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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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旅立ち2

ハルドモルド帝国の港にはフレデリカ王女をはじめ、

彼女に付き従う騎士や大臣などが出揃い、

ある冒険者パーティーの旅立ちを見送っていた。


石の魔女を2度も打ち倒し、

治療薬の材料を回収する方法を編み出したミルドールの英雄、


その名はアリサ。


彼女がこの大陸から離れる時が来たのだ。



まだ別れの言葉を告げていないにも関わらず、

フレデリカは人目を(はばか)らず子供のように泣きじゃくった。


実際、彼女はまだ成人していない身であり、

彼女だけでなく件のアリサも歳が近い。


そんな少女が魔女の脅威に立ち向かい、打ち勝ったのだ。


フレデリカには彼女が物語の主人公のように見えた。

自分もその物語の登場人物の1人として関わることができて誇らしかった。


どうもアリサは大勢から褒められるのが苦手なようだが、

この国を救った人物の名を残さないわけにはいかない。


彼女が旅立った後、本を書こう。

フレデリカはそう心に誓った。




「……んで、おめえらは残るのか

 嫌な思い出があるし、てっきり出て行くのかと思ってたぜ」


アリサに話しかけられ、ニックは不満そうに返答した。


「ケッ!

 俺はすぐにでもこんな大陸とはおさらばしたかったんだけどよぉ、

 お人好しのブレイズとサロメが復興の手伝いをしたいんだとよ!

 まったく何考えてんだかなぁ……割に合わねえよ!」


そう言いつつ、ニックもここに残って手伝うのだろう。


結局は彼もお人好しなのだ。

ブレイズもサロメもそれをわかっているから一緒にいるのだろう。

似た者同士の集まりで、いいパーティーだと思う。


彼らから借りた金はいつか返そう。




続いてアリサは、白い鎧に青いマントを羽織った青年に話しかけた。

特別一般兵兼自由騎士のフィンだ。


「しかしまあ、おめえも随分と出世したよなぁ

 魔物の1匹も倒せなかった、あのおめえがなぁ」


「その時の話は勘弁してくれ……

 あれは敵が硬すぎたんだ

 他の冒険者たちに確認を取ってみたけど、

 魔法無しであの魔物を倒せる戦士なんて

 ほんの一握りしかいないそうじゃないか」


「へえ、オレ以外にもできる奴がいたのか

 現場じゃ全然見かけなかったけどな」


「ああ、大柄な獣人や鬼人が数人がかりで取り押さえて、

 別の戦士が巨大な鈍器で叩き続ければいけるらしい

 ……斧一振りだけで破壊できるのは君くらいしかいないだろうな」


呆れたように伝えるフィンの口ぶりから、

アリサは自身の特異性に疑問を抱いた。

今この瞬間にではなく、だいぶ前から関心はあったのだ。


「なあフィン、ずっと前に密猟者の話をしたよな?

 竜人の角とかを狩ってる連中がいるってやつだ

 それってどこで起きた事件なんだ?」


アリサは知りたかった。

自らの種族、竜人という謎多き存在を。


少なくともミルドール王国には1人もいなかった。

もし他の竜人がいれば、アリサと同じく石化を免れていたはずだ。

しかしその痕跡は見当たらず、もし仮に誰かがいたのだとしても、

これまでにアリサとは出会わなかった。


それならばこちらから会いに行けばいい。



アリサたちは、この国に金が無いという理由で出て行くのではない。


正直この王国には思い入れがあるし、このまま滅びてほしくはない。

なので冒険者として自分たちにできることは何かないかと考えた結果、

ミルドール王国はもう安全なのだと言い広めようということになった。


よその大陸との交易が復活すれば外貨を獲得できる。

この国を苦しめている財政難を解決できるかもしれないのだ。


その目的のついでに、竜人についても調べてみたい。


これはそういう旅なのだ。




「アリサ、お前には本当に助けられたな……

 もしあの時お前がいなかったらと思うとゾッとするよ」


親衛騎士団団長兼黒騎士団団長のパメラ。

最近は常に忙しそうにしており会話する機会が無かったが、

彼女も大事な友人の1人であることは間違いない。


団員のみんなにもなんだかんだで世話になった。

セシルはこの場に来ていないが、きっと忙しいのだろう。仕方ない。


彼女たちはこれからも王女の腹心として側に仕え、

この国を明るい未来に導いてくれるだろう。






──そして、とうとう別れの時が来た。


旧アル・ジュカ公国の逃亡貴族に全ての船舶を奪われてしまったものの、

大陸内各国の技術者たちが協力し合い、新しい船を完成させたのだ。

これでようやく他の大陸との連絡が取れるようになる。


その第一号として、ミルドールの英雄たちが搭乗してゆく。



冒険者アリサ。


竜人(ドラゴニュート)の少女で、パーティーの前衛を担当している。

これまでに遭遇した魔物のほとんどは彼女1人が処理しており、

その異常とも言える怪力で、近接戦闘においては無敵の強さを誇る。



冒険者ユッカ。


猫精(ケットシー)の少女で、天性の直感に優れている。

非力だし魔法も使えないが、その警戒能力には幾度も助けられてきた。

それと、ただ可愛いというだけで味方を作れる魅力があるので、

今後の冒険でも活躍が期待できる。



冒険者コノハ。


純血種の人間で、頭の良いリーダー。

計算能力や解読の技術に優れ、不思議なカバンを持っている。

本人は目立ちたくないスタンスのようだが、

それなら変なポーズをやめればいいのにといつも思う。



冒険者ローズ。


まだ信用できないエルフ。

強力な魔法の使い手だが、随分と頭が悪く隙が大きい。

自惚れた発言もムカつくし、いびきがうるさい。




その他にも革命の英雄シバタや錬金術士なども乗り合わせ、

船内はあっという間に満員となった。


彼らもべつに大陸脱出が目的というわけではなく、

ミルドール王国のためにできることをしようという算段だった。

それぞれ方法は違えど、目指すべき未来はどうやら同じのようだ。



それぞれの信念を貫くべく、彼らは希望を胸に旅立った──。

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