漲る2
「どうだブレイズ、まだ痛むか?」
「ああ、少しな……
まったく、どうして俺たちがこんな目に……って、うおお!?」
「なんだよいきなり……って、うおぉぉ!? アリサァ!?」
ニックとブレイズが石化から復活した。
さっきまで2人しかいなかった部屋に
いつのまにか知り合いのアリサがおり、
更には知らない人が5人もいる。
この状況にも、これから聞かされることにも、
彼らはただただ驚くばかりだった。
2人は困惑しつつも現状を受け入れ、
これから何をすべきか考えた。
「──あ〜、ちょっと待ってくれ
俺らが1年も石化してたってのはもうわかったから、
一旦、この話は中断させてくれ
あと1人、仲間がこの施設のどこかにいるはずなんだ」
「え、仲間?
おめえらコンビで活動してただろ?」
「それを言ったらそっちも同じだろうよ
あの黒髪の女、つい最近……でもないか
……とにかく俺らも人数を増やしたんだよ
今は3人で活動してる 大事な仲間だ」
「彼女の名前はサロメで、種族はエルフだ
どこかで見かけてないか?」
「サロメ」と聞いてアリサは条件反射的に嫌悪感を抱いたが、
今ではそれが偽名だということを理解している。
それでも、どうしても嫌な印象が頭から離れない。
本物のサロメには悪いが、この感覚は払拭できそうにない。
「なあ、フィン
仕事ほっぽり出して悪りいが、
オレはそのサロメってエルフ探しを優先するぜ」
「ああ、構わない
……というか俺もそうするつもりだ
親衛騎士団の皆さんも、それでいいですか?」
反対する者はいなかった。
そして……。
「──いました!
こっちへ来てください!
確認をお願いします!」
キリエの呼び掛けに全員が駆けつける。
そこにあった石像は紛れもなく彼らの仲間、
ハーフエルフのサロメだった。
食事中だったのだろう。
手にはスプーンを持ち、大きく口を開けている。
机に何も無いのは不自然だが、それは前回来た時に
フレデリカたちが台所まで下げておいたからだ。
それを今、カチュアは思い出したのだ。
ニックとブレイズは安心した。
彼女は鍵の掛かった部屋に閉じ込められてはいなかった。
少なくとも自分たちよりはマシな扱いを受けていたはずだ。
「アリサ!
石化解除薬はまだあるのか!?」
興奮気味に問うニックだったが、
彼はすぐに勘づいてしまった。
アリサはこちらを2人組だと思い込んでいた。
薬も2つしか用意しておらず、
さっき使い切ってしまったかもしれない。
「悪りい、今は持ってねえんだ
……でも安心しろ すぐに用意してやっからよ」
思った通り、自分たちのために使われた。
しかし、『すぐに用意する』という彼女の言葉には
信頼してもいい何かがあった。
決して、落ち込む自分たちを慰めているのではない。
この1年で薬の量産体制が整ったのかもしれない。
それならば彼女の自信にも説明がつく。
もしそうなら薬の材料となる石の薔薇の価値も暴落しているだろう。
だとするともう、この国で冒険活動しても儲けが出ないはずだ。
仲間を取り戻したらさっさとよその大陸へ渡ってしまおう。
ニックは頭の回転が速かった。
「──つまり、サロメさんは王妃の身代わりとして、
石の魔女の汚名を被せられようとしていたんですね?」
「ああ、まったくとんでもねえ王様がいたもんだ!
サロメの人の良さまで利用しやがってよお!
あいつは俺たちと違って、軟禁されてたんだ!
おいアンタ、この意味がわかるか!?」
フィンは少し考え、口を開いた。
「……あなたたちが人質になっているから、
逃げるという選択肢は無い…………そういうことですか?」
「そうなんだよ……!!
逃げようと思えばいつでも逃げられたんだ!!
でも、サロメは逃げなかった!!
出会って間もない俺たちを心配して、逃げなかったんだよ……!!」
ニックは拳を固め、肩を震わせた。
隣のブレイズも机の下で拳を作り、歯を食い縛った。
聴取を行ったフィンも、立ち会った親衛騎士たちも、そしてアリサも、
彼らがどんな目に遭ったのか知れば知るほど胸糞悪くなってくる。
この国を悪い方向へ導いているのは石の魔女だけではない。
国王レオンハルト。
この男こそが諸悪の根源のような気がしてきた。
「……んで、あのクソジジイは今どこにいんだ?」
静かに訊いてくるアリサは少し不気味だ。
声が低い。彼女は怒りを抑えているのだ。
「たしか……今夜あたりに晩餐会がある、と
大臣たちが不満を漏らしていたな……
おそらく会場はいつものミルデオン城だろう
もし違かったら、王家の屋敷に殴り込もう」
どうやらフィンも乗り気らしい。
「なんだか面白そうなことになってきたじゃな〜い
アタシも前々からあの王様、好きじゃなかったのよねぇ」
「私にできることがあれば、
なんでもお申し付けください!」
「もちろんボクも手伝うよ〜!」
親衛騎士団もこちらの味方のようだ。
「おい貴様ら!
一体なんの話をしているんだ!」
カチュアはまあ、置いていこう。
「みんな……すまねえ」
深々と頭を下げるニックの肩に、相棒の大きな手が乗っかる。
「……こういう時は『ありがとう』だろ?」
顔を上げると、闘志に満ちたブレイズの横顔があった。
彼の視線の先には、かけがえのない仲間たちの姿があった。




