残されし者3
ミルドール王国を襲った2度目の危機。
その様子を外から見ていた人物がいた。
「へえ、あっしはしがない行商人でして、
そん時ゃ馬車の車輪が外れてたもんで、修理をしていやした
夜だったもんで月明かりを頼りに作業してたんですがね、
急に空が紫に染まったかと思えば、次の瞬間にはドーン!ですわ
町を歩けばどこもかしこも石像だらけで、こいつぁびっくらこいた!」
「……そうか わざわざ足を運んでもらってすまないな
今は無事とはいえ、いつまた魔女の攻撃があるかもわからない
一刻も早くこの国から離れたいだろう 部下を護衛につけよう」
「いやいや、お構いなく!
こんな時だからこそ商人の出番でござんしょ!
あっしの持ち込んだ商品を是非、皆さんのお役に立ててくだせえ!
……もちろんお代は頂きますがね」
「商魂逞しいな……
必要な物資があれば検討しよう」
親衛騎士団団長パメラは商人を下がらせ、
各方角へ送り出した団員からの調査結果を整理し、
“呪いの霧”の効果範囲を地図に書き記した。
「前回の被害は王都だけで済んだが、
今回は国全体にまで及んでいるようだ
もはや我々だけの手に負える状況ではない……
キリエ、タチアナ 調査から戻ってきて早々に悪いが、
至急、南北の大国に出向いて救援要請を出してきてほしい」
馬人のキリエと鳥人のタチアナは連絡要員として適任であった。
しかし、
「団長!
まだ断片的な情報しか集まっていない中、
他国の手を借りるのは早計ではありませんか!?
国王陛下の判断を仰がずにそんな決断をなされて、
後々、責任問題に発展してしまわないでしょうか!?」
「責任だと?
それなら今、取っている最中だろう
残された国民の安全を守るという、重大な責任をな
それに、陛下の所在はわからないままだ
今この場にいない者の意見など知ったことか
お前たちは何も心配しなくていい」
「団長……!
わかりました!
それでは行って参ります!」
2人が部屋を出る。
正直、商人を連れてくる必要性は感じられなかった。
その場で話を聞けば済んだことだろう。
彼は居座る気だ。おかげで守らねばならない対象が1人増えてしまった。
しかし部下を叱ることはできない。現場の判断に任せたのだから。
暖炉の薪がパキパキと音を立て、窓の外を見やる。
あの雪が溶けるまでに事態は収まるだろうか。
翌朝、石の迷宮の調査隊が結成された。
「冒険者アリサ、
下級兵士フィン、
それと私の計3名だ」
「えっ……おいおいおい!
なんか少なくねえか!?
国家の一大事なんだろ!?
おめえんとこの部下はついてこねえのかよ!」
「がっかりさせてすまないが、
我々は王女殿下の世話係として働いていた者がほとんどで、
戦の心得があるのは武人の家系の生まれである私だけなんだ
……とは言っても魔物と戦った経験は無いがな
足を引っ張るかもしれんが、鋭意努力はさせてもらうぞ」
パメラが仲間になった。
「団長、結局1人も集められず申し訳ございません
他の兵士たちは結界の外へ出るのが怖いようで……
あいつらは臆病者です! まったく嘆かわしい!」
「まあ落ち着け、お前が来てくれたではないか
彼らの気持ちもわかる、責めないでやってくれ
それに、この場に残り国民を守る者も必要だ
皆それぞれに役割がある それを忘れるな」
「団長……!
俺、頑張ります!」
フィンが仲間になった。
「つうか、最強の黒騎士団とかゆーのはどうしたんだよ?
なんでこの城に1人もいねえんだ? 王様もいねえしよ」
「彼らの所在については調査中だ
野外演習でしばらく城を空けるという話を聞かされ、
黒騎士団が不在の間、我々が留守を任されていたのだ
そのタイミングを狙われたのだろうな」
「それはつまり、魔女は演習の日程を知っていたということですか?」
「まだなんとも言えないが、その可能性は高い
そのへんの情報収集は部下に任せてある
戦いには向かないが、優れた能力を持つ者たちだ
彼女らの働きに期待し、我々は迷宮の調査に集中しよう」
冒険者ギルドにて地図を回収後、3人は迷宮の前までやってきた。
フィンは歪んだ大盾を拾い上げ、石化した見張りの兵士に近づいた。
「本当なら俺がこうなっていたんだ……
この先輩と仕事を交換させられてな、
迷宮の見張りは気楽だからって理由だ
……まあ、そのおかげで助かったよ
使えそうな道具は有効利用させてもらおう」
盾、兜、小屋にあった燻製肉やチーズなどの食料品、
ランタンに差す油、毛布、包帯、消毒液……。
他にも実用的な道具はいくらでもあったが、全ては持てなかった。
今回の調査は暫定で往復3日の予定なので、
それより長く保存できる食料や不必要な荷物はその場に残し、
進行に影響の無い範囲で全員の装備を配分した。
不思議なカバンのありがたさが身に染みる。
小さい物ならいくらでも入り、食べ物が腐らない。
アリサたちの冒険を劇的に楽にしてくれた神アイテムだ。
「さて、調査の目標を再度確認しておこう
大雑把に説明すると、
初日で第1キャンプまで駆け抜ける
2日目は第2キャンプにて無事な者を探す
3日目に帰還という流れだ
できれば解除薬の材料も集めておきたいところだが、
その魔物は何者かに討伐されてから日が浅いそうだ
復活するまでにはまだ時間がかかるはずだ」
ストーンビーストを倒したのが自分だということは話していなかった。
目当ての素材が排泄物であり、倒す必要が無いことも伝えるべきだろう。
しかし、アリサは考えあぐねていた。
コノハから他言しないように命令されたのだ。




