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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
68/150

つないだもの1

「いやっ、あのっ、

 私は断じて陛下の石像を倒したりなんかしてません!

 私が駆けつけた時にはもう、その……最初から倒れてました!」


有罪(ギルティ)──。


「そうか……まあ、どちらでもよい

 石化している間にどのような経緯があったにせよ、

 あの苦しみを味わったのが、わしだけで本当に良かった……

 セシルよ、疑って悪かったな さぞかし気分を害しただろう

 心より謝罪しよう ……本当にすまなかった」


無罪(イノセント)──。


「いえいえいえ!

 私は全っ然、気にしてませんから!

 もう大丈夫なんで! ホント気分害したりしてないんで!」


有罪(ギルティ)──。




会話を終えた国王はセシルを下がらせ、

部屋から去ろうとしていた錬金術士を呼びつけた。


「チッ、また引き止められちまったよ……

 勘弁してくれよなー 俺は早く飲みに行きたいんだよ」


「そうか、それは申し訳ないことをしたな

 だが、お主にはちゃんと感謝と謝罪をせねばなるまい

 まずは治療薬を完成させてくれたこと、心より礼を言いたい

 お主は未来の患者を救った英雄と言っても過言ではないだろう

 それから……家族を人質に取ったりして本当に悪いと思っている

 信じてもらえぬだろうが、わしは一刻も早く国民を救おうと焦っておったのだ

 そのために強引な手段に走り、強制的に働かせてすまなかった……」


「いや、まあ人質の件はいいとして……

 俺は最初から、この完全な治療薬を作る気だったんだよなぁ

 あんたが俺に接触しなくても結果は変わらなかったんじゃねーかな

 それにまだ壊れた石像に効くのか試してないし、

 薬が完成したとは断言できないぜ?」


2人とも嘘をついていない。


国王は本気で国民を救いたかったということになる。

その方法は間違っていたが……。



話し終えた錬金術士が部屋を去ろうとするも、

今度はフィンさんが彼の退出を引き止めた。

きっと、お兄さんの“首無し兵士の像”に関することだろう。


しかし今、私が観察するべきは国王のような気がしてならない。

彼だけでなく、王妃にも注意が必要だ。

あの夫婦は世界征服を企んでいた邪悪な存在だが、

こと国民に関してはどうやら本心から大事に思っているようだ。


そこに嘘は無い。



錬金術士に続き、今度は医者が呼びつけられた。

薬を欲しがっているのではなく、前者と同じく会話が目的だった。


「お主には特に世話になったな……

 こんな傲慢な男の看病など、嫌気が差しただろう?」


「ええ、仰る通りです

 私は怪我人も病人も嫌いですからね

 この世から1人もいなくなればいいと思っております

 そのために医術を学んだのです

 まあ、訳あって業界から干されてしまいましたが……」


「ほっほっ、正直でよろしい

 その上に媚びない姿勢……やはりお主に任せて正解じゃったな

 他の医者に任せていたら、きっと今頃……

 わしは薬漬けの廃人になっていたかもしれん

 今こうして正気で会話できているのは、間違いなくお主のおかげだ

 この命は今日までお主が繋ぎ止めてくれたのだ 誠に感謝している」


「それが私の仕事でしたからね」


「もしお主が医学の道に戻りたいというのなら、

 わしのコネを最大限に使って業界に圧力をかけられるが……」


医者は少し考え、そして少しだけ嘘をついた。


「陛下、お忘れですか?

 私はただ、薬の知識があっただけの庭師に過ぎません

 あの業界に未練など微塵もございません

 それよりも今は屋敷の修繕の方が優先事項です

 庭師として、本来の業務に戻らせていただきます

 ……ヤブ医者の世話になりたくなければ、

 これからは健康的な生活を心掛けてください

 それでは失礼いたします」


彼は国王に背を向けて言い放ち、速やかに退出した。


「むぅ、相変わらずクールな男じゃのう……」






──医務室を出ると、錬金術士が待ち伏せていた。

彼の隣には特別一般兵とかいう妙な立場の青年もいる。


「よう先生!

 クソジジイの話は終わったみたいだな!

 俺らはこれから飲みに行くんだけど、先生も来てくれよ!」


「いや、私は遠慮しておく」


「なっ……!

 そんなツレないこと言うなよ〜!

 これは言わば祝勝会みたいなもんなんだぜ!?

 先生と俺で共同開発した、完全治療薬の完成祝いだぜ!?」


「お前なあ……

 さっき『完成したとは断言できない』と自分で言ったのを忘れたのか?

 何か理由をつけたいのだろうが、結局はただ、酒を飲みたいだけだろう?

 実はお前も依存症なんじゃないのか? 危険な兆候だ……」


「いやいや、考えすぎだって!

 こんなのコミュニケーションの一環だろ?

 一杯だけでも付き合ってくれると嬉しいんだけどな〜……」


やはり私はこの男が苦手だ。


彼に悪気は無いのだろうが、私は酒をやめた身だ。


何度も経験してきたからわかる。

何度も失敗してきたからこそ、わかってしまうのだ。


その一杯が命取りになることを。



「……あの、それならこうしませんか?

 酒場みたいな騒がしい場所じゃなくて、

 喫茶店とか、落ち着いた場所で話し合うというのは……」


おお、空気の読める青年。


絶好のタイミングで助け舟を出してくれた。

彼はきっと仕事ができるし、モテるはずだ。


「う〜ん、喫茶店ねぇ……

 まあ、飲めりゃあなんでもいいか! 水分には違いねえや!」



それはどういう理屈なんだ……?

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