


「水萌、サキなら大丈夫だから」


「わかってるよ。だけど怖いものは怖いもん」


 やはりと言うべきか、レンはなんのことかわかっているようだ。


 依と花宮はわかっていないようで、不思議そうな顔をしている。


「よし、じゃあすぐ終わるから待っててね」


 水萌が何かを決心した様子で立ち上がり、部屋を出て行った。


 そして待つこと数分。


 水萌が部屋に入ってきた。


 ()()()()()()()()()()()()()


「え、えと。イメチェン? ってやつです。髪は黒に戻して、バッサリ切っちゃった」


 水萌がぎこちなく笑う。


 水萌の髪の色が黒になっていて、更にショートカットと言うのか、結構短くなっている。


 そして目の色もカラーコンタクトを外して黒になっている、


「ど、どうか──」


「かわ、んぐ!」


 依が叫びそうになったのを、水萌が外に出てる間に移動していたレンが口を押さえて止める。


 目が「黙れ」と言っているのがわかる。


 つまり俺が一番に感想を言うようだ。


「水萌、正直に言っていい?」


「う、うん」


「やばい可愛いです」


 こんなの反則だ。


 ギャップというドーピングもあるのに、単純に似合っていて可愛い。


 そしてまだ恥ずかしいのか、しおらしい水萌がまた可愛い。


「ほんとに? 変じゃない?」


「何度でも言えるよ。めちゃくちゃ似合ってるし、本当に可愛い」


「あ……」


 照れるか喜ぶかの反応がくるかと思ったけど、水萌の顔には驚きが浮かんでいる。


 なぜかと思ってレンの方を向くと、レンが嬉しそうだけど少し悔しそうに、依は「ふむふむ」と言って何かを納得したような顔に、花宮は「わぁ」と嬉しそうにしている。


「なに?」


「私の勝ち!」


 水萌はそう言って満面の笑みで俺に抱きついてきた。


 どうやら俺は笑えていたようだ。


 正確には微笑んでいたんだろうけど、とにかく水萌は俺の表情を変えた。


 つまり水萌が勝ったようだ。


 だからって何かがあるわけでもないけど、俺は水萌の短くなった髪を優しく撫でる。


 その後は終始水萌が主人公で俺の誕生会? は終わった。


 依と花宮が帰った後にレンが少し不貞腐れているようだったから頭を撫でてみたら少しだけご機嫌になってくれた。

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