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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『竜と人と』編
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暇潰し2

ミルデオン城にて、アンディとグレンによる禁断の書の解読作業が始まった。

そしてもう1人、助っ人としてハーフエルフのサロメが招かれた。


「わ、私なんかが王子様たちの役に立てるかわかりませんが、

 頑張りますのでよろしくお願いします……!」


「へへっ、そんな緊張しなくてもいいぜ?

 王子つっても妹ちゃんに公務丸投げするようなクズだし、

 全然大したことねー奴だからさ」


「おいおい、グレン……

 男から罵られても僕は嬉しくないよ」


サロメは反応するべきか迷った。


「そんじゃ早速だけど、古代エルフ語について教えてくれっか?

 現代エルフ語なら俺らもわかるんだけどよ、

 外から来た学者たちにも読める奴が全然いなくてな……

 とりあえず適当にいろんなエルフに聞き回ってみたら、

 お前さんなら読めるかもって意見があったんだが、そこんトコどうよ?」


「うぅ、ごめんなさい……

 私も読めるわけじゃないんです

 でも祖父が趣味で研究をしていた関係で、

 “本当の読み方”については聞いたことがあります」


「本当の読み方……?」


「はい、祖父は『目で読むだけじゃダメだ』と言ってました

 精霊魔法の力に反応させて色や匂い、音や温度などを感じることによって

 真に記された言葉を読み解くことができるそうです

 ですが、祖父は半分も理解できないままこの世を去りました

 故郷の風習で遺品と共に火葬されてしまったので、

 残念ながら研究成果は残ってないと思います……」


「ふーん、精霊魔法ねぇ

 ……こうか?」


グレンが禁断の書に魔力を送り込むと、本を保護している結界が赤く変色し、

かすかに低い笛のような音が聞こえた気がした。


「へえ、グレンさんも精霊魔法使えるんですね

 得意だと云われてるエルフでも使い手が少ないのに、

 学院ではそういうのも教えてるんですか?」


「いんや、こいつは鬼人族に伝わる古い術式だ

 その源流を辿れば精霊魔法に行き着くらしいぜ?

 いや〜、なんでも試してみるもんだな

 これなら問題無く作業できそうだ」



それから半日、3人は解読作業に集中した。

グレンは火と風の魔力を、サロメは水と土の魔力を担当し、

それぞれ感じ取った“真なる言葉”をアンディが記録する。


一見同じように見える文字でも、色や温度が違えばそれは別の文字となる。

その組み合わせは膨大であり、彼らはまだ1文字も解読できていない。


だが、ヒントは存在する。

石の魔女イルミナが手に入れた禁術、

呪いの霧について記されたページを翻訳した写しだ。

原本と見比べるとその方法の部分だけしか書かれておらず、

大部分は翻訳されていない。


わざとそうしたのか、ローズ自身も読めなかったのか、それはわからない。

もし読めるのだとしても、この本を彼女の目には触れさせたくない。






──所変わり、石の迷宮での作業を終えたアリサたちは

地上を目指して歩いていた。

大陸の外からやってきた冒険者パーティーの数は日に日に増えてゆき、

素材回収の効率は以前よりも格段に良くなっている。

去年の冬から突然ヒューゴの姿が見えなくなったのは気がかりだが、

今はそんなことよりも他の心配事があった。


「なあ、あの本渡しちまって本当に大丈夫なんだろうな?

 やべえ魔法がいっぱい載ってんだろ?

 あいつらが悪用するとは思わねえけど、

 もし悪い奴に盗まれたりしたら大変だよなあ……」


「う〜ん、盗まれても私の“追跡”で取り返せるけど、

 それより困るのは『複製を作られる』ことかな

 私が触ったことのない物は追跡できないし、

 より多くの人に危険な魔法が伝わるリスクがあるからね」


「ねーねー、そのあの本って呪いについて書いてあったんだよね?

 王子様たちが探してる、呪いの解き方みたいのは無かったの?」


「あったら教えてるよ……

 残念だけど、あのページには呪いをかける方法と、

 簡単な説明文しか書かれてなかったよ

 あとは文章になってない無意味な文字列が並べられてたんだけど、

 もしかしたらただの模様を文字と認識して変換しちゃったのかも」


「……ま、呪いを解く魔法なんざ無くても

 地道に薬の材料集めりゃいいだけの話だ

 ウナギのおかげで人も増えてきてるし、

 最初に比べりゃ随分と楽になったもんだ

 あとはこの作業をずっと繰り返してけば、

 いつかは全員が呪いから解放されるだろうよ」


「いつか、ね……」


コノハの計算によると、その『いつか』は数千年先になる。

だが、それを伝えても気分が萎えるだけなので計算結果は言わなかった。






──夜になり、解読班は本日の作業を切り上げることにした。


まずは文字のリストを作成している段階だが、前述の通り、

同じ形の記号であっても数パターンの意味を持つので、

まだ読み方の特定には至らない。


原本と翻訳版を見比べても一致しない箇所がいくつも見受けられ、

おそらく発音を示す『表音文字』と、意味を表す『表意文字』を

混合させた言語であることが推測された。

更に、隣り合う文字によっても読み方が変化する可能性が浮上し、

3人はこれが『失われた言語』と呼ばれる理由を思い知るのだった。


「古代エルフたちは、なんでこんなに読みづらい文字を作ったのだろうか

 文字は誰かに読ませるものなのに……謎は深まるばかりだよ」


「そりゃ、禁断の書なんて呼ばれるくらいだからな

 頭の悪い連中に読ませたくないからじゃねーの?」


「結局、私の名前を騙った偽者が悪用しちゃいましたけどね……」


これといった収穫は無かったものの

久々に学術的な刺激を得ることができ、

彼らは充実した気分で書斎を後にした。



そして廊下ですれ違った人物と挨拶を交わし、馬車へと向かった。



「……さっきのって、例の無人島で保護された子ですよね

 本を抱えてましたけど、こんな時間まで勉強してたんでしょうか」


「ああ、親衛騎士のパメラさんが城で面倒を見てるみたいだね

 忙しい中、子供たちに文字や計算を教えてあげて偉いよなぁ」


「暇なお前が教えてやりゃいいのにな」


「はは、言えてるね

 でも僕は今、禁断の書にしか興味が無いからなぁ……

 子供たちの成長よりも、自分の知識欲を満たしたいと思っている」


「クズが」

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