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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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赦し2

時は少し遡り、50人近い団体が狭い医務室でひしめき合っていた頃。


王家の屋敷が焼け落ちたと聞き、彼らは調査隊を編成していた。

使用人たちは晩餐会の裏方として駆り出されていたので人的被害は無いはずだ。


問題はその目的だ。

ただの金目当てならば、わざわざ燃やす必要があるだろうか。

これは国家転覆を狙う者たちによる宣戦布告なのではないか。


黒騎士たちは戦慄した。



そんな中、親衛騎士団団長パメラは英断を下した。


「キリエ、タチアナ、カチュア

 今すぐお前たちにやってほしいことがある

 むしろ、お前たちにしかできないことだ

 これは最重要任務だと思ってくれ」


いつになく真剣な団長の表情に、3人は固唾を飲み込んだ。



そして3人は一足先に王家の屋敷へと向かった。


誰よりも早く、速く、疾く──。




まずはキリエ。


タチアナとカチュアを背に乗せ、

残りのスタミナを一切考慮せずに全力で駆け抜けた。


彼女は判断ミスを犯しているのではなく、

団長からの指示通りに動いているのだ。


何も考えず、ただ突っ走る。

なんと気持ち良いことだろうか。

馬人の本能が疼く。


ただ前へ、前へ。走れ、走れと。




しばらくしてキリエが失速したのを感じ取り、続いてタチアナが動き出す。

鳥人の彼女は小柄なカチュアを抱え、大空へと羽ばたいた。


誰かを抱えて空を飛ぶことなど初めての経験であったが、

非力な彼女でもカチュア程度の重さなら運べるようだ。


自分1人の時より当然ペースは落ちるが、

それでも目標地点までの距離を稼ぐには充分だった。




タチアナの体力が尽き、最後はカチュアの出番だ。

彼女に与えられた任務はただ一つ。



『禁断の書を確保せよ』



報告では全てが焼け落ちたとのことだが、実はそうではなかった。

コノハの追跡能力により禁断の書は無事だと判明し、

それを聞いたパメラが速やかに対策を講じたという流れだ。


コノハは自身の特殊能力を打ち明ける結果となったが、

今はそんな些細なことを気にしている場合ではない。

あの危険物が悪者の手に渡ってしまったら

第二、第三の魔女が生まれてしまうかもしれないのだ。



カチュアは探した。

焼け落ちていない本を。


あれは保護魔法により守られていた。

何万年もの大昔に施された強力な結界が

今も尚、その効力を発揮していたのだ。



「──あったぁ!!」



古代エルフ語で綴られた書物。

これこそがミルドール王国を恐怖に陥れた災いの元凶、

禁断の書で間違いない。


当然、彼女にそれを読めるはずもないが

表紙の文字と、事前に渡されたメモの記号が一致する。


かくして彼女たちは与えられた任務をやり遂げたのだ。




そして忘れてはならない。

報告を完了するまでが任務なのだと。


「団長!

 我々は見事、成し遂げました!

 禁断の書を確保するという、

 最重要任務を達成いたしました!」


3人は息を切らし、汗だくになりながらも報告完了し、

これにて最重要任務は完璧に達成されたのだ。



「あーーーーーーーーっ!!!

 それ、わたしの本ーー!!!」



邪悪なエルフが見ている前で。



パメラは両手で顔を覆い隠し、

何が間違っていたのか自問自答した。


部下は完璧に仕事をこなしてくれた。

彼女たちが悪いわけではない。

ただ、タイミングが悪かったのだ。


よりによって、一番()()を持たせてはいけない人物の前で報告するとは……。


そのエルフは王妃を唆した張本人なんだぞ?

まさしく、その書物に記されている禁術を教えた人物だぞ?

今、大陸中が混乱しているのは誰のせいだと思っているんだ?


パメラはやり場の無い怒りに(さいな)まれた。



「エルフさん! ダメだよ!

 あの本は悪い本なんだよ!」


「あぁァアッ!?

 なんだとクソネコォ!!

 わたしの邪魔すんなあぁぁ!!」


横槍を入れたのはユッカだった。


彼女はあまり状況を理解できていないが、

物事の本質を見る目は誰よりも優れていた。


直感。


彼女に与えられた天賦の才だ。

その直感が、このエルフに禁断の書を持たせてはならないと告げたのだ。


「あれはわたしの本なんですけどーー!?

 自分の持ち物取り返して何が悪いんですかねーー!?」


たしかにそれは正論かもしれない。

だが、それを取り返したところで誰も幸せにはなれない気がする。


特に、エルフ本人が不幸になってしまう気がしたのだ。



ユッカとエルフが揉めている隙を突き、

パメラはカチュアから禁断の書を受け取り、

急いでそれをフレデリカへと渡した。


元の所有者が誰であれ、今は王家の所有物なのだ。

王女であるフレデリカに持たせるのが道理というものだろう。



「ちょっとぉぉぉーーー!!!

 わたしの本、盗らないでくれますかねぇぇぇーーー!!!

 この国の王家は嘘つきと泥棒しかいないんですかねぇぇぇーーー!!!」



エルフは怒り、そして魔力を集積し始めた。

大気中のマナが異常な速度で彼女の元へと吸い込まれる。


かつてない規模の大魔法で、ここにいる者たちを全滅させる気だ。


魔力解析の能力を持つコノハはいち早くそれに気づいたが、

魔女キラーのアリサがいない今、打つ手は無いように思える。


それでも凡人なりに頭をフル回転させ、

この状況を打開する手は何かないかと模索した。



異変を感じ取ったフィンとジークがエルフを止めようとするも、

彼女の周囲には既に不可視の防壁が設置されており、

2人の戦士は壁に阻まれて何もすることができなかった。


エルフは蛇人種族ではないので呪いの霧こそ使えないが、

それ以外の魔法では完全にイルミナの上位互換とも呼べる存在だった。


今からアリサを呼びに向かっても間に合わない。

この壁を突破する方法はあるのだろうか。

どうにかしてあのエルフを倒さなければならない。


その場の皆がそんなことを考えている中、

ただ1人だけは対話による解決を諦めていなかった。



「エルフさん!

 あたしとお友達になろうよ……!」

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