表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『竜と人と』編
86/150

聖戦3

白昼堂々、パメラとミモザは海賊のいる小島へと乗り込むことに成功した。


敵地へ潜入するなら夜、というのが鉄則ではあるが、

今回は夜を避けて行動するのが正解だった。


パメラはシバタからある有用な情報を聞かされていた。

『“闇の獣”は夜行性の生き物』なのだと。


おかげで黒いニョロニョロとは遭遇せずに済んだ。


「しかしまあタチアナの報告通り、

 見張りの1人も置いていないとは……

 アリサも『素人臭せえ』と言っていたな

 ……全く同感だよ だからといって気を緩めたりはしないがな」


以前お伝えした通り、鳥人(ハーピィ)のタチアナは偵察に向いている。

飛行能力と高い視力。その能力を存分に発揮してもらった結果、

驚くほどすんなりと敵の潜伏先を見つけ出せたのだ。


目的の“黒い死神”は最強且つ最大の戦艦。

全身真っ黒なので夜なら目立たないが、

太陽の光に晒されれば、そりゃ一目瞭然だ。

その小島には船を隠せる洞窟があるのに、

彼らはなぜかそうしなかった。



王国も帝国も最強の戦艦ばかりを警戒し、

ある可能性を見落としていたのである。


それに乗っているのが旧公国の元貴族たちなら、という可能性だ。


まさか盗んだ船に乗り続ける間抜けがいるわけがない。

そんな先入観に囚われていたのだ。


シバタは一刻も早く敵の正体を伝えようとしたのだが、

アンディ王子の従者がしょっちゅう医務室に訪れるせいで

カバンの外に出る機会を失い、それは叶わなかった。

ようやく出られた時には王女たちは帝国に出向いており、

結局、1ヶ月間も有益な情報を持ち腐れていたのだ。


だが今、パメラはその情報を全て把握した上でこの場にいる。


コノハの不思議なカバンと共に。



パメラはカバンに手を突っ込み、何やらゴソゴソとし始めた。

目的のモノを取り出そうとしたが、出入り口に引っ掛かる。


そうだったと思い出し、四隅に切り込みを入れる。

コノハが大事にしているカバンで気が引けるが、

本人によると翌日には自動的に直るとのことだ。


その言葉を信じ、パメラは今度こそカバンから取り出した。



石の魔女イルミナを。



「どっ……えええぇぇっ!?!?

 なん……なんでえええぇぇっ!?!?」


ミモザは驚くしかなかった。


カバンから人が出てきたこともそうだが、

よりにもよってそれが王国を混乱に導いた張本人であることに、

どう理解すればいいのかわからなかったのだ。


「おい、大声を出すな

 いくら敵が間抜けとはいえ、相手は100人以上いるんだ

 この作戦は気づかれたら終わりなんだ

 事前にそう伝えていただろう もっと慎重に動け」


そうは言われても情報の整理が追いつかない。

てっきりこの後も何度か往復して兵隊を運ぶのかと思いきや、

パメラはもう準備完了といった表情をしていた。


作戦の詳細を確認しなかった自分にも非はあるが、

何かぶっ飛んだことをするのなら事前に知らせておいてほしかった。


「それは後で説明する

 ……とにかく今は時間が惜しい

 石像になりたくないのなら、このカバンの中に入れ」


『カバンの中に入れ』。初めて聞くフレーズだ。

余計に混乱するばかりだが、パメラはもっと重要なことを口走っていた。


『石像になりたくないのなら』。


それは、つまり、あれだ。



呪いの霧で海賊どもを一網打尽にする。そういうことだろう。




パメラは手段を選ばなかった。


冬が来て、国民の飢える姿など見たくはない。

速やかな事態解決を望むなら、たとえ罪人の手だろうと借りる所存だった。

それが、王国を混乱に陥れた張本人であってもだ。



イルミナは見返りを求めなかった。


彼女が協力した理由はただ一つ。

王国の希望として送り出した船を襲った海賊が憎い。

ただそれだけの理由で、パメラの作戦に乗ったのだ。



2人の愛国者が手を組んだ結果、

史上最も愚かな聖戦は一瞬で終結した。

海賊たちは見えない霧に包み込まれ、

何が起こったのかすらわからないままに石像と化したのだ。


147人。


そのうち3人は旧公国の元貴族であり、

グランベルム大公、ヴィゼル卿、バート卿だと判明した。

他の者たちについては面識が無いが、後々わかることだろう。


少年少女が6人、おそらく奴隷の子供たちだろう。

彼らを罰しようとは思わないが、石化の復活は後回しにせざるを得ない。


そして、呪いの霧を免れたのが1人。



名も無き奴隷の少年……彼に尻尾は無いが、頭には立派な角が生えていた。






──不思議なカバンからコノハやシバタ、その他約100名が取り出される。

海賊の被害から逃れることに成功した乗員たちだ。

彼らのほとんどはあの夜から時が止まっており、

沈みかけの船から見知らぬ島への瞬間移動に困惑していた。


そんな彼らをまとめ上げるのは船長だ。

これから王国に帰還するが、国民をがっかりさせたくないので、

用意したシナリオ通りに口裏を合わせてほしいとのことだ。


筋書きはこうだ。

ハルドモルド港から旅立った彼らの船は難破してしまったが、

運良く流れ着いた小島にたまたま盗まれた戦艦があり、

そこには最初から147体の石像があった。

おそらく帝国が呪いの被害に遭った時に巻き込まれたのだろう。


海賊なんて最初からいなかったことにしたい。

それは王国も帝国も同じ意見だった。


生還者たちに断る理由は無く、皆、口裏を合わせることに同意した。



トントン拍子で上手く事が運ぶ状況に、

ミモザはただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


そんな彼女の肩に、パメラの手がそっと置かれる。


「ミモザ、今回はご苦労だったな

 お前のおかげで王国は救われたようなものだ」


「いや、何言ってんの……

 アタシはなんもしてないし……

 そのカバンは一体なんなのよ……

 なんで王妃がここにいんの…………

 ああ、もうっ! わけわかんない!」


「まあ落ち着け

 後で全部説明してやるから、

 とりあえず今は仮眠を取ってくれ

 危険性は低いと思うが、

 万が一に備えて体力は温存しておいた方がいい」


「えっ……はあ?

 危険性? 体力を温存? ……って、待って!

 アタシの役目は終わったんでしょ!?

 みんなであの船に乗って帰るんだよねえ!?

 まさかアタシだけ泳いで帰れとか言わないよねえ!?」


「はは、そんな酷いことを言うわけがないだろう

 ただちょっと、手土産を持って帰ろうと思ってな……」


「手土産……?」


「ああ、お前にはこれから“闇の獣”の捕獲を手伝ってもらう」


ミモザは顔を歪めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ