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そして少女は斧を振るう  作者: 木こる
『嘆きの王』編
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薬を求める者たち5

私は屋敷に連れ戻された。


正気を取り戻した国王が激怒し、

私1人のために黒騎士団の総力を捜索に充てたらしい。


それこそ正気の沙汰とは思えない行動だが、

そのおかげで私はまだ戦うことができるのだ。


「くそ……なんでこんなことに……」


不機嫌な錬金術士と共に。


聞けば彼は石化解除薬を開発した男であり、

後遺症の治療薬開発のため、国王が復活させたようだ。

どうやら家族を人質に取られているらしく、彼に拒否権は無い。


やはり私はあの男が嫌いだ。


「……んで、先生よ

 医師の見解ってやつを聞かせてくれ

 あんなクソジジイ助けたくはないが、

 さっさと薬完成させて家族を解放してやらないとな」


「先生なんて呼ばないでくれ

 私はただの庭師だ

 たまたま薬の知識があっただけの、な

 ……あんな症状は見たことがない

 外傷は無く、骨も筋肉も正常に繋がっている

 呪いの影響には間違いないのだろうが、

 その呪いの仕様すら未知のままだ」


「いきなり手詰まりってわけかい

 いっそのこと痛み止めの代わりに毒でも盛って、

 終わりにしちまった方が早いんじゃあないの?」


私は冷静さを失い、気づけば机を叩き、怒鳴っていた。


「馬鹿なことを言うな!!

 私だってあんな男を助けたくはないが、

 命を奪うために医術を学んだわけではない!!」


「お、おいおい本気にすんなよ

 ただの冗談だってば……」


「冗談でも言うんじゃない!!」


私はこの男も嫌いだ。




それから私たちは無言で過ごし、

それぞれの仕事に打ち込んだ。

私は患者へ投与する薬物の管理を、

彼は石化後遺症の治療薬の研究を。


「あ〜〜〜!!

 もう無理だ〜〜〜!!」


「もう諦めるのか!?

 まだ初日だろう!?」


まったく、なんて男だ。

こんな奴が本当に石化解除薬を作り出した錬金術士なのか?


「あん? 諦めるぅ?

 違う違う、そうじゃないって!

 解除薬作る時も缶詰め状態だったから、

 外に出てパアーッと息抜きがしたいんだよ!

 先生だってそうだろ?」


「いや、私は特に……」


「なんだよツレねえなあ!

 アンタも同じ境遇なんだろ?

 誰を人質に取られてんだ?」


「……お前と一緒にするな

 私はただ自分の仕事をこなしているだけだ」


「ハアァ!?

 じゃあ、善意であんなクズを救おうとしてんのか!?

 んなわけねえよなあ!?

 いくら金を積まれたんだよ、この腐れ外道が!!」


ああ、なんとうるさい男だろう。

人格を勝手に決めつけて、責め立てる。

あとで別々の部屋にしてもらうように頼んでみよう。


「……私はあの男を貴重なサンプルだと思って接している

 あの症状は今はまだ国王にしか発症していないが、

 今後復活する者たちの中にも必ず、同じ症状を訴える者が現れるはずだ

 その人たちを救うために国王の体を使い、検証を重ねているだけだ

 だから、まだ死なれては困る それだけの話だ」


石化解除薬が量産され始めてから、これまでに約3千人が復活している。

その内訳を見ると石化してから数ヶ月しか経っていない者がほとんどで、

更には上流階級の者が大半を占めており、安全な室内にいた者ばかりだ。


10年以上石化していた者や、野晒しにされていた者には注意が必要だ。


「国王の石像は倒れた状態で発見されたそうだ

 ……これは完全に私の憶測なんだが、おそらくは石になった後に転倒し、

 その時のダメージが残っているのだと思う

 私の仮説が正しければ、今後はもっと大量の痛み止めが必要になるはずだ

 石化から復活したことを後悔するほどに、苦しむ者が大勢生み出される

 だからこそ私は作り上げなければならない……安全性の高い鎮痛剤をな」


(がら)にもない。

少々熱く語ってしまった。


どうせこのポカンと口を開けている間抜けには響かない。


「……先生ぇ!!

 酷いこと言って悪かった!!

 アンタ、本物の医者だよ!!」


「おい、抱きつくな気色悪い!!」


私はこの男が苦手だ。






──夜の歓楽街。


大量の人々が行き交い、いかがわしい店の前では

肌面積の多い女性たちが呼び込み活動を行なっている。

色とりどりの看板、お香の混ざった匂い、殴り合う男たち。


“眠らない街”……ここはそう呼ばれているらしい。


「なぜ私はこんな場所にいるんだ……」


隣には例の、ちゃらんぽらんな錬金術士。


「ウヒョー!

 見ろよ先生! 大盛況じゃねーか!

 どこもかしこも人だらけ!

 この国もまだまだ終わっちゃいねーなぁ!」


たしかに人口密度は高いが……、

彼らの多くは他国から出稼ぎに来ている労働者たちだ。

それはサービスを提供する方も、享受する方も同じだ。

ミルドール王国の民は一体どれくらいいるのだろう。


「ほら、先生ももっと楽しもうぜ!

 せっかく外出許可が降りたんだしさあ!」


「いや、私は元から自由の身だ

 というか、なんでお前は出られたんだ……」


「ん〜、逃げる心配が無いからじゃあないの?

 ほら、俺って家族を人質に取られてるわけだしさ!」


「そんな状態でよく楽しめるな!?」


私はこの男がわからない。



そんな、困惑する私に話しかける小男が現れた。

勘弁してくれ。こんな所、さっさと立ち去りたいんだ。


「ヒヒヒ、お兄さん元気無いねぇ……

 いいクスリあるよ? 1本試してみる?」


無視しようと思ったが、私はつい反応してしまった。


「何? 薬だと……?

 おい商人、それは正規の手順で流通している医薬品か?

 薬物販売の許可証を見せてみろ 商品の取扱説明書もな」


「な、なんだよアンタ……医者か?

 くそっ、面倒な奴に声掛けちまったぜ……」


小男はボリボリと頭を掻きながらも指定された書類を取り出し、

私はそれにじっくりと目を通して真贋を精査した。




「──どうやら本物のようだな」


私がそう言うと、小男は素早く許可証を取り返し、

勝ち誇ったような表情を浮かべながら(のたま)った。


「ヘヘン、どうよ

 ウチは本物しか扱ってないんだよバーカ!

 まったく余計な時間取らせやがって……

 商売の邪魔だからあっち行け!」


「在庫はどれだけあるんだ?」


「ぁあア!?

 まだなんか用があんのかぁア!?」



「……その“夜の獣”を、全部買い取らせてもらおうか」

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