勇者パーティー 【1人目】
「お客様…安くしときますよ?」
「…話聞いてました? 金ないんですよ」
「またまたー、その上質な装備。稼いでいらっしゃるのでしょう?」
「…いやこれは、イスカから貰ったもので」
「アハハハ! 冗談まで得意とは!!」
かび臭い部屋だ。巷ではここは【奴隷市場】と呼ばれている。そしてここはその取引場所。もう一時間は座りっぱなし。はぁ嫌だな。
~第一章:アステルク王国編~
という訳で、俺は今店主に、ウザ絡みされている。
なんのこっちゃ分からんと思うから話すが、イスカがアステルク王国に金を用意して置いたから、困ったら取っておけと言っていた。
――なので来たのだが、その金は見つからない上に、店主にだる絡みだ。もう三日になる。毎回話しかけられるんだよな。切っていいかな? こいつ。※ダメです。
「何度も言いますが、奴隷は買いませんよ? てか勇者が奴隷買ったら世も末でしょ?」
「いえいえ、むしろ勇者様の為に奴隷が存在するのです。お仕事一人では大変でしょう?」
こいつ下に見てやがる。ほくそ笑んでるし、何よりふふふって笑っているよ。
はぁ、貧乏ゆすりが増えてきた。仕方ない。このまま話されていても時間の無駄だし、適当に見て帰るか。
「なんか、光るものがありませんね」とか言っとけば納得するだろ。知らんけど。
「(めんどくさ…)分かりました。少し案内してください。それで納得出来なければ終わりです」
「はい! ではではご案内いたしまーす!!」
◆◆◇◇◇
薄暗い路地を俺と店主は歩く。壁は石で出来ており、時折人のいない牢屋がある。足音が響く、それだけで奥が結構ある事が分かった。
「店主は暇なんですか?」
「どうしてそう思ったんですか?」
「だってあなたも知っているんでしょう? 俺が奴隷なんて買う気ない事に」
「えぇ知ってますよ。ですがね――」
店主は足を止める。先程の笑みは消え、真剣な顔になり、少し俯いた後、こちらを見た。
多分これから話すことは、奴隷店主が言っていい話では無いのだろう。だから人気のいない場所で話すのだから。
「…勇者様。何故奴隷制度があると思います?」
「…さぁ? (イスカは、仕方の無い事だって言ってたな)」
「大半の人間は勘違いをしています。人間を殺す為に奴隷制度があると。でも本当は逆で【人間を守る為に奴隷制度】があるんですよ」
店主は俯く。下を見てため息をついて横目でこちらを見る。
「奴隷には、様々な種類があります。事情で労働ができない人間。親に売られた人間。犯罪を犯したもの。それら全てが奴隷になるんです。
そして、そこで主君に買われないものは【処刑】という運命が待っています。あまりに理不尽ではありませんか? 彼らも奴隷になりたくてなっている訳では無いのに」
「それで? 俺に何をして欲しいんですか?」
「…お金は必要ありません。このまま買われなければ明日処刑になる女の子がいます。どうか引き取ってくださいませんか?」
――本音を言うと、嫌だ。イスカのチームも奴隷は居なかった。奴隷を連れている勇者なんて印象悪いに他ならない。
なので俺の返答は――
「いいですよ」
「…そうですよね。やはり勇者様の印象が……え? 今なんと?」
「ですからいいですよ。と、話をお受けしましょう。だって――」
「だって?」
店主が首を傾げる。だってさ、、そうだろ?
「明日死ぬ人間を放ったらかしにして、勇者は誰を救うんですか?」
「…そうですか。貴方なら大丈夫そうだ。その子の所まで案内いたします。どうか彼女をよろしくお願いします」
◆◆◇◇
少し歩き、大きい牢屋に着く。上を見ると【最終処理場】と書かれていた。本当に余り物なんだな。
てか安請け合いしたけどどうしよ。人語話せないゴリラ人間とか来ても困るんですけど。
「お待たせしました勇者様。コロン、挨拶なさい」
「ぽや。今日よりよろしくお願いします。勇者様。奴隷ですので、様々な事、夜の事まで全ておまかせください」
ぽや? あと夜の事はいらないです。
白髪の長髪。赤い瞳に泣きぼくろ。白い布を着た子供がそこにいた。
「コロン…ね。よろしく」
「ぽや、よろしくお願いします」
店主が間に入り、儀式をするということ。奴隷と主人を魂に刻みつけるという最後の工程らしい。
「あの、店主さん。俺は何をすれば?」
「いえ、勇者様は何もしなくてよろしいです。全ては奴隷がやりますので。では――手のひらをコロンに」
俺が手をコロンに向ける。するとコロンは、自分の手を俺の手に合わせる。向かい合わせになった手で儀式が始まる。
下に紫色の魔法陣が展開され、風が下から吹いてくる。
【鳴らせ、らっぱを 全てはご主人の為に、骨となり、灰になろうとも、すべてを与えよ。
我が主君の名を「アスラ」その名である。奴隷の名をコロン。これは破れぬ条約である。誓え旗の元に、ここに新たな契約を結ばん】
大きな光と共に、儀式が終わる。感覚的にだが、俺とコロンが繋がった気がする。いや気のせいかも。
「じゃあ、行くか?」
「ぽよ。行こう」
俺達の主従が決まったところで、外に出る事にした。
穏やかな時間が流れる中、店主が俺に小包を渡した。
「これは?」
「お金が無いのでしょう? 最低限渡しておきます。コロンが飢え死にしても困りますのでね」
…渡りに船だったな。有難いことこの上ない。実は金が無さすぎて宿すら借りれない程だった。
このくらいあれば数ヶ月分の宿代はあるだろうし、それ迄に金を見つければいいか。
とりあえず――飯にしよう。
◆◆◆◇◇
「なぁ」
「ぽよ、 何?」
「座れよ」
「ぽよ、座ってる」
「違う【床】じゃない。席に座れと言っているんだ」
飯屋に着いた。だが、問題発生。傍から見たら凄い光景だ。勇者の俺と、座っている奴隷。既に横の席がざわざわしている。あぁ、奴隷ってこんな感じか。
とりあえず儀式の影響か、俺はコロンに【敬語が使えない】という事に気付いた。
まぁこれといって支障はない。問題は――
「なぁ、コロン。俺が飯を食えば【飯を食わなくてもいい】からって、飯を食わなくても言い訳じゃないぞ? 飯を食え」
「ぽよ、じゃあ床に」
「席で食べろ。命令だ」
「ぽよ」
はぁ、やっと席についてくれたか。飯を食おう。
頼んだのは、メオウの丸焼きと、ご飯とサラダ。メオウは魚の一種で淡白で美味い。
「ぽよ、ご主人様」
「なんだ?」
「ここに着く前に話してた、昔、イスカの元に至って本当?」
「あぁ、本当だよ。コロンは信じるのか?」
「勿論。ご主人様が嘘をつくはずないから。それよりも知りたい。世界最強の勇者【イスカ】は何を教えたの?」
コロンは目を輝かしている。今の俺達は、武勇伝を楽しみにしている子供とお父さんだ。だからこそ心配だ。ガッカリしてくれるなよ?
「…何も? ただ【敵を切れ】って教わった」
「――ぽよ、え?」
まぁそういうリアクションになるよな。
~九年前~
「魔族の殺し方? 切れば死ぬ。終わり」
「いや、そういうことじゃなくて技とかを」
イスカは感覚派だった。何もかも全てやってみろ。出来ないのか? じゃあできるまでやれの繰り返し。
イスカは特に技を教えなかった。まぁ、教えられても無理だっただろうけどね。イスカが魔族を殺す時、技が早すぎて見えなかったからな。
だが――
「だからこそ言える。イスカは世界最強の勇者だったよ」
「ぽよ、そう。じゃあご主人様はこれからどうするの?」
これから? それは…
「とりあえず仲間が欲しい。イスカのパーティーは【五人】だった。俺とコロン。あと三人だな」
「ぽよ、分かった。なら酒場に行こう、あそこなら見つかる」
飯のお会計を済まして、歩く。とりあえず前衛が欲しいな。スタート地点としては少し悪いが、最悪という訳でも無い。仲間を探しに行きますか!
次回:勇者パーティー【二人目】
「そういえば、ぽよって何なんだ?」
「ぽよ口癖」
「意味は?」
「ぽよ」
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