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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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招かれざる者1

窮地に駆けつけたのは冒険者のユッカ、コノハ、

王女フレデリカ、親衛騎士パメラ、そして謎のエルフであった。


彼女らはセバンロードから帰還後すぐに城へと移動し、

途中で合流したミモザやフィンから事情を聞き、

絶好のタイミングで救援が間に合ったのだ。


しかしコノハは不可視の防壁に気づき、

仲間たちが先に進まないように警告した。


「みんな、気をつけて!

 王妃は2重の見えない防壁を張ってて、

 一度中に入ったら出られない仕掛けになってるの!」


「え、それじゃああたしたちが来た意味無いの!?」


「そんなことないよ!

 さっき見た通り、外から魔法を撃ち込めるからね!

 魔法の撃ち合いになれば魔力量の多いこっちが有利だよ!

 王妃のMPが切れるまで、あの人に頑張ってもらおう!」


エルフに目配せすると彼女は舌打ちし、

だが、コノハの作戦には素直に従った。


現状、王妃と魔法で渡り合える実力者は彼女だけだ。


しかし能力的にはエルフの方が圧倒的に強いのだが、

防壁が仕事をしているおかげで攻撃が届かない。


「ユッカ、お使いを頼んでもいい?

 石の迷宮での仕事仲間から、

 手の空いてる人を何人か連れてきてもらいたいんだけど……」


「ふぇっ!? 今!?

 でももう夜だし、雨降ってるし、来てくれるかな〜?」


「大丈夫、ユッカのお願いなら断らないよ」


ユッカは不安だったが、コノハは自信ありげにニッコリと微笑んだ。


リーダーは成功を確信しているのだ。

ユッカは指示された通り、石の迷宮へと向かった。



「パメラさん

 厨房を押さえておきたいんですが、頼んでもいいですか?

 説得するなり、力ずくで制圧するなり、方法はお任せします

 ……とにかく敵に食事を行き渡らせないようにしたいんです」


「補給路を断つというわけか……

 わかった、任されよう

 ……姫様とコノハ殿はどこか安全な場所へ避難してください」


パメラは急いで厨房へ向かおうとしたが、

避難してほしい2人から引き止められた。


「いえ、私は内側の防壁の仕様を解析してみます

 実際に触ってみないと発動しないんですよ

 この“第三の瞳(サードアイ)”という能力はね──」


左手で右目を隠す、お決まりのポーズ。


コノハは全ての特殊能力を明かしたわけではないが、

とりあえず魔力解析に関しては王女たちに開示した。

というのも、同じような魔法は存在しているので、

彼女だけのオリジナルだとは思われないだろうとの寸法だ。


目立ちたくないけどカッコつけたがりの面倒な女、それがコノハだ。



「わたくしも逃げるつもりはありません

 いえ、逃がすつもりは無いと言うべきですね

 王妃(あのひと)は保身のために防壁を展開したのでしょうが、

 皮肉にもそれが自身を閉じ込める檻となったのです

 この絶好の機会をどうして見過ごせましょうか

 わたくしも魔女と戦う覚悟でこの場に参ったのです

 ならば、わたくしにしかできない方法で戦ってみせます」


そう言うとフレデリカは魔女のいる方向へとまっすぐ進んでいった。


「ひ、姫様……!?」


彼女に迷いは無かった。


一度踏み入れたら脱出できないとわかっていながら、

王女は自ら防壁の中へと入っていった。



「……さあ、いかがいたしますかお母様?

 貴女の計画を邪魔しようという娘を、石にしますか?

 それとも安全圏から魔法攻撃を仕掛け、殺しますか?

 大勢の貴族が観ている前で、それを実行できますか?」



王女は自ら人質になったのだ。



世間体。


見栄っ張りの母親が大事にしているものだ。

いくら娘が憎かろうと、殺してしまったら世間体が悪い。


フレデリカはそれをよく理解していた。



「ウオアアアアァァァァッ!!!」



しかし、極端に気が短い性格までは完全に把握できていなかった。


王妃はためらわずに呪いの霧を放ってきた。

観客がいようといまいと関係無かった。

そこまで考えが至らなかった。


イルミナは我慢を知らない女だった。



2重の防壁や氷の結晶で魔力を消耗したせいか、

紫の霧の規模はとても小さく、この会場を包み込む程度だった。

だが、それだけあれば充分。嫌いな娘さえ排除できればそれで良い。


若く美しい娘の顔など、もう見たくはない。



フレデリカは読みを外したが、

これはこれで悪くない結果だとも思った。


呪いの霧は残りの魔力をほぼ使い切る大技だと聞いている。

これで攻撃の手が止み、防壁の維持も難しくなるはずだ。


それに石化するだけなら死にはしないし、

魔女の本性を曝け出すことができた。


邪魔ならば実の娘だろうが構わず石にしようとする攻撃性。

それを観客たちに見せつけられただけでも上出来だろう。

どんな感想を抱くかは彼ら次第ではあるが……。




『疾風よ、舞え……!』


突如、足元から吹き上がった風が紫の竜巻となり、王女を守る。

それは、地下室へと続く螺旋階段の結界と同じ魔法であった。


ナイスエルフ。


彼女はフレデリカを呪いの霧から保護したのだ。

石の魔女に禁術を教えた張本人でありながら、

今はその魔女と敵対し、決着をつけようとしている。



「クッ……!!

 クソエルフゥゥゥッ!!

 なんでお前がここにいるぅぅぅっ!?

 牢屋にいたはずだろうがぁぁぁっ!!」



またもや魔法を妨害され、たまらずイルミナは叫んだ。

自分を騙した宿敵。そして禁断の力を授けてくれた恩師。

その相手が今、なぜか目の前にいる。


国王も王妃も、一つ重要なことを忘れていた。



王妃が魔女だと白状してしまった以上、

このエルフを捕らえておく理由が無くなったのだ。



彼女は脱獄したわけでも、王女が便宜を図ったわけでも、

コノハが裏技めいた能力を使ったわけでもない。


無罪が確定したので、普通に釈放されただけである。



「──禁断の書(わたしの本)、返してくださいね」


エルフは怒っていた。

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