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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『石の魔女』編
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残されし者4

頭上でガンガンと衝突音が鳴り響く。

不揃いな大きさの石の塊がしきりに降り注ぎ、

盾を構える腕が痺れ、首や腰への負担も大きい。

まっすぐに盾の中心に落ちてきてくれるならまだしも、

端の方に重いのが来られると、水平を維持するのが辛くなる。


「なるほど、これが石の雨か

 よく半日も耐えられたな……

 フィン、すまないが交代してくれ」


パメラは地図を受け取り前方へ、フィンは盾を持って後方へ回る。

迷宮初挑戦の2人は前後交代しながら1枚の盾を共有し、

中央のアリサは2枚の盾で頭上と側面を守る、密集陣形による移動。

敵への攻撃は一切せず、防御だけに特化した作戦だった。


身体能力の高いリザードマンですら()を上げる、石の迷宮特有の現象。

それは、降ってきたストーンスライム同士が衝突して砕け散り、

その破片が養分となって新たなストーンスライムを生み出し、

また降っては砕けてを繰り返す、石の迷宮本来の姿である。


「並の強さを持つ魔物が大体10日程度で復活するのに対し、

 小型で弱い魔物はその半分の時間もかからないと聞きます

 更にこいつらは自滅することで回転効率を高める性質があるそうです」


「まったく厄介な相手だ

 アリサ、他の冒険者が活動していた時は

 ここまで激しくは降ってこなかったのだろう?

 どうやって抑えていたんだ?」


「んぁ? そんなん聞かれてもな〜

 オレにゃ(こいつ)をぶん回すことしかできねえし、

 そいつの方が詳しいんじゃねえの?」


2人がフィンに目を向ける。

実際その通りで、見張りとして知っておくべき知識が身についている。


「……おそらく魔法の影響でしょう

 魔法で倒された場合は死体が魔力の煙となって霧散し、

 物質として再構築するまでに時間がかかるそうです」


「そうか、なるほど

 次に来る時は魔法使いがいれば楽になるのだな?

 救援に応じてくれる者の中にいればいいのだが……」


ストーンビーストを魔法で攻撃すると素材が壊れ、

更に復活までの期間も延びてしまう。


アリサは言いかけたが、口をつぐんだ。




石の雨を掻い潜り、3人は中層との間にある第1キャンプへと到着した。

テントは3つしか無く、ただの荷物置き場と化していた。


「……誰もいないようだな

 とりあえず本日の目標は達成した

 まだ日没前だとは思うが、早めの夕食を取るとしようか」


「おっし、メシだメシ!

 ちゃちゃっと作ってくれよな!」


「君が一番重労働をしたはずなのに、

 全然疲れているようには見えないな……」


フィンは思い違いをしていた。

この強行軍で最も負担を強いられているのは

最弱の種族、“人間”である彼自身だった。

自らの無力さを受け入れ、少しでも役に立とうと

震える両手に鞭打ち、調理係を名乗り出る。


肉と野菜を挟んだパン、豆のスープ、温かいミルク。

簡素ながらも英気を養うには充分な食事だった。

今は食材を節約するべき状況ではあるが、

アリサの豪快な食べっぷりに気圧(けお)されてつい、

おかわりまで用意してしまった。


そんな彼女は食後すぐに毛布に(くる)まり、

いくらもしないうちに寝息を立て始めた。


「冒険者ってすごいですね……

 安全地帯とはいえ、こんな環境で寝付けるなんて……」


「冒険者というより、これがアリサなのだろう

 お前も休んだ方がいい 明日はもっと歩くぞ」


「見張りなら俺が……」


リザードマン特有の鋭い眼光が、それ以上喋らせなかった。

休むのも仕事だ。無理をすれば潰れてしまう。

たぶん、そう伝えたかったのだろう。


フィンは毛布を被り、横になって目を閉じた。


「一つだけ訊かせてくれ

 お前はなぜ同行を願い出てくれたんだ?

 その熱意の理由を知っておきたい

 差し支えなければ、だが……」


パメラからの質問に、体勢はそのままで答える。


「……兄は退屈な暮らしが嫌で農村を飛び出したんですがね、

 念願の兵士になれたとの知らせが来た直後に石にされたんですよ

 それだけなら、まあ……家族が石にされたってだけの話なんですが、

 石像が広場に集められた後、酷いことする奴がいましてね……」


「酷いこと? ……まさか」


「はい、おそらく子供のいたずらでしょう

 有名な“首無し兵士の像”は俺の兄なんです

 この10年間、治す方法を調べてきましたが

 そんなものは見つかりませんでした

 ……兄に関しては正直もう諦めていますが、

 せめて他の石像たちを救いたいってとこですかね

 それが、残された者としての使命だと思ってます」


「そうか……

 よく話してくれた

 私の力が必要な時はいつでも声を掛けてくれ

 可能な限り、なんでも協力すると約束しよう」


「団長……

 ありがとうございます」




一方その頃。


馬人のキリエは鳥人のタチアナを背に乗せ、

ミルドール王国南方に広がる大平原を駆けていた。


「キリエ!

 ずっと走りっぱなしじゃないか!

 少しは休んだ方がいいよ!」


「心配するなタチアナ!

 馬人のスタミナをみくびるんじゃない!

 国家存亡の危機なんだ!

 夜が明けるまでには辿り着いてみせる……!」


親衛騎士の2人に与えられた任務は他国への救援要請。

向かう先は、かつて300年の永きに渡り王国と戦争を繰り広げた大国、

大陸最大の国土を誇るハルドモルド帝国であった。

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