表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
65/150

赦し3

禁断の書を巡って殺し合いが始まろうという空気の中、

ユッカはその純真さを発揮し、場を困惑させた。


「急に友達になろうとか……

 いや、あんた何言ってんの……?

 今のこの状況、わかってる?

 わたしはあんたらの敵なんだよ!!」


火に油を注ぐが如き行為。

エルフの怒りは更に激しく燃え上がる。


しかしユッカは怯まない。


「せっかく自由の身になれたのに、

 また捕まるようなことしちゃダメだよ!

 あたしにはアリサがいてくれたけど、

 エルフさんには誰もいないなんて可哀想だよ!

 だから、あたしがお友達になりたいの!」


ユッカには無実の罪で10年間、服役した過去がある。

エルフは魔女の疑いをかけられ1年間、牢屋の中にいた。

状況は違えど、ユッカにはエルフの気持ちが痛いほど理解できた。


彼女には救いが必要だ。


「エルフさんもお金が欲しいんだよね!

 だったら、あたしたちと一緒にいた方が絶対にいいよ!

 どうせその本読めないんでしょ!?

 それなら悪いことで稼ぐのはもうやめて、

 冒険者のお仕事を頑張った方がいいんじゃないかな!

 コノハはお金の稼ぎ方が上手だから任せても大丈夫だよ!」



ユッカがチラリとこちらを見る。


いや、そんなキラーパスを渡されても困る。


冗談じゃない。

勘弁してほしい。


なんでユッカはあの性悪エルフを勧誘してるんだろう。

そりゃ冤罪の被害者として同情してるんだろうけど、

王妃を唆した黒幕だし、アリサを殺そうとした女だ。

どう言いくるめようと改心するようなタマには見えない。



「……黙れクソネコ!!

 わたしは1人が好きなんだよ!!

 友達なんていらないんだよ!!

 今までも、これからも……!!」



ほら、本人も否定してる……って、あれ?


嘘発見器(ジャッジメント)”に反応が……。



「わたしと仲良くなれると思ったら大間違いだバーカ!!

 いらない同情されて迷惑してるんだよ!!

 もうあんたの顔なんて見たくもない!!

 早くどっか行け!! シッシッ!!」



あ〜、“嘘発見器(ジャッジメント)”に反応がぁ……。


本当に勘弁してよもう……。

ツンデレ要員なんて、うちじゃ募集してないよ……。



「とにかく、わたしはその本さえ取り返したら

 こんなクソ大陸とはさっさとおさらばしたいんだよ!!

 おとなしく返さないってんなら、力ずくで奪い返すまでだ……!!」



あ、これは本気で言ってる。

まずいな。どうにかしないと……。



…………。



……あ、そうだ。


「王女様、私に禁断の書をいただけますか?」


「え?

 はい、構いませんが……

 いかがなさるおつもりでしょうか?」


古代エルフ語で綴られた本。

禁断の書をたしかに受け取った。

王女様を利用したみたいで若干モヤるけど、今は緊急事態だ。


とりあえず「いただけますか」と確認を取り、相手の了承を得られた。

正当な取引でそれを入手することができたという事実が重要だ。


これでこの本は()()()()()になった。

不思議なカバンに収納することが可能になったのだ。



「おい、黒髪ィ!!

 わたしの本を勝手にしまうな!!

 そのカバンをこっちによこせ!!」



エルフはそろそろ我慢の限界のようだ。

戦闘になれば、おそらくこちらに勝ち目はない。


私にできることは、ただ一つ。


私は彼女に言われた通り、

禁断の書を収納したカバンを放り投げた。


そこらじゅうから「あ〜!」という声が聞こえてくる。

「何やってんだよ」とか「渡しちゃダメだろ」とか、

それはまあ、当然の反応だろう。


でも、これでいい。



私は既に、この戦いに勝利したのだ。



「ちょっ……入ってない!?

 えっ、なんで……おい黒髪ィ!!

 このカバン、中身空っぽなんだけどぉぉぉ!?」


エルフはカバンを地面に叩きつけ、こちらへ蹴り飛ばした。

少し汚れてしまったが、これくらいなら自動修復機能で明日には元通りだ。


私はカバンを拾い上げ、中に手を突っ込んだ。


「ユッカ、お腹空いてる?

 クラブハウスサンドがまだ余ってるんだけど……」


「食べるー!」


取り出したのは言った通り、クラブハウスサンド。しかも出来立てときた。

セバンロードで食料調達を任された際、少し多めに仕入れておいた物だ。


エルフも、他の人たちも、何が起こっているのかわからない様子だった。

ついさっきエルフがカバンをひっくり返しても何も出てこなかったのに、

そこからヒョイヒョイと食事に飲み物、口を拭くためのナプキンなど

様々な物が出てくる光景は、まるで手品のように見えただろう。



「ごちそうさまー!」


私は食べ終えた食器を乱雑気味にカバンへ放り込むが、

ガチャガチャとぶつかる音はしない。

それはまるで、別の空間に吸い込まれるかのように消えていった。



そして、再びそれをエルフの足元へと投げた。


彼女は急いで中身を確認するも、

そこには食器はおろか、何も入っていない。


何百年も生きているであろう彼女でも、

こんな魔法は見たことが無いという反応だった。

私自身も不思議なカバンの原理を理解しているわけではないが、

大事なのは、中身を取り出せるのは私しかいないということだ。



「ご覧の通り、そのカバンの中身を自由に扱えるのは私だけなのよね

 私を殺したら、あなたの欲しがってる物は永遠に手に入らなくなるよ?

 もし他の人たちに危害を加えたら、その時は完全に消去させてもらうね

 ……さあ、どうするの? このまま無駄に戦って、大事な本を失う?

 それとも私の指示に従って、真っ当な冒険者として生きてみる?」



そう、不思議なカバンは私専用なのだ。


私や、私が許可した者以外は中身を取り出すことができないし、

無限収納や無期限保存などの便利機能も利用できない。


あのエルフが欲しがっている禁断の書は、

今や人質(ひとじち)ならぬ物質(ものじち)……いや、普通に(しち)でいいのか。


とにかく主導権は私にある。



「くっ……そおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」



エルフは敗北を認めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ