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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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許されざる者2

みんな、笑っていた。


国王、王妃、貴族、従者……。

晩餐会に参加した者たちは、全員笑い飛ばした。


真実を。


「……くそっ、こいつら信じてねーな!?

 こちとら全部本当のこと言ってんのによぉ!!」


「冒険者の俺たちだけならともかく、

 黒騎士も親衛騎士も証言してるのにな……」


「力不足で面目ない……

 我々親衛騎士はお遊び騎士団などと呼ばれており、

 正規の騎士団として認めていない方も多いので……」


「でもボクたち頑張ってるよね!」


国王の忠告通り、真実を伝えても無駄だった。

恥をかかされたとは思っていないが、嫌な気分だ。


追い討ちをかけるように、国王が防壁のそばまで寄ってきた。


「やれやれ、だから無駄だと言ったのに……

 年寄りの言葉には耳を貸すもんじゃぞい」


「なぁにが『ぞい』だクソッタレめ!

 テメー、本当はそんな喋り方じゃねーだろ!

 白髪だけど年寄りってほどの年齢でもねえし、

 何から何まで嘘ばっかじゃねーか!」


その指摘に国王の眉がヒクついた。

このゴブリン、なかなか鋭い目を持っている。


「ほっほっ……

 まあ、わしのことはともかく、

 会場の者たちがなぜ笑ったのか理解しておらんようじゃな」


「ケッ!

 そんなん、酔っ払って知能が低下してるからだろーが!

 まあ、こんな奴らに信じてもらわなくて結構だ!

 この大陸にはまだ50以上の国が残ってることだしな!

 せいぜい最後の晩餐を楽しめよ! じゃあな、あばよ!」


ニックたちは立ち去ろうとしたが、


「く……クックックっ…………!」


国王の意味ありげな、不快な笑い声が聞こえてくる。


「チッ……構ってらんねえ!

 無視だ無視! 行こうぜ!」


そう、立ち去るのが正解だ。

こちらが何を言おうと、彼らに響くことはない。

真実を語るなら、聞く耳を持っている相手でないと意味が無い。


更に言えば、防壁内から一方的な攻撃を仕掛けられる前に逃げた方がいい。



「──わたくしの正体、石の魔女フォオオオオーーーー!!!」



一同は思わず立ち止まり、声の主に注目した。


確かに今、自分が魔女であることを告げたのだ。

魔女疑惑を否定してきた、あのイルミナ王妃が、大衆の前で。


「夜の女王! 石の魔女!

 2つ合わせて夜の魔女!!」


「Wiiiiiiiiiitch !!」


観客たちは盛り上がるものの、それほど熱を感じない。

そして、誰も『魔女』という単語に特別な感情を抱いている様子は無かった。


「おいおいまさか、この感じ……

 こいつら、知ってやがったな……!?」


「……まさにその通り

 彼らにはもう、妻の正体を伝えてある

 その時は大盛り上がりだったんだがな……

 今宵の晩餐会は、それを発表するためのお披露目式でもあったのだ

 前回は娘のせいでフライング発表しそうになり焦ったが、

 ともあれ計画通りに事が進み、今では安心している」


国王は老人言葉を使わなかった。

これが素なのだろう。


それはともかく、自ら正体を明かした意図がわからない。

そんなことをしてどんなメリットがあるというのか。


「全ては国民の幸せのため……

 この未曾有の危機に瀕したミルドール王国を救うには、

 石の魔女の力を借りる必要があるのだ」



「…………は?」




国王が何か言い出した。


酒が入っていようとシラフだろうと、

どっちみち理解に苦しむ発言であることには変わりない。


この国は、この大陸は、魔女のせいで甚大な被害を受けたのだ。

それをなんだ、魔女の力を借りる?……意味がわからない。


「我が王国にはかつて1億の民がいたのだが、

 それが今や千人しかおらず、復活のペースも遅くなってきておる

 このままでは国が滅ぶ未来しかない……

 そこでわしは考えた

 失われた人口を取り戻すにはどうすればいいのか、とな」


「地道に復活させてくしかねーだろ」


「考えた末に出した結論は『領土拡大』だ

 他国を取り込んでミルドールの支配下に置き、

 そこを拠点に更なる拡大を目指し……

 ゆくゆくは『大陸統一』を成し遂げる」


「大陸統一宣言……旧公国が失敗したってやつだな」


「だが大陸統一は通過点にすぎない

 我々の目指す先は……世界だ!

 余は、『世界征服』をここに宣言する……!!」


「アホか」



呆れ返るニックたちとは逆に、観客たちは大歓声を上げて盛り上がった。

これはまだ発表されていなかったことなのだろう。


「夜の王から大陸の王へ!!」

「大陸の王から世界の王へ!!」

「ミルドールに栄光あれ!!」


「侵略開始だーーー!!」

「敵を蹂躙せよーーー!!」

「破壊の限りを尽くせーーー!!」


盛り上がる観客を手で制し、国王は訂正を加えた。


「……皆の衆、勘違いしてはならない

 これから行う計画には蹂躙も破壊も必要無い

 誰1人として命を失うことのない領土拡大……

 言うなれば、世界一優しい侵略なのだ」


「世界一優しい侵略……あっ、そうか!」

「たしかに命を失わない方法があるな!」

「……俺たちがその体現者だもんな!」


「ほほほ、お察しの通りですわ

 このわたくしの呪いの霧ならば、

 一滴の血も流さずに国を手に入れることが可能なのですよ

 国を手放すか、国民全員が石になるか……

 それを各国のリーダーに選ばせるだけで終わる戦いなのです」


王妃は指先から紫の煙を立ち上らせた。

本当に隠そうとすらせず、観客も怖がっていない。

復活した者が再び石化しないことも伝わっているようだ。


石の魔女はもう、この国の希望として受け入れられてしまったのだ。



世界征服を企むイカれた夫婦がすぐそこにいるのに、

防壁に阻まれた彼らは、ただ無力だった。

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